38 黒刀の侍
「ッ黒……霧……だとッ」
特徴的な黒ずんだ刀。探索者を目指す者、知らぬ者無し。日本、世界であっても十本の指に入る強者。
「ジョブは……侍だったか……」
「黒霧の嫡男、神威……いざ、尋常に勝負」
不意を突かぬスタイル。だが、フードの男は先ほどのように毒を吐かない。逆にありがたいとまで感じていた。
男は迷わずに無数の球を放り投げた。一つ一つから煙が出る。視界を防ぐだけでなく、毒も混じっている。
「肆式<風切>」
一度の動作。しかし、目にも止まらぬ速度で刀を振ると霧が晴れた。既に逃げていた。チラリと角を曲がる姿が見えた。
「幻影か……」
見えたそれを無視して、柱の天辺に跳んで辺りを見渡す。それはエネルギーである魔力を家庭に送る柱、電柱のようなものだ。フードの男を早急に見つけ出して追う。静かになった場所で槍の男、ソースは首を僅かに振って呟く。
「暴れすぎたな……レッドクリムゾン」
男はビルの屋上から屋上を跳び、逃げていた。追手を撒けない事に焦りを覚える。逃げきれない事を悟ったため、息を整えるのを兼ねて黒霧を迎え撃つ。
「<アイスニードル>ッ」
彼は技らしきモノは使わず、全て叩き落とす。この程度の魔法、自分を守るだけなら必要ないようだ。残り少なくなってきたナイフを飛ばす。レッドクリムゾンが動きを予測し、前へ跳躍する。剣を振り下ろさんと力を込める。
カムイなら余裕でカウンターで返り討ちに出来る速度。しかし、彼は後ろに跳んだ。地面から脚を捕らえようとする<束縛する氷>を避けた。着地するとカムイはフードの男に問う。
「お前……先が見えているか?」
動きにフェイクを混ぜているのに、フードの男の動きには迷いがまるで感じられない。たまに外すが誤差の範囲内だと考えていた。フードの男は不気味に笑っていた。
「ククク……」
「スキルか。まだ、不完全のようだが……」
「お前こそ、俺よりも良い眼を持っている。そんなモノがあるなら是非とも欲しいものだ」
「他人の努力を妬むな。自分で手に入れろ……生きて帰れたら、だがな」
「キヒヒ。そうさせてもらおう」
二人の会話が止まり、静かに対峙する。お互いは隙を探り合う。
「黒霧一刀流・捌式<雲霧>」
目の前が雲のようなもやで覆われる。男は一瞬迷いが生じた。その瞬間、背後からのカムイの一閃。男の胴体を真っ二つに切った。はずだった。すぐに手ごたえがない事に気が付き、距離を取る。目算がずれて刀が届いておらず、虚空を切っていた。
男の手前にあった薄く透明に見えていた氷の板が砕けた。その破片がカムイを襲う。さらに風の刃の追撃があった。フードの男は<アイスイルシオン>、<エアカウンター>の魔法を使い、待ちに徹していた。
フードの男自身も追撃をするために接近する。彼は駆け引きに勝利したことで、ニヤ付いていた。
「俺の予知が機能しなかったのには驚いたぞッ。だが!! 俺の勝ちだぁ!!」
氷と風の魔法、剣の斬撃が一斉に襲い掛かる。
「陸式<霧散>」
「なッ」
カムイが刀を振ると衝撃波の様なモノが発生し、男の魔法を全て相殺した。複数の攻撃であったはずが、全て打ち消された事で本体のみの単体攻撃になってしまう。このままでは狙いを絞られて大打撃を喰らう。しかし、途中で止められる距離ではない。フードの男が顔をしかめる中、依然としてカムイは落ち着いた様子で次の技を使う。
「参式<水霧>」
「くそッ」
周囲が遅く感じた。まるで静止しているのではないかと錯覚するほどに。そして、前進していたと思っていたカムイは、いつの間にか背後にいた。集中力の極致にいる時でさえ彼を目で追えなかった。
「……なにが……」
直後、フードの男の全身から血が噴き出し、吐血する。いつの間にか切り刻まれていた。しかし、何処にそんな力が残っているのか、男は跳んで距離を取った。
「今ので殺したと思ったが……お前は危険だ……」
「ボロボロにされるのには慣れてるんでね……」
「そうか……それより気を付けろ。そこには置いてある」
「なんだと?」
急に何処からもともなくフードの男は体を切られた。余りのダメージに思わず膝を突いた。
「なんだ今のは……何をした」
「そこまでが捌式・雲霧だ」
「こ、これが上位クラス……化け物め」
「こちらの台詞だ。お前は既に数人を手にかけた。よって生死を問わず捕まえる事を許可されている」
「フフフ、そうかっ。世界が俺の力を認めたかッ」
それを喜んだ事にさらに危険を感じ、カムイは目を細めた。
「……だが、もうここで終わりだ」
「クク。折角成り上がってきたんだっ。俺は生きるッ。絶対に生き残ってやる!!」
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