4 魔法使いの女性
一階層にとある女子がいた。ゴブリンの集団に追われている。今にも泣きそうだった。それを堪えて彼女は必死に逃げていた。
「無理しなかったのにッ。なんでっ、何でこうなるの!! 来るなぁ!!」
逃げては杖で叩いてまた逃げるの繰り返し。いつの間にか二階層まで来ていた。
「魔法を使う余裕がない。このままじゃッ!!?」
その時、脚に剣が突き刺さる。激しい痛み、地面に受け身を取れずに転がった。思わず悲鳴を出す。ずっと叫んでいたい程の苦痛。しかし、戦わなければ死ぬ。
「嫌ぁっ!!」
杖で追い払おうとするが肩と腕に噛みつかれた。抵抗をするが武器を持っているのに素手で顔を殴ってくる。
「痛い!! お願いやめて!! 抵抗しないからっ」
しかし、止む事はなかった。抵抗しなくなったので今度は服を破り始めた。魔物は痛がっている姿を見て喜んでいた。この魔物の習性は学んでいる。叫ぶ力もなくなった頃、決断する。いっそのこと殺された方が楽なのかもしれない。
(あの剣で自害した方がッ)
最後の力を振り絞り剣に手を伸ばす。自分の首を切ろうとするが妨害を受けた。
(嗚呼、それすらも許されない……)
この時間帯は人が少ない。魔物以外の気配が無い。そんな事は分かっていたが、掠れる声で助けを求める。
「<虚構の翼>」
知らない声がダンジョン内に響いた。聞いた事もない魔法名。それと同時に十体はいたであろうゴブリンが一瞬で消滅した。音も形も見えなかったのに。確かに何かが起きた。
(なに……が?)
「大丈夫……じゃないか」
誰かから話しかけられたが、言葉を返す余裕はなく意識を失った。
☆ ☆ ☆ ☆
気を失ったので、<ヒール>を使い介抱する。倉庫から素材を取り出して破れた部分の修繕をする、魔法で。彼女が目を覚ました。
「ぅ……ん。ここは?」
「一階層。入口の近くだよ」
寝ている間に転移を使った。彼女が急に叫び声をあげた。
「ッゴブリンはっ……あ、確かっ」
混乱していたが、やがて落ち着いた。
「助けてくれたんですね。ありがとうございます」
(ダンジョンは自己責任……だけど体が勝手に動いた)
「いえいえ、とんでもない」
「本当に……貴方が居なかったら今頃私は……」
思い出したのか涙目になっていた。
「魔法使いのジョブですか?」
「え、ええ……貴方は?」
無しなのに強いのを説明するのは面倒なので適当に言う。仮面を付けている時はそのキャラを通そう。
「……剣士」
「でもさっき変な魔法を……」
「魔法剣士」
「ええええ!! 凄い!! 魔法剣士の方なんですか!! 失礼ですがお名前は!!」
「ト、あっ。ギ……シデン」
「トアギシデンさん?」
「いや、ただのシデンです」
(ふぅー。まったく考えてなかった。とりあえず話を変えよう)
「魔法使いなのにソロはきつくありません?」
「……実は私、探索者育成高等学校の二年生でF組なんです」
(教室真上っ。シデンで良かった)
「LVが低いし、魔法使いなのに魔法が下手で……誰もパーティーを組んでくれないんです」
「ちなみにLVは?」
「3です」
彼女の悲しい表情。学校での彼等の嘲笑する声と表情が蘇ったようだ。それでもとソロで頑張っている。自分が馬鹿にされるのはまだ良いが、この子がそんな目に遭っていると考えると腹が立った。
「辛くないですか?」
「弱いので……仕方ないですよ」
「暫く一緒にLV上げしませんか? 貴方はきっと強くなれる」
驚いた表情を見せた。馬鹿にされなかった事が嬉しかったのか微笑む。しかし、すぐに俯いて弱々しい言葉を絞り出す。
「申し出は有難いですが、ご迷惑になりますので……」
「大丈夫。丁度暇してましたっ」
「そ、そういうことなら。よろしくお願いします」
「ええっと、お名前はー……?」
長く黒い髪、綺麗な黒の瞳。身長は20cmほど小さい。布系統で白、黒、茶色の服、マントを着用している。普通の魔法使いと言った感じだ。ただとんがり帽子だけはミニハットサイズ、特注のようだ。可愛らしい仕上がりになっていた。
「風下蓮奈っていいます。ええっと初対面でアレなのですが。ペアを組むなら敬語は……」
(命を預ける相手。そして長い言葉は伝達速度の低下につながる)
「分かった。無しでいこう」
レナは頷いた。そこで気持ちを切り替える。
「オホン、オホンっ。それで、これからどうする?」
「当然俺が前衛をする。レナは魔法で援護をお願い」
それに同意する。心強いと感じている様子。彼女がふと下を見るとギョっとした。帯剣しているモノ。それは探索者たちの剣。彼等が捨てたモノを拾い、使いやすく加工したものだ。
30階以降にいるゴブリンには知能が高いのが幾匹か存在し、ダンジョン内で採取出来る鉱石を加工して作っている。
「ゴ、ゴブリンソードっ……」
「……ドラゴンスレイヤーだよ」
「そ、そうなの!??」
「うん。凄くスレイできる」
「ど、ドラ、ゴブ、ドラ……」
困惑の表情をしていたが、圧倒的な力で助けられた事を思い出す。彼女はそれでもいいかと思ってしまった。
「ドラゴンスレイヤーだね!!」
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