22 階層ボス
やっぱり帰る途中で気になったので上代とライラを追う事にした。探知魔法を使いながら進む。すると彼女等は三十三階層まで来て階層ボスと戦っていた。
50メートル級の巨大な大蛇。取り巻きですらも大きい。上代がぐったりと地面に倒れていた。外傷では無く、MPの使い過ぎでマナバーストしたようだ。それをライラが守っている。
(なんでそうなった……)
そこで上代が何事もなかったかのように立ち上がる。通常ならMPを回復させるマナポーションを飲んだり点滴を打つのだが、彼女は例外のようだ。マナポーションに即効性はなく、必ず全回復する訳ではないので早めに飲むのがコツだ。
「回復した。帰る」
「ちょ、っとお待ちください!! この状況でっ。逃げられるわけないですわ!! 手伝ってください!!」
ボスの攻撃をさらに取り巻きを引き付ける。避ける事に全てを注ぎ込み、何とか凌いでいた。しかし、体中傷だらけだ。
「階層ボス倒す予定で来てない」
「私もですわ!! シオリがダンジョンを走り回るから!!」
「ついて来てとは言ってない……あ、前にもこんな事があった気がする。今回もきっと大丈夫」
「ここのボスはまだ情報が揃ってません。そんな簡単に逃げきれませんわ」
(……二人とも癖が強すぎる。でもまあ、嫌いじゃない)
二人の前に姿を現す。ライラは大変そうに魔物を処理している。上代は彼女に対して逃げないのと語り掛けていた。
「手を貸そうか?」
「だ、誰ですの?」
「あ、エクス。勝負して」
「言ってる場合ですか!!」
「これが終わって……また全快の時な。全力でやりたいだろ?」
「じゃあボスを先に倒す」
「はぁ、何故急に。無理ですわよっ。準備も何もしてないノラ三人パーティーでなんてッ」
氷魔法、<デッドブリザード>を使用して一帯の魔物の動きを封じる。
「今のうちに態勢を」
三人が集まる。ライラはその超広範囲の魔法に驚愕した。
「書物に無い魔法……それにほぼ全部の魔物を封じた……何者ですか?」
「エクス。魔法剣士だ」
「ライラ・フェニックス。チャンピオンですわ」
「チャンピオン?」
「全てを極める王者、と言ったところでしょうか。魔法剣士と似た感じですわね」
「全然似てない。あれに似てる」
「? あれとは何ですの?」
「ゴ……」
「ッそろそろ動き出す。作戦は?」
話がややこしくなりそうな気がしたので強引に進める。
「私があのデカブツを叩きましょう。あの取り巻きたちは二人にお任せしますわ……出来るだけ弱らせる気ではいますが。少しでも弱らせたら頃合いを見て全力で逃げますわよ」
「私もボスが良い」
「じゃあ俺が取り巻き全部もらう」
「は? ボスの手下とはいえあの数、一人では無理ですわよッ。階層ボスを舐めすぎではっ」
「ライラ……上代はもう行ったぞ」
隣を見ると既に走ってボスに突っ込んでいた。
「アーーもーー!! 仕方ないですわ!! とりあえず私には近づかないでください!!」
そう言ってライラも追いかける。フレイルを巨大化し、大蛇に鉄球を叩きつける。少しは効いているが決定打には程遠い。ライラは攻撃が強力な分、戻りが遅い。反撃をもらう恐れがある。
しかし、上代はそれを分かっているのか、脚に雷を纏い、目やピット膜付近を連続で攻撃し注意を引き付ける。
「<フレアスコール>」
ライラの炎魔法だ。巨大な爆発が複数起こる。規模が大きく周囲を巻き込む。パーティーでは使わない魔法である。しかし、彼女は例外であった。上代はその間を縫うように高速移動し攻撃を継続する。
(何だかんだで仲良しだな。さて、俺も仕事しないとな。その後観戦しよう)
取り巻きの蛇に風の魔法、<ウィンドボム>を使用する。<エアラプチャー>の規模を単純に大きくした魔法。複数いた取り巻きの蛇は同時にはじけ飛んだ。
地の魔法、<アースウォール>で木より高く土を盛り上げる。見晴らしのいい場所を作り、二人の様子を見る。
ライラは高く跳ぶとフレイルの鎖を回す。大蛇がそれに気が付き、その前にライラを撃ち落とそうと攻撃をする。
「跪きなさいッ。<エアクラッシュ>」
広範囲に風の塊が発生し、大蛇の頭を押さえ込み、地面に押さえつける。さらに全ての力を乗せた鉄球をそのまま叩きつけようとした。だが、当たる瞬間に上手く暴れた。極太の胴体がライラを薙ぎ払う。軽く触れるだけでも深刻なダメージを与えるには十分なサイズだ。
ライラはダメージを与えられなかったどころか吹き飛ばされ、大ダメージを負った。しかし、彼女も負けてはいない。ボロボロのはずだがしっかりと立ち上がる。血みどろで吐血もしていたが、すぐに血は止まり、傷が消えていく。
(……自動の超回復。あれが彼女のスキルか)
その作った隙を利用し、上代も大蛇の頭を狙っていた。ライラもそれに合わせて攻撃しようと接近する。これでかなり状況が良くなると感じた。けれども、当たる直前で大蛇が衝撃波を周囲に展開した。
予想外の攻撃に二人は大きく吹き飛ばされ、受け身が取れず木に叩きつけられた。同時に蛇の体全体から液体が飛び散り、悪臭を放ちながらすぐに蒸発する。不覚にも液体に触れてしまう。触れた箇所の皮膚が爛れる。さらに気化したそれは周囲に漂った。
「力が入らない……猛毒。警戒してはいましたのに……情けない、ですわね」
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