2 F組で合格
探索者育成高等学校の試験当日。筆記試験を受けた。ウチダさんや先生の言った通りの問題が多くて助かった。
次はLVとジョブ測定だ。ジョブはよく分からなかった。殆どの人は先天的に何かしら持っているそうだ。
ツルツルとした薄い板、ヒンヤリとした装置に手を乗せる。光り出すとその結果が表示され、それをパソコンに記載する。前の人や隣の人は歓喜の声を出す。望んだジョブだったようだ。また別の人は悔しそうにする。試験官と少し話すと表情が柔らかくなり、納得してその場を去った。
自分の番がやって来た。試験官は珍しそうに声をだした。
「君、ジョブもスキルも無いね……残念だけど、厳しいと思うよ」
スキルは能力の別称。特殊な才能と言い換えても良い。例えばスキルに“絵を描く”があれば、殆ど練習無しで上手く描ける。練習をするとさらに洗練された絵になる。空を飛ぶとあれば飛べる。そんな感じだ。
試験官の声が聞こえたらしく、周囲から笑い声が聞こえた。それが徐々に伝播し、その場にいる殆どの人が笑っていた。
「魔物を倒せればいいんですよね?」
「それはそうだが……」
「どんな結果になっても絶対に後悔はしたくないんですっ」
「……ほう、良い顔をする。ふむ。探索者でもっとも大事なのは生き残る事だ。覚えておきなさい」
「はい、必ずッ」
真剣さを訴えた。とりあえず資格さえもらえればどうとでもなる。試験に出たのにジョブの事を失念していた。LVをもう少し上に設定するべきだった。
「キョウ、ジョブ何だった?」
「無しだった」
「えっ、あっ。ごめんっ!!」
「ウチダさんは?」
「私は僧侶。回復が得意なジョブ!!」
「おー!! おめでとう!!」
「ありがとう。キョウはその、残念だったね」
「気を使わなくて大丈夫。気にしてないよ」
「な、何か変わったね。あんなにジョブが分かるの楽しみにしてたのに……なんか大人になった感じっ」
(二年ほど死闘をしたからな。そもそも中身が違う、ごめんな)
「変わらないよ。いつも通り」
家に帰り、ドキドキしていると合格通知が来た。F組のようだ。ウチダさんはD組。実力によってクラスが分かれるとのこと。一か月後、高校に初登校だ。いつもよりも早くインターフォンが鳴る。
「キョウ、一緒に高校行こうッ」
「アヤ……早すぎない?」
「へへ、楽しみで」
クラスがDとFで違うので下駄箱で別れた。早かったので時間を潰そうと自販機で飲み物を購入し、一息つく。平和だ。そろそろ教室に行くと丁度頃合いになった。
廊下からでもわいわいと声が聞こえる。楽しそうだ。教室に入ると一瞬皆がこちらを見て会話に戻る。数人が話しかけてきた。
「初めまして、俺は岳旧。君は?」
「飛鳥。よろしく」
「よろしく!! それでLVとジョブは? ほら、授業でパーティーを組んだりとかするだろう?」
「無しだった」
「ナシ? 聞いた事がないジョブだな……まさか無いって意味かい?」
「そう。持ってない。LVは3だよ」
クラス中の人が笑いこけた。
「ジョブ持って無い奴とか出会った事ねぇーよぉー」
「ハハハ!! 俺は一人知ってるけど、普通の高校に行ってたっ」
「マジかよ~。ハズレだな。組んだら終わる~w」
(ジョブが無いくらいで大袈裟だな。安心しろ。お前等とは組まないよ)
「俺は騎士でLV4だ。もし君がヒーラー、魔法使い、重騎士なら組んでやっても良かったけど。俺たちは最初から話さなかったって事で頼む」
「あ、私僧侶だよ」
「良かった。ジョブ無しだったらどうしようかと思ったー」
わざとらしいリアクションをした。そこでまた大きな笑いが起きた。女性の教師が教室に入ってきた。見るからに笑いものにされているのに、スルーして教卓の前に立つ。
(おとがめなしか)
「席に座ってください。点呼を取ります」
着席後もクスクスと笑い声が聞こえる。教師が俺が言いたそうな事を察した。チラリと見た後、皆に言う。
「飛鳥さん。ジョブが無いならそうなりますよ。ここにはなれ合いをするために来たのではありませんよね。立派な探索者を教育する場所ですから」
(なるほど、死んでも自分の責任って事か)
「ダンジョン探索の許可書はいつ発行されますか?」
少しムッとした表情になった。
「……身体測定が終わったら配ります」
ジョブに合った服を新調するために、寸法を測る。身長が177センチあった。飛鳥郷でけぇ。
(ま、まあ俺も16……170㎝あったし?)
探索者ランクFのカードを貰った。これがダンジョン探索許可書にもなっている。その後、パーティーを作る時間となった。
「先生。ダンジョンに行ってきます」
「は? 今は自己紹介と適切なパーティーを組む時間ですよ」
「でも、ジョブ無しと組んだら危ないですよね? ソロでダンジョンに行くんだから今から頑張らないと駄目じゃないですか? 常識で考えて」
「そ、それはそうですが……」
「入口の警備の人に見せれば、ダンジョンに入った証拠になるそうですし、これで単位取れますよね?」
(目立ってしまったが問題はない。強い事がバレなければいい。退学にならない程度。最低限の点は取る)
シーンとした教室から出てダンジョンに向かう。ひと気のない場所で空間転移を使う。
「皆さん!! ああいうのは早死にするのでやめましょう!! しっかりと段階を踏んで学びましょうね」
「分かってますよ!! 無能だから意地になってるんですって!!」
クラス中に笑いが飛び交っていた。
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