27 陰湿な嫌がらせ
エクスの姿でダンジョン探索を終えた後、キョウの姿で帰宅する。25階建てのマンションに到着した。入学前はもっと小さなアパートを借りる予定だったが、ダンジョンで稼げるので思い切って2LDKの部屋にした。敷金礼金だけ払ってもらい自分で探したマンションを借りた。もちろん金が貯まり次第親に返す。
前世では殺伐としていたり、悲しい出来事が多かったので、優雅な暮らしには憧れていた。
自分の部屋、2564号室に向かう。廊下でガチャガチャと鍵を開ける者が居た。薄く青がかった銀髪の女子がこっちを見た。手を見るとぐしゃぐしゃに握り潰した手紙を持っていた。
「確か学校で……貴方がストーカー?」
「……違います。その隣が俺の家です」
「ほっ……いや、待って。いつから住んでる?」
「入学してからですよ。契約書見せましょうか?」
「……お願い。それと契約書を出すところを見てても?」
「え、ええ……」
それを見て彼女は安心していた。A組で強いのだろうが、精神面をやられているようだった。彼女がボソッと口に出した。
「何であんなにしつこいの……陰湿だしっ。いっその事、ダンジョン内で殺そうかな……」
「あー、お茶でも飲みます」
「……遠慮しておく」
「警察とかに届けた方が……」
「それはいや。誰かは知らないけど、そんな下らない奴に負けたくないから」
「そうですか……」
彼女は自分の家へと戻る。翌日の朝。外から悲鳴が聞こえた。ドアを開けると隣人が嘔吐していた。ドアノブを見るとねっとりとしたよく分からない液体が、付着していた。思わず顔を歪めた。
「大丈夫ですか?」
彼女はドアを思いっ切り殴った。魔防壁が付与されているので壊れる事は滅多にない。
「何なのよぉ!!!」
「俺、掃除しますよ……」
暫く顔を見つめた後に、言葉が口からこぼれ落ちた。
「……お願い……出来る?」
「はい」
掃除している間は彼女を家に招いた。ドアノブと床を水で洗い、その後に除菌スプレーをかける。流石に学校に休みの連絡を入れた。掃除が終わり部屋に戻ると、顔色が悪かった。
「熱があるんじゃ……」
「え……? そんな事は……」
体温を測ると37.5度あった。病院は嫌だと言っていたので、一日寝かせることに。環境が変わった事でのストレスかもしれない。
「こんなの魔法で冷やしておけば」
「大人しくしていないと、治りませんよ」
熱を冷ますシートを渡し、様子見をする。
「一日経っても治らない場合は病院に行ってください」
「嫌」
「……買い物に行ってきます」
彼女はベッドで目を閉じた。
食べられない物は聞いておいた。鍋にしようかと思い、野菜を買い込む。スポーツ飲料や、ビタミンCなどを含むモノを買った。薬局に行って症状を話し、薬を買って帰る。
帰り道付けられている気配があった。犯人かと疑いはするがまだ確信はないので気が付かないフリをした。
家に帰ると彼女が部屋を物色していた。
「勝手に見てごめんなさい。一応確認したくて……」
誰も信じていないようだ。それだけ苦しめられているのだろう。
「それで、なにかありました?」
最低限のモノしか置いていない。重要なモノは空間魔法に入れている。特に怪しい物はないと確信しているので、堂々と渋い声で言った。すると彼女は申し訳なさそうに答えた。
「……何も。あの本は日本人。内容もノーマルだったし……疑ってごめん」
(あ、あの本って……?)
ふと床を見ると、本には面積の少ない布切れを着こなす人たちが写っていた。近くの布をささっと被せて何も無かったかのように接する。
「いいよ……気にしてない」
買ってきた食材で鍋を作る。匂いに釣られてそれを見に来た。珍しそうに声をあげる。
「美味しそう……」
ポン酢とごまだれを出す。タレに恐る恐るつけると一口食べる。味を噛みしめていた。そこで一瞬目を見開いた。そして、次々と口に運ぶ。二つのタレを交互に使い味比べをしていた。満足そうな表情を見せた。
初見はクールな印象しかなかったが、その時は年相応の感じがした。食後に六割の優しさが入っている錠剤を渡す。数時間が経過した。
「だいぶ顔色良くなってきたね……ええっと、何て呼べばいいかな?」
(表札に名前なかったんだよな)
「フランチェシカ。フランで良い。もっと普通に喋って大丈夫よ。同級生なんだし」
「分かった。フラン。なんか必要な物はある?」
「……今はいいかも。それよりも少し眠たい」
暫くすると彼女は再び眠りについた。体力の回復。精神が安定するようにコソっと魔法をかける。
夜も遅いので空いた部屋に移動し、床に寝転んで眠りにつく。人を泊める予定が無かったので、ベッドは自分の部屋に一つしかない。そこはフランを寝かせてある。
翌朝、目が覚めると布団が被せられていた。テーブルに紙があり、ありがとうと書かれていた。どうやら学校かダンジョンに向かったようだ。
昨日チラっと聞いた話ではパーティー攻略がメインとのこと。むしろダンジョンの方が安全まである。
「ふぁ~あ。俺も学校に行くか」
マンションの玄関にポストがある。そこに手紙が入っていた。例のストーカーからだろう。開いて読んでみる。
『Fランクの変態汚物野郎。僕の天使を汚すな。お前程度、Sランク探索者でモデルをやってるこの僕がいつでも殺せる事を覚えておけ。理解したならもう二度と関わらずに早く引っ越せ。そこは僕の家だ』
(二度とは無理だけど、なるべくフランと関わらない方が良いかもな。下手に刺激すると、何故かこういう輩はフランの方に殺意を向け始める。それにしてもSランクか。それが本当ならLV40相当のはず……俺に直接話しかけてきたら一番手っ取り早いんだが、警戒心が強いようだ)
学校でお昼を食べようとするとレナが教室に来た。ざわざわと騒がしくなった。
「キョウ。一緒に食べよう」
男子を中心にクラスの視線が集まったので教室から出る。中庭のベンチに座って、昼食を食べていると心地よい風が吹く。思わずお互いに微笑んだ。のんびりとしたお昼だった。
レナとは定期的にダンジョンに潜っている。シデンの時もあり、キョウの時もある。真実を言うべきかどうか迷う時がたまにあるが、恐らく喋る事はないだろう。
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