21 茂みの中に都市伝説
折角近くに来たので転移を使用してダンジョン、古代の森に入って偽名4用の装備を付ける。認識阻害の仮面。ゴブリンソードと軽装備。使い分けは大まかに3つでシデン、キョウ、その他だ。
巨大な狼や昆虫型の魔物を倒して進んでいく。遠くで巨大な爆発が起きた。気になってそこに向かう。茂みからこっそり覗き込むと、ライラと男が対峙していた。
「ウひょー良い女だね~。何歳?」
「14ですわ」
(まさかの年下!!)
「そのデカさで14。しかも金髪お嬢様。なんて属性が多い……これは是非とも捕獲しないとな!!」
「下劣ですわね。何者ですか?」
「聞いた事があると思うぜ? 俺の名はデッド。インビジブルソードの使い手。そして、最強の探索者。抵抗するほど痛い目に合うぜ!!」
(動画の奴等とは違うな。噂通り、量産されているようだな)
「そう、貴方が噂の……ならば手加減は要りませんわね」
じゃらりと武器を構える。金属の棒の先端に鎖。さらにその先端に繋がれるは棘付きの鉄球。フレイルだ。
服装も先ほど観光客風とは変わっていた。上代とは違い騎士を連想させる。しかし、動き易さも考慮しているのかスカートであった。他の荷物はダンジョン前の施設に預けてあるのだろう。
「ほう、珍しい武器だ。だが、俺の武器はさらに珍しいぜぇ!!」
剣を振る動作をする。危険を察知したライラは身をよじる。右肩の服が僅かに破けた。
(風の魔法だな……)
「インビジブルソードの間合いはこの辺り一帯だ。近づく間も与えんぞ。それが分かったら大人しく俺の物になりなッ」
「噂通りの性格と武器。倒しがいがありますわね」
「ぬかせ!!」
次の瞬間、偽デッドは驚愕した。ライラが力を込めるとフレイルが巨大化した。持つ部分は手ごろな大きさのままで調整可能だ。
「奇遇ですわね。ここら一帯は私のテリトリーですわ」
「なっ!! なんだぁーそれはぁ!!」
「魔力とMPを込める程、際限なく大きくなりますの。重量もそれに比例して重くなるのでご安心を。それでは撃ち合いましょうか」
「う、うわぁああああ!! インビジブルソードォ!!!!」
不自然な程大きな鉄球を容易に操り、風の魔法を弾く。さらに振り回し、周辺の木々をなぎ倒す。見ているのも危ないので少し距離を取った。
「分かったっ。俺の負けだッ。助けてぇぇええっ!!!」
ドスンッと男の隣に落ちた鉄球が地面に大穴を開けた。男はガタガタと震え恐怖の余り漏らしていた。
「……インビジブルソード。存外、期待外れでしたわね。さあ、大人しくシオリを解放しなさい」
「シオ? あっ。し、知らねぇ!! 俺は上代に会った事は無いぞ!!」
「……どういうことですか?」
「デッドなんて奴は存在しないっ……いや、知っているのは何も語らない上代だけだっ。本当に居るのか居ないか。噂が独り歩きした結果、多くのデッドが誕生した……いわば一種の都市伝説なんだよ……」
「?? ……貴方の信念は分かりました。ならばシオリを解放したくなるまで痛めつけるのみですわ」
「ちょ!! マジで知らねぇって!!」
(言葉を鵜吞みに出来ないよな。誰かに成り代わるならそれ相応の代償が必要、か)
その時、遠くから雷鳴が響く。その轟音は原始の感情を自然に呼び起こす。畏怖そのもの。そして、それは徐々に近づいてくる。
「この音は……なるほど、デッドを守るために現れたという事ですわね!!」
上代が勢いよく現れる。既に三つの付与をかけており、戦闘態勢だった。間髪を容れずに前方に跳躍を行い、一本の剣を両手持ちで超速の薙ぎ払いを繰り出そうとしていた。
「<電光石ーッ……>誰……?」
「うわぁぁああ!! なんでこっちに!!」
彼女は寸前で気が付いて男を通り過ぎて着地した。尻もちをついて震える男は恐る恐る喋った。
「は、ははは、初めましてっデッドですぅ……い、いけてる?」
(知ってる本人を目の前に。ある意味凄い男だ)
彼女は既にその男に興味を無くし、辺りをキョロキョロと見渡していた。
「あらあらあら、お久しぶりですわね。上代詩織……」
「……」
上代は目を合わせずにそのまま高速で走り去っていった。
「ああ!! 待ちっ!!」
(まさか。俺に不意打ちをするためだけに来たのか……隠れてて良かった)
「……私に気が付かないとは、やはり強力な洗脳っ。その先にいるんですわねッ。今救って差し上げますわ!!」
ライラは鉄球を小さくし、全力で上代を追いかける。
(ふぅー。普通に帰るか……いや、大丈夫だとは思うが)
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