35 先制攻撃
フランたちは古代の森、23階層に来ていた。そこでレナは頑張っていた。広さ、魔物の量、予測出来ない奇襲の数々。同じくらいの階層なのに、比べ物にならない難易度だった。これなら竜の巣窟の40階層の方がまだ余力が残っていた。
だが、そんな場所をこの少ない人数でここまで来れたのは火力、守り、速度と、全てが揃っている事だとレナは驚きを隠せない。
今日は誰かの訓練のために来たのではない。各々がエース級の力を持ち、全力で敵を殲滅していく。だからこそ自分との力の違いがハッキリと分かる。そこに必死に食らいつく。
しかし、もっと驚くべきはこの者たちに一目置かれているシデンの事だった。それだけの力を持ちながらも無名。世の中分からないものである。
「もうお昼を過ぎた頃ね」
携帯食を食べる。後衛のレナが少し大きめの鞄に全員分入れている。個々でも少し持っているが緊急用だ。
食事ですら違いがある事に気が付く。体力だ。あれだけの動き回っていて、まだまだ余力が残っている。まるで部屋で食事をしているのではないかと錯覚するほどだ。
「どうしたの? 食べとかないと後がきついよ」
「うん。勉強になると思って。しっかり食べる」
その向上心を見てフランが微笑んだ。
「やはり魔法使いはパワーですわよ。パウァーがあれば全てを解決できますわ。特注のフレイルを用意しましょうか?」
「えっ……」
「違う。速度が大事。相手に何かさせる前に倒すのが大事。剣での近距戦がオススメ」
「っと……」
「変な事吹き込まないでよ。レナが困ってるでしょ。レナはパーティー戦を極めた魔法使いになるのよっ!!」
それを聞いて二人がため息をついた。
「フラン、相変わらず固いですわね。ほらレナも困ってる顔をしてますわ」
「発想が退屈……」
「あーうるさいな。そっちは自由過ぎる。もう少しパーティーを意識して動きなさいよ」
「敵を減らせばパーティー貢献できる」「全ての敵を倒せば皆、前に進めますわ」
(勘とか本能に忠実。野生動物っぽいのよね……)
その時、上代が呟いた。
「……誰だろう?」
「え?」
辺りを見渡すが誰も居ない。
「シオリ、どうしたの?」
「ちょっと前から後をつけてきてる人がいる」
「……敵意は?」
「ありそう……隙をずっとうかがってる、っぽい」
「気が付かなかった。そういう所だけは認めるしかないね……」
魔物戦は経験をそこそこ積んでいるが、対人戦をレナはした事がなかった。彼女はかなり動揺していた。
「ど、どうするの?」
「先手で叩く」
「いきなりそんなことっ……」
「気絶すれば拘束。避ければ相手の言動で敵か味方か判断する」
「ここはダンジョン。迷えば死にますわよ」
「ッ……」
「突撃はシオリに任せる。私たちは援護する」
「分かった」
ボーっとした上代。しかし、彼女は突然スイッチを入れた。<飛雷>、雷のビームを飛ばしつつ、自らも急接近する。フードを被って顔は見えないが男性の声だ。
「チッ!! はえェッ」
彼は雷に掠るも痺れる様子はない。接近した上代の一閃をギリギリでかわす。
「<赤雷>」
「ックソがっ」
周辺に赤い雷が発生する。逃げ道を潰す様な連続攻撃に男は思わず舌打ちをする。男は小さなナイフを数本投げながら背後に跳んだ。魔法の障壁を張り、高範囲の雷に備える。赤い雷が透明な壁に触れるとそれは簡単に割れた。しかし、ダメージを軽減しつつ上手く範囲外に逃げ切った。
「なにっ!!?」
男が安心したのも束の間。丁度着地した場所に土のドームが作られ、閉じ込められる。終始レナは何も出来なかった。自然と感嘆の声が漏れる。
「凄い……」
男が下がった時に投げていた毒が塗られたナイフを全て弾いた後に上代は言う。
「後を付けてからの反撃は敵意と同じ」
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