37 謎の男現る
【再び訪れる黄昏時】
(上代詩織。あの初撃のレベルをみるに勝てると思ったが……奴は手加減をしていた。恐らくは俺に弁解の余地を与えたんだ。クソっ。そんな甘ちゃんに勝てないのに腹が立つ。もっと力がいる……奴等にはタイマンでもまだ勝てん)
太陽が赤く染まった頃、フードの男が物陰に隠れて次の獲物に狙いを定めていた。学校から出た男子学生。ネクタイの色から二年生だと推測できる。赤が徐々に薄暗くなってきた。
「二年でありながらLV18とは。きっとそうなるだけの何かがある……フフフ」
槍を持った学生に麻痺毒を付与したナイフを投げる。フードの男は驚いた。それに対応されたからだ。回避した男が叫ぶ。
「こちら佐久。獲物がかかった!!」
ソースは無線を使い簡易的に伝えると槍を構え、フードの男目掛けて突進する。男はそれを土の壁で防ぎ、距離を取った。
「っ……なるほど。お前は学生じゃない、探索者の潜入捜査か。余りにアホ面過ぎて気が付かなかった」
「それほど俺の演技が上手かったということだなッ」
鑑定の精度を上げるとステータスが見えた。
「……偽装、LV23だったか」
「我は神代の風。古代の叡智こと。佐久ッ……諦めて投降しろ。もう少しで他の探索者達も集まる」
「クヒヒヒヒ。やってみろよせんぱぁーい」
「先輩? レッドクリムゾン……お前、学生か?」
「さあなッ」
質問を茶化しながらナイフを投げて牽制する。ソースが槍で打ち落とす。その隙に男は魔法を完成させる。雷の球体が周りを取り囲む。
「ハハハッ避けてみろよぉ」
「くっ。早いッ」
周囲の球体が全てソースへと勢いよく集まる。回避を優先し、被弾を最小に抑える。しかし、痺れが残った。
「ヒャッハー」
フードの男は腹部への鋭い突きを放つ。身をねじり回避するが掠ってしまい、負傷する。だがそれを気にも留めず鋭い突きで反撃をする。槍がフードの男の頬を掠める。
「ハハ、流石は探索者。そこらの学生とは訳が違うっ」
ソースは目を細める。フードの男はまだまだ力を隠しているようにも感じられるからだ。
「……本当に学生か? それほどの実力。まっとうに使えばすぐにでも有名になれる。誰からにも好かれ、誰もが憧れる存在に……」
「はっ。好かれる? 誰もが憧れるぅ? 要らねぇな、ゴミ共の期待、評価。そんなもんは糞の役にも立たねぇ。俺を散々馬鹿にしてきた奴等を殺す……皆殺しだ」
「皆ではないようだが?」
「……ああ、殺しに行ってやっても良いが……俺を強くしたせめてもの礼ってやつだ。気になるなら今から殺しに行ってもいいが?」
「俺を余り怒らせるなよ……」
「ククク、なら守ってみろよ」
「……当然だ」
「しっかり捕まえろよ先輩。ここで俺を逃がしたら毎日ニュースが賑わう」
「やはり話し合いでは無理、か」
「嬉しそうだな先輩。殺したくてうずうずしてたんだろぉ!!」
「逆だ……お前を助ける事が出来なかった」
遠くから槍を構える。しかし、それには違和感があった。
「ッ。投擲かッ」
慌ててそれを躱す動作に入る。凄まじい速度で槍が飛んできた。軌道がまるで分かっていたかの如く、回避する。
「良い不意打ちだ!! だが武器を手放すのは愚かッ」
接近しているのに彼が逃げようとしない。それに違和感を覚えた。手を前に出して指を上にクイっと曲げる。
「ッ……ぐぁっ」
高速で戻ってきた槍が肩に刺さった。それを抜くとサクは再び指を動かす。凄まじい力で引っ張られたのでたまらずに放した。
「槍を操ったのか……」
「スキル、武器操作。恥じる事はない。この技をかわせた者はいない……さて、その肩ではまともに戦えまい。大人しく投降し……」
「ククク……甘いな……今ので俺を殺せたのに。実に甘いッ」
「!!?」
強力な<ヒール>を使う。僧侶以外でそこまでの治癒速度を持つ者には滅多に出会えない。
「初撃で殺さなかった事を後悔しながら死ね」
「デッドオアアライブ……か」
その時、男はナイフを真上に投げる。何かを企んでいると瞬時に理解した。それを目で追った瞬間、失敗した事に気が付いた。
「<束縛する氷>」
「くッ足が」
「<アイスニードル>」
周囲に氷の氷柱が出現する。レナが使うモノよりも大きく、そして多い。かなりの練度を感じさせる。
「これで終わりだ古の槍使い……新しい時代の贄となれ」
鋭く尖った無数の氷がソースに襲い掛かる。
「黒霧一刀流・弐式……<雨霧>」
その声が聞こえるや否や、氷柱が一瞬にして砕け散った。気が付くと、いつの間にか刀を持った男が現れてソースとフードの男の間に割り込んでいた。その言葉を聞いてフードの男は思わず後退りをする。
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