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23 正反対の似た者同士

 二人は衝撃波と共にかなりの量の毒を浴びた。ライラは距離があったが、上代には直撃したため全身が爛れていた。嘔吐物をまき散らし、その場に倒れる。


「シオリ!! まずいですわッこのままじゃ……連れて逃げませんと……」


 そう言った本人も眩暈と共に膝を突く。空気中に漂う毒にやられたようだ。薄れゆく意識の中、体中が優しく暖かいものに包まれた感覚があった。



 二人の傷を治癒するために<セイクリッド・リ・ヒール>を使用する。皮膚が急速に再生する。そして、体内の異物、不要な毒素を全て体内から排出する。さらに身体強化、魔力強化、体力回復も含まれる魔法。


「何が起きて……ダンジョンに入る前よりも体が軽いですの?」


 ハッとしてエクスの方を見る。取り巻きが既に居ない事に気が付いた。


「そんなッ。あの数を短時間でっ。あり得ないですわ……」


 続けて<魔力割譲(マナチェンジ)>で二人のMPも回復させる。ライラはそれにも気が付いた。そんな異様な状況の中、剣に紫の雷を宿した上代が既に戦線に戻り、大蛇と対峙していた。


 大蛇は初めて恐怖を感じていた。その不気味さに。今までどんな生物も屠ってきた毒がまるで効いてない。それに気が付いてしまった。少し離れている位置で見ている男。あれには絶対に近づいてはいけない。野生の本能が全力で警告を鳴らす。



 ライラは動画配信でのシオリのコメントを思い出した。底が見えない、と。そして、シオリが興味を示す男、エクス。


「規格外……不死鳥もビックリですわね……シオリがボスを倒そうと言ったのがようやく今、理解出来ましたわ……」



 ライラが深呼吸をする。そして、<ブレイズブレイバー>という炎を纏う自己強化魔法を使用した。上代はライラがようやくボス殲滅に切り替えた事を悟り、同じく自己強化の付与を行う。


「我に力を与えたまえ。其は万雷の化身(おう)……<雷公>」



「<フレイムストーム>」



 竜巻のような巨大な炎の渦が周囲に巻き起こる。空気中に漂う毒ごと大蛇を焼き払う。ライラは今度こそ最高の一撃を放つために再び跳躍する。炎を纏った高熱の巨大な鉄球を凄まじい力で回転させる。同じく上代も跳んでいた。ボソッとゴリラと呟いた。幸い聞こえていなかったようだ。


「同じ動き。珍しい事もあるんですね」


「私が倒す」



 遠くから阿吽の呼吸による連携。そして、止めにと空を舞う二人を見ていた。


「嗚呼……良いライバルだ」


 そんな二人を見ていると無意識に笑みがこぼれた。<デッドブリザード>で大蛇の動きを制限する。


「あんな規格外の魔法を連発して、まだそんなに魔力が残ってますの……ッ」


 上代は冷静にその凍結を観察していた。


「凍り付くのが前より断然に早い。やっぱり……」



 気合の入った声と共に二人は全ての力を解放し、魔物を殲滅する。地面に着地すると大きな穴が空いていた。


 二人は膝を突いていた。フレイルが手の平サイズまで縮小していた。上代はそのまま膝を突いたままパタンと前に倒れた。眠たそうだ。ライラは頑張って立ち上がる。


 二人を<セイクリッドヒール>で癒すと彼女は体の動きを確かめた。確信した表情で声をかけてきた。


「貴方がデッドですの?」


「っチガウヨ。俺エクス、しがない魔法剣士」


 上代も珍しく加勢してくれた。


「デッド知らない。何それ」


「……嘘が下手過ぎて可哀そうですわ。剣を使ったのも見てないですし」


「と、取り巻き倒してる時だね」


 ライラは何か納得したように微笑んだ。


「ネットの情報を鵜呑みにしすぎたようですわね。ご安心してください。私は恩人を売るほど腐ってませんわ」


(良い人で良かった)


「あ……一つだけ我儘を。噂のインビジブルソードとやらを見せてはくれませんか?」


「ソードは要らないよ。虚構の翼(インビジブル)


 少し距離を取ってそれを出した。その瞬間にライラは後退る。見えないはずなのに、偽物との違いに即気が付いた。


「それが噂の……透明な剣」


 剣を振る。地面が切れた。もう一度振り、遠くの木をなぎ倒す。上代が興味深そうに見ていると思ったら飛雷(ひらい)を使う。それを軽く切ると上代は少し悔しそうな表情を見せた。


 速度、間合いが単純に厄介だ。ライラはイメージをする。自身のフレイルや魔法で襲い掛かる。しかし、あの速度で容易に対処されるイメージしか湧かない。突破口が見えてこない。


「ッ……予想以上ですわね」



 上代が近寄ってそれに触ろうとしたので収納した。既にそれが無い事に気が付き、お腹をポフポフと優しく触れるように殴ってくる。もう一度出せーと言っている気がするがスルーした。


「さあ、帰ろうか」


「……報告はどうしましょうか」


「出来れば二人で。無理ならデッドがやったという事で……俺は訳あって表に出たくない」


「承知しましたわ。シオリはいつも通り、沈黙で。私がその辺をボカして報告しますわ……二人は流石に無理ですが、なるべく印象はよくするつもりではあります。日本よりも本国の報告が面倒ですが……」


「あ、捨て名だからそこは適当で大丈夫。ライラの立ち位置とかで不都合があったらデッドを悪者にしても構わない」


「フフ、本当に……噂とはあてにならないものですね」



 今回は原型が残っている。仕方ないので、大蛇とその取り巻きを空間魔法で収納する。


「そ、そんなことあります……?」


「え?」


 上代が収納魔法の中に手を入れようとしたので魔法を消す。もう一度だしてという様子でジーと見てくるがスルーした。


「入口に放置して、俺は逃げる予定。そこからライラにお任せで」


 ライラが頭を抱える。次から次へと常識を覆す魔法の連続。出来るなら記憶を消して悩みの種を排除したかった。


「……しょ、詳細はボカしてデッドのスキルという事にしときますわ」


 一階層付近になると上代が服をギュッと掴んだ。強力な隠蔽、透明化、認識阻害等の魔法を使い外に出ると、大蛇を取り出す。別れの挨拶をした後に、服の掴まれている部分を破る。


 それに反応したライラが上代を羽交い締めにしてくれたので、その隙に物陰に隠れて空間転移で逃走した。上代がライラを引き離そうと暴れているが気にしない。




誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。


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