46 魔物使いの命令は絶対・・・
キョウは西へ高速で移動していた。道中に何人か助けたが、接触せずにすぐに別の場所へと動く。そして、ついに魔物大量発生の元凶を見つけた。ダンジョン内に空間転移をする。
「おい、何してる?」
「!? いったい何処から湧いた……」
「なるほどな。群れのボスだけを操り、効率よく魔物をダンジョン外に出していたってところか」
手の内を一瞬で看破された。全てを見透かすような瞳。その堂々とした振る舞いに男は冷や汗が止まらない。しかし自分とて経験は積んでいる。幾度も困難を乗り越えてきた。
男は状況を把握するために、冷静に辺りを見渡して他に敵がいないかを確認した。どうやらこの男一人のようだ。想像していた最悪の事態ではない事に安堵する。この男を倒せば捕まる事はない。
「一介の探索者如きに我が作戦が見破られるとは……我に与えたこの屈辱、死をもって償え」
手を前に出し、使役した魔物に命令を下す。
「やれ!! 愚か者の首を食い千切れぇ!!」
しかし、魔物は動かない。暫く待った。しかし、魔物は動かない。魔物を見ると目が合った。しかし、一向に動かない。
「お、おい? 早くあいつを食い千切れって……」
「どうやら魔物の方が賢いようだな。俺と戦いたくないらしい」
「はぁ? 思い上がりも甚だしい!! 奴に裁きの鉄槌をッ。さあ行けぇい!!」
男が厳しい口調で命令すると、腹を立てた魔物が腕に噛みついた。
「ぎゃあああああ!! 何をするぅ!! 離せ!!」
男を捕獲するために一歩近づくと魔物はそれに過剰に反応し怯え出す。主人を置き去りに一目散に逃げ出した。男はようやく理解したのか尻もちをついた。
「な、な何者だ!!」
「デッド」
「デっ。お前があの!!」
頭に手を置いて記憶を探る。個々の犯行か、黒幕がいるのか。目的は何か。時間がないので手短に済ませる。
(黒幕がいるようだが、対策されてるな。こいつ、依頼人の重要な情報をまったくもってない。街中を荒らす命令を受けただけか。劣等感……ただ利用されたようだな)
「さて……」
「ひぃ!! 許してくれ!!」
「ここはダンジョンだ……」
「あ……ああ。た、助けてくれ!!」
「お前がしてきたことを考えれば何をされても文句は言えないよな?」
「しゃ社会が悪いんだ!! この社会が!! 俺がこうなったのは全部!!」
(……とはいえ。こいつにはまだ喋ってもらわないとな。ギルマスに引き渡す。時間がない。処理はあっちに任せよう)
この男を記憶を覗いた時、もう数人ほど同じような命令を下された者がいる。そいつらを一掃する。探索者ギルドの廊下に転移する。ドアをノックする。
「誰だ?」
「今回の元凶の一人を捕まえたので引き渡そうかと」
「……聞いた事のない声だな。何者だ?」
「デッド」
「デッドだとぉ!!!! ……は、入れ……」
ギルマスは状況に困惑する。しかし、アポイント無し。ならば正直に応対しなくても咎められる事はない。追い出しても誰も文句は言えない。
だが、真偽は分からないが犯人を捕まえたと言っている。今は緊急事態、臨機応変さが求められる。ここはギルドマスターとしての矜持を見せねばならない。
彼は決断する。舐められないように。警戒を怠らずにデッドという男を招く。室内に入るとデッドは捕まえた男を放り投げた。
「こ、ここは!! さっきまでダンジョンにッ。なんでこんな所に俺はいるんだぁぁあ!!」
「少し静かにしてくれ」
そう言うと男は両手で口を塞いで黙った。
「これは?」
「西に移動していた魔物使いだ」
「!!? な、なんだと……本当か」
「そ、そうだッ。ククク、我が力!! 我が魔物を使いッ、街を滅茶苦茶にしてやったんだ……ぁ……」
反省してない物言い。彼を睨むと小さくすみませんと謝った。ギルマスが特殊な手錠を取り出し、男を捕獲する。
「西方面の魔物はこれ以上急激に増える事はないはずだ。俺は他にも街を壊そうとしている奴を捕まえに行く。だからこいつを任せたい」
都内周辺で悪さをする者、少し外れた県で悪さをする者、もう一人の魔物使いはダンジョンを徘徊し、北上する者。それと北海道と九州にも暴れている奴等がいる。それらを全て捕まえる。
「やはり関連があったか。各地は対応に追われ混乱している。しかし、闇に潜んでいた君が……何故今回は?」
「食えないおっさんに頼まれたんで……」
ギルマスには心当たりがあった。恐らくは校長だ。
「……君はここに戻ってくるのかね?」
「犯人を運んでくるくらいはする。でもそれ以上は干渉しない」
「いや、十分だ。正直状況が状況。今はただ協力に感謝する」
話し終えたデッドがドアを開けて廊下に出る。そこで彼の気配が消えた。ギルマスが驚きながら急いで外を見ると既に誰も居なかった。頭が混乱しているが奇妙な出来事をおいて、ゆっくりと振り返り犯人に尋ねる。
「……何処のダンジョンで捕まった?」
「岐阜だ。たしか大垣市にあるダンジョンだ……適当に入ったからそこの名前は知らない」
(計画的な犯行じゃない?)
「……何時頃だ?」
「ついさっきだ」
「さっき? 悪いがそれはお前の勘違いだ」
「あ?」
(ここは東京だ……だがこの感じ。本当に分かってないのか?)
彼は反抗的な態度をとった。デッドが居なくなった瞬間に饒舌になる。
「フンっ。危険な野郎だぜ。テイムしたはずのLV30前後の魔物が尻尾を巻いて逃げ出したんだからな。あんなに怯えた魔物……生まれて初めて見たぜ」
「俺も初耳だな。それは……」
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