42 人災
【とあるダンジョンの深く】
フードの男、レッドクリムゾンはひたすらに魔物を狩り続ける。彼には両手があった。周辺を狩り尽くし、一旦休む。左腕と指を動かして確認していた。その時、タイミングを見計らったかのように木陰から声をかけられる。
「義手の調子はどうかな。赤宮」
「あんたか。悪くはない」
「それは良かった」
「それで、何の用だ?」
「随分と慎重に狩ってるね」
「それはそうだろ。あれだけ警戒されればな」
「手伝ってあげようか?」
「……何が目的だ?」
「ただの良心だよ。君には是非頑張ってもらいたくてね」
「それを良心と言えるならお前はかなり腐ってるな」
その言葉に気を悪くするどころか機嫌よく笑っていた。
「そうかもしれないね」
「今度は何をしてくれるんだ?」
「混沌とした街づくりさ……」
キョウは学校に行く。教室に入ると中が騒がしかった。岳旧がLV5になったらしい。クラス中が盛り上がっていた。最近絡んでこなかったので危うく忘れかけていたが、入学初日でジョブを聞いてきた男子だ。
岳旧がわざとらしく話しかけてきた。
「おや、君はジョブ無しのー。誰だったかな?」
それだけでクラスに笑いが巻き起こる。
「フフフ、毎日ダンジョンに籠っているみたいだけどLVは幾つになったぁ?」
その時、俺の背後から女子の声がした。
「LVだけで全てを判断する人とはパーティーを組みたくないものね。はいこれ」
フランがノートを持ってきた。彼女の言葉を聞いて教室が静かになる。さっきまでとは打って変わって、気まずい雰囲気を出していた。特に岳旧を中心とした人達は焦っているように見える。しかし、それは俺には関係ないのでフランと会話する。
「なにこれ?」
「次レナと一緒にダンジョンに行く時用。目を通しておいて」
「分かった。ありがとう」
(こういうとこだよな。クールでツンツンしてるように見えるけど真面目で優しい。良い人だ)
「フ、フ、フランシェシカさんッ。そんな奴に構うよりも!! こ、今度ご一緒にパーティーでもどうかな?」
「……いや誰?」
「クラスメイト」
「ねぇキョウ。馬鹿にしてる?」
「竹……タケモトだよ。ジョブは昔教えてもらったけど忘れた」
「き、騎士だ!! 覚えておけジョブ……ぁ。と、飛鳥!! 」
フランがいたので最後まで言えなかったようだ。フランが鋭い眼差しでタケモトを見た。
「じゃあ今日、古代の森33階層に行くけど来る?」
フランの唐突な誘いに彼は動揺する。その無茶ぶりに冗談かと笑って済ませようとするが出来なかった。彼女の目は真剣だった。
「え……そ、それはっ流石にちょっと……ま、まだLV5だから……その、一階層でも、と言いますか……もう少しその……」
「そう、さようなら」
彼の言い訳が長いのでその程度の心構えなのかとすぐに彼への興味を無くした。フランは自分の教室に戻る。岳旧はワナワナと震えていた。
「な、な。、なぜっ!! お前なんかとフランシェシカさんがッ」
「さあ。本人に聞けば?」
「く……くそっ。ジョブ無しの分際で!! 調子に乗るなよ!!」
「LV5になったらしいな。おめでとー」
その言葉を聞いて言葉が出なくなったのか、怒りを無理やり抑えてふんっと息を荒らげて席に戻った。座ると貧乏揺すりを始めた。
レッドクリムゾンに狙われている可能性がある。彼女等は念のためダンジョンに行かずに警戒する日々を過ごす。何日も経過したが、心配とは裏腹に襲撃事件はパッタリと止み、日常が戻ってきた。
レナはシデンに人間同士の戦いについて、教えを請い。フランはいつも通り、探索者やレナとパーティー組んでダンジョンに行っている。
(お、女豹の……じゃないか。猫と遊んでるだけだな)
