33 久しぶり
ランニングを終え、一度自宅で着替えたフランが帰ってきた。玄関に知らない靴があったのを確認し、中に入る。客人がいる事を知っていたが、その人物の正体に驚いた。
「……なんでシオリがここに? 確かにConnect送ったけども……」
ConnectはSNSのアプりだ。文章やスタンプでコミュニケーションを取れる。
二人はお互いに目が合う。しかし、上代は気にせずにモグモグとしていた。呑み込むとまた食事を口に運ぶ。
「何か話しなさいよ……」
「Connectって?」
「……え?」
携帯を貸してもらい、アプリを起動する。返すとスクロールし始めた。
「知らない人からなんかいっぱい来てる」
「ちょっと待って。私の事覚えてるよね?」
食べ物をもう一口含み、よく噛む。口に含んだものを全て呑みこんだ後で思い出したかのように喋った。
「……あっ。腐乱ペンギン」
「ペンギンは腐らないし、ンしか合ってない。私はフランチェシカ・モーガンよ」
「何でここに?」
首がガクンと落ちる。呆れているようだ。
「こっちの台詞なんだけど……え、待って。見てないって事は……じゃあ本当になんでここに居るの?」
「最近、会う人会う人が喋りかけるから面倒」
(短期間で階層ボスを二体倒せばそうなるかもな)
「ひと気の無い場所を渡り歩いていたら。人の視線を感じない、居心地の良い場所見つけた。屋上より快適」
(ストーカー事件以降、ここと隣は防犯強化してるからな。認識阻害やら部屋やペンギンにヒーリング効果付与やら、色々してる……勘の鋭さだけでここに辿り着くのはヤバイな)
「フラン。冷めるから早く食べてほしいかも」
「あ、ごめん」
テーブルに座り。朝食を食べる。フランは本当に美味しそうに食べてくれる。上代は表情はいつも通り、何を考えているのか分かりにくい。無心で食べながら時々フランの分を凝視している。狙っているのかもしれない。ならそこそこに口に合っていると解釈した。
食事の合間、フランが上代に聞いた。
「まあいいや。丁度聞きたかったんだけど、階層ボスをどうやって倒したの?」
「頭上から剣と魔法でズバーンって」
(マジでズバーンって感じだったな)
「……蛇の方は?」
「頭上から剣と魔法でズドーン。ライラが遅れて、頭上からムキムキどしんっゴリゴリっゴリー」
(それはほぼ同時ヒットだった)
「……ライラに聞いた方が早そう。Connectでメッセージ送ろ」
「ライラまだ日本にいるよ」
「嘘っ。帰国したんじゃないの?」
「暫く居るって」
「へー。そうだ。ちょっと携帯貸して」
「やだ」
「な、なんで……キョウには見せたじゃない……」
「なんか余計な事。番号とかに興味ありそう」
「ッ……え? きゅ、急にどうした。な、ないけど何も……」
明らかに動揺していた。らしくないと思った。
(番号? 今までの勘の鋭さから、それが本当だとして……俺の番号か? 正確にはデッドの情報か……そうか。だから有名人が来た……そういえば、上代と居る時もダンジョンでたまに視線を感じた)
フランは他にも聞こうと思ったが、先に食べ終わった上代が家を徘徊し始めた。
「!!? 嫌な予感がするっ」
急いで食べるとフランは寝室に駆け込む。上代はペンギンのぬいぐるみのお腹をポフポフと何度も押していた。
「ああああああ!!! 私のお気に入り!!」
「触り心地が良い。猫の方がいいけど」
「なら猫を触ってなさい」
すぐに取り上げ、ペンギンのお腹を優しく摩る。
「そうそう。デッドって何者なの?」
携帯を出し、メモ帳に書かれている長い文章を端折って読む。
「正体不明のダンジョンの妖精」
「……駄目だ。相変わらず私の苦手な相手……」
丁度ライラから音声のメッセージが届いていたので再生する。短かったがテンションの高い動画だった。
『テレビーでアったインタビューコメントのトーリデース。デッドにつきまシてハー、わーかりまセーン。フラーン、今度イショに狩りしマしょーネー。バイバイー』
それにプラス、ライラは自分のスタンプのとぼけ顔を張り付けた。購入するともらえるようだ。フランはそれを含め凄くイラッとした様子をみせる。
「煽りか!! 以前日本語上手かったろッ」
フランは珍しく声を張り上げた。その声を聞きつけ、キョウが心配そうに見ていたので何でもないと笑って誤魔化す。ペンギンをギュッと抱きしめて落ち着く。
(……いや。実際にシオリと狩りに行った方が分かるかも。謎が解けるかもしれないっ。相性は悪いけどここは……)
「ねぇシオリ。たまには一緒にダンジョンに行かない?」
「今日?」
「そうね。今日でもいいよ」
「いいけど。ライラも来るよ」
「好都ご……じゃなかった。もちろん一緒で構わない」
(それにしても……この自由奔放の権化たちとパーティーを……凄く不安)
「こっちも一人呼んでいい?」
「うんいいよ」




