26 強敵と戦うには準備が必要である
35階層で一旦止まる。皆は辺りを警戒しているが恐ろしい程静かであった。暫くすると先行していたスカウト二人が戻ってきた。
「いたっす。近づくなら出口付近が限界ですね。姿を見られたら最後って感じっす」
「後は情報通り、その階層の魔物はどれも巨大です。一匹一匹を倒すのに時間がかかり過ぎる」
「直接見たかったけど、ここまでね……」
「ああ、無理は禁物だ」
帰ろうと腰を上げたその時、温度が下がり、地面が急激に冷える。
「まずいッ気づかれた!!」
「逃げるよ!!」
フランは<アースウォール>とアイスウォール>を同時に使い、36階層の入り口を封鎖する。
「おお!!」
「待て、取り巻きッ。一匹小さいのが来てるぞッ」
「ち、小さいってッ……」
十メートルはある巨大な狼が襲い掛かる。殿数人で足止めをして、後衛を逃がす。魔法使いの女がバランスを崩し転んだ。
フランが<ヘイト>と<チェーンマッチ>で、魔物を引き付ける。敵に与える苦痛も拘束する鎖の強度もLV一桁台のものとは比較にならない、その凄まじい効果を発揮する。
それを嫌い巨大な狼はターゲットを変えた。鋭い爪がフランを襲う。彼女はそれを盾で防ぐ。辺り一帯に巨大な金属音が鳴り響いた。だがフランはそれに難なく耐える。
「早く逃げなさい!!」
「ありがとうございます!!」
魔法使いの女は立ち上がると全力で走った。とはいえ、魔物も学習する。何度も防ぎきれる保証はないので自身も上手く後退しながら、重い攻撃を防ぐ。下の階層の入口を塞いだ壁の魔法にヒビが入った音がした。それを壊そうと何度もぶつかる音が聞こえる。
(最大の魔力を込めたのにこんなにも容易くッ。時間がないッ)
その時、逃げた人たちの最大の魔法が複数狼を襲った。<束縛する氷>で狼の脚を地面に張り付ける。全ての魔法は直撃した。余りの威力に狼は地面に伏した。その怯んだ瞬間に、地の魔法<アーススフィア>を使う。土のドームを作って狼を囲い、その中へ封じた。
それを確認したフランはヘイトとチェーンマッチを解除し、全力で上の階層に逃げ込む。36階層の入り口が壊れる轟音を聞いた。同時に超巨大な狼の遠吠えがフロア中に響いた。フランを含め、皆が恐怖を感じていた。しかし、それを乗り越えてフランが叫ぶ。
「早く上の階層に走って!!」
フロア内のほぼ全域。地面を氷が覆う。ドームにもヒビが入りまるで土が氷のように砕けた。掛け声のおかげで皆はギリギリで階層を上がり、凍結は免れた。MPを回復させるポーションをがぶ飲みすると、<アースウォール>とアイスウォール>を再度使用し、さらに上の階層へと走り抜ける。
何とか逃げ切ったようだ。五階ほど一気に駆け上るとその場に腰を下ろす。息を整える。スカウトや体力が残っている数人が周辺、特に下の階層を警戒していた。
「35階層も危険区域に入れないと駄目ね」
「みたいだな。報告しよう」
「逆に上手く35階層までおびき寄せれば、少しは戦えそう……」
「確かに、巨大な魔物が多い36階層よりは楽になる」
先ほどの情報を交え対策を考え、話し合う。同時に休憩を挟み、帰る準備もする。素早く、けれど慎重に。それが終えると彼等は最速で帰還した。
誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。