ベランダから一階を見ると四つん這いで猫と向き合ってる上代が居た。たまに黒猫と戯れているのを見かける。餌をやったりもする。猫にはこそっと浄化の魔法をかけて病気にならないように清潔にしている。
上代は疲れた時、ベランダでよく寝ている。布団を新しく購入したので、その時はフランの部屋に運んで寝かせる。ライラはレッドクリムゾンが起こす事件に興味を持ったらしく、密かに犯人を追っているみたいだ。
時が過ぎていく。ある日、ニュースを見ていると竜の巣窟、70階層にまた新しいエネルギーの資源が発掘されたとあった。かなり大量に眠っているらしく、70階層以降にもあると予想しているようだ。あのダンジョンの人気が高まりそうだ。そこで緊急ニュース速報が入った。何か事件が起きたようだ。
「魔物の暴走?」
ダンジョン外に魔物が出てしまったようだ。それも数匹どころではない。数百。いや、下手をすれば千の魔物が街に出たらしい。普通は多くて数十匹、それに一か月に数件あるか無いかくらいだからこれは異常だ。
フランはもう既に討伐に行っていた。携帯に通知がくるようだ。原因は調査中とのことだ。デッドに変装し、こっそりと参加する事にした。
街の中央の高層ビルの屋上から周辺に<サーチ>で生命反応を調べる。怪我人に片っ端から<ヒール>をかける。魔物も引っかかるが今は除外する。
「よし。この辺りは大丈夫そうだな……っと。そろそろ出てきてもいいんじゃないか?」
屋上に出るドア付近。途中から人の気配があった。しかし、特に何もせず見ているだけだったので放置していたが、多くの者を治癒した事で状況が安定してきたので隠れている男に話しかけた。
「いやーバレていたかー」
おどけた校長がひょこっと出てきた。
「何か用か?」
「こんな所で人知れず誰かを救い続ける。泣かせるじゃないか」
「用がないのなら」
「忙しいところ悪いね。どうやらこの事件は人災。魔物使いの仕業のようだ。西の方へ移動しながらダンジョンを巡り、魔物を地上に送り込んでる輩がいる」
「……それを何故俺に?」
「この規模のスタンピードは、数える程しか起きた事がない。しかもそれが収まる気配がまるでない。このままだと、未曾有の災害になりかねない。だが、君なら被害拡大を抑えてくれる。そんな予感がした」
「報酬は?」
勿論報酬は要らない。そんな事は初めから望んでいない。ただそういう性格だと思い込ませたかった。理由は幾つかあるが大層な理由じゃない。個人的なやつだ。
それを聞いて現に校長は意外そうな顔をした。しかし、少し間をあけると軽蔑するどころか柔らかく笑っていた。
「ハハハ、君の事は口外しないっていうのはどうかな?」
「そんなので人が動かせるとでも?」
「ああ……君は動くよ。だからこうして今も<ヒール>をかけ続ける」
「……」
俺が屋上の端に移動した時、校長は問いかける。
「君、名前は?」
「デッド」
ビルから落下する。<マーカー>の魔法で特定のヒーラーを指定。そして、その者たちに<自動治癒>を使用する。その者達のMPはキョウが肩代わりして消費する。
「西か……」
<エコーマッピング>と<サーチ>の範囲を広げる。多少大雑把でも良い。とにかく魔物が発生しているダンジョンを探し、順に空間転移で移動する。
西に移動し犯人を探す。その途中で魔物が暴れているところを発見したら、ヒーラーを見つけて治癒する。時間を割けないので最低限のヒールだ。
その人たちがヒーラーと関係なしに苦戦していたら遠距離から手助けをする。多少雑になるが魔物を倒す。複数人がそれぞれの意思を持ち複雑に行動する。その人たちに当たらないようにするのには神経を使うが、そんな難関は何度もくぐり抜けてきた。
校長が屋上から下を見た時には既にデッドは居なかった。偽物が多い中、校長は彼が本物だと確信する。
「デッド。彼が……? それは嬉しい誤算だった」




