32 神出鬼没の少女
【逢魔時】
とある学生が帰宅しようと道を歩いていた。スッと誰かが目の前に立ちはだかる。狭い道だったので、フードを被った人に声をかけた。
「あのすみません……通りますね」
「ああ……好きにしろ」
男の声であった。体を半分傾けて当たらないように通ろうと、その隣に差し掛かった瞬間、急に動き出し顔を手の平で覆う。余りの力に逆らえず、苦痛の声をあげながら地面に転んだ。
「な、何をするんですか……ッ」
「貰ったぜ。お前の命……」
「え? なっ、あっ……た、助けてくださいッ。誰かーーー!!!」
その声に偶然近くにいた人が駆け付けてくれる。男は不気味な笑い声を残し、速やかに去っていった。
「君っ。大丈夫か」
「ありがとうございます。急に知らない人がっ。顔に手を当てられてそのままこかされてっ……」
「それは怖かったろうに……今度から人通りの多い道を通った方がいい」
「はい、今度からそうします」
朝目覚めると、寝間着から運動しやすいタンクトップに着替えたフランが元気よく体を動かしていた。物静かな性格と思ったらアグレッシブな人だった。相変わらずギャップがある。
「おはよう、フラン」
「おはよう、キョウ。ちょっとランニングしてくる」
「気を付けて」
「うん。いってきます」
帰ってくる頃に合わせて朝食を作ろう。ニュースを見る。昨夜、都内の中学生男子が変質者に襲われる事件があったらしい。幸い近くの人が駆け付けた結果、怪我などはなく何も取られてないとのこと。その前にも酷似した事件が数件あったそうだ。
「物騒だなー」
エプロンを着用する。違和感があった。なんかいつもと違う。よく見ると驚愕した。
「絵柄がペンギンになっとる!!」
一回それを外し、普段使ってるエプロンに代えようとした時、別のニュースが始まった。
「一週間ほど前から上代詩織さんが行方不明とのことです……警察や関係者が捜査しているとのことですが……最悪の事態も予測されます」
(は? 嘘だろ……そう簡単に死ぬ玉じゃないはずだ……でも心配だな。探しに行くか……)
外で猫の鳴き声が聞こえた。
「猫か。この辺にもノラネコっているんだなー……え?」
ここは25階だ。何故そんなのがとベランダの窓を開ける。上代が丸まって寝ていた。隣にいる黒猫がニャーニャーと鳴いていた。可愛い。
ベランダを開ける音で目が覚めたのか腕で目をこすっていた。触れる前に浄化の魔法をかけておく。こっちを向く前にベランダとカーテンを閉めた。居留守を使おうと思った。するとコンコンと窓を叩く音が聞こえた。
(ここからでも上代なら簡単に降りられるだろう……)
「いっか。後から弁償すれば」
不穏な言葉が聞こえたので急いで携帯を空間魔法で収納し、慌てて窓を開ける。
「うわっぁあ!! 待ったぁっ!!」
「良かった。開いた……あれ……? 久しぶり」
「なんでこんな所に?」
「猫が落ちそうだったから。助けたら仲良くなった」
「猫がここにいたの?」
「別の所にいた。今は適当に日当たりのいい場所見つけたから寝てただけ」
(説明に過程が殆ど存在しないな……いつも通りで安心した)
何より恐ろしいと感じたのが、既に自分の携帯で電話をかけながら俺のポケットを触り、携帯を探していた。
「携帯ないの?」
「失くした。あ、ノラ猫なら外に。その子、誰かが飼ってる訳じゃないよな?」
「うん」
ずっと25階にいたのならと適当に猫に食べ物と水をあげて、一階に放した。部屋に戻ると上代はテーブルに座り、大人しくしていた。冷蔵庫を凝視していた。
「……ご飯食べていくか?」
「食べる」
グーグーとお腹を鳴らしていたので、先に上代には食べさせる。手を合わせて、頂きますをしてから夢中で食べ始めた。
誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。




