20 愉快なシーカー
先にご飯を食べてからダンジョンに潜るつもりだ。適当なコンビニでおにぎりを買って外に出ると女性から声をかけられた。
「スミマセン。コダイのモリーどこでスかー」
清楚と優雅さを持ち合わせた綺麗な金髪の女性だった。日本語で話しかけられて安心する。それにしても色々と大きい。背は結構高い方だと自負していた。しかし彼女は五、六センチは高い。笑顔が可愛らしくて素敵だった。
「電車に乗って行くと良いですよ」
「路線ごちゃごちゃネー。道がワーかりませーん。オシエテクダサーイ」
(オノマトペ使いこなすやん)
「近くまで案内しましょうか」
「アリガとうゴザイまーす」
まずは電車に乗るため駅まで向かう。
「ソード? アナターはシーカーデスか?」
「仮ですね。まだ学生でFランクです」
「ohー、頑張ってくだサーい」
(あれこの人日本語……)
「古代の森は変質者が多いですから、留意してくださいね」
「オー、知ってまーす。デッドとかいう不審者がイルネー。貴方知テル?」
「な、名前は聞いた事がありますね」
「っ隠れて!!」
聞き間違えでなければ、その一言は流暢な日本語に聞こえた。急に路地裏に引き込まれると、隅に隠れて小さくなる。包み込むように押さえ込まれた。巨乳に圧迫される。太すぎず細すぎずの程よい腕。力強くも柔らかな腕の肉がプニッと当たり心地よい。ゴツイ外国人の男が数人走ってきた。
「反応がこの辺にあったぞ」
「ダメだいないぞ、くそっ!! こっちの身になれっての!!」
「あの馬鹿みたいな脳筋バカお嬢様の事だ。野生の勘で既に遠くまで逃げただろうなっ」
またしても流暢な言葉だった。そして高級車が来て乗り込むと走り去っていった。締め付ける力が強くなった。胸に覆われて息が苦しい。彼の顔を覚えたぞ、と言わんばかりの笑ってないタイプの笑顔だった。頑張って締め付けから話せる程度に脱出する。
「あれは……」
「サァ……ワぁカリマセーン」
「何故日本の……わざわざこんな所に?」
「よくぞ聞いてくれマーシター」
「ライバルを救い。倒すためデース」
「ライバル?」
(救ったのに倒すの?)
「なんトーあの、ユーメイな上代詩織デース」
「救うって、今彼女は重傷なのか?」
「話にヨルト。デッドと言う男に強力なスキルで洗脳されてるラシイね。ソノっセイデー。私の事ライバルと認識デキナイネ」
(何処から突っ込めばいいんだろうか……いや、まずは……)
「失礼ですが……日本語、普通に喋れますよね?」
彼女は驚いた表情を見せた。腕を離すと同時に警戒した素振りを見せた。
「……君探偵?」
「いえ違います。奇妙なイントネーションは置いといて、普通に会話出来てますし……さっきの知り合いっぽいの日本語上手でしたし。最近は動画とかで学べて皆さん日本語上手いですし」
「フフフフ……ある時はお嬢様。またある時は海外観光客……その真の姿は天才探索者ッ。そして、上代詩織のライバルですわ!!」
お嬢様っぽい高笑いをしていた。ただ嫌味っぽさは無かった。活発的な良い笑顔だった。
(古代の森は上代出現率の多い場所の一つ。それでか)
「……テレビを見て気になって来たと」
「その通りですわ。シオリに電話しても今まで一度も繋がらず……心配してましたの」
(ん? 四時間前くらいに短い会話したけど……あれ、この人スルーされてない?)
「番号は合ってます?」
「その手には乗らないですわ。そう言って私たちの番号を覚えるおつもりですね!!」
「もう一度見直して、という意味で」
「それは失礼しましたわ。そういう輩が多いもので……申し遅れました。私はA国のシーカー。ライラ・フェニックス」
「あ、初めまして飛鳥郷です」
「……」
「どうかされましたか?」
「探索者を目指しているのに私の事をご存知でない?」
「あっ、あのっ、A国で有名な!! 凄い!! クラスの皆に自慢しなきゃ!!」
「反応が遅いですわっ。そんなんじゃ一流の探索者の道は険しい……ですわ」
(コントかな?)
電車に乗り、目的の架空市に着いた。ダンジョン付近で別れる事になった。
「飛鳥はダンジョンに行かれないのですか?」
「俺にここのダンジョンは早いですよ。まだLV3なので」
「ああ。わざわざ私を案内するために。ありがとうございます」
「いえいえ、それでは~」
別れた後にひと気の無い場所に行くと、上代に電話をする。スーハーと息が聞こえる。
「…………もしもし」
「上代、今大丈夫?」
「大丈夫。何?」
「電話の通知来てない?」
「知らない人から気持ち悪いくらい通知来てる。あ、定期的にかけてくる人。でも知らない人からだから出ない」
「そ、そっか。ライラさんって知ってる?」
「ゴリラ? 知ってる。なんで?」
(盛大な聞き間違いだ……)
「ゴリじゃなくてライ、ラ」
「たまに絡んでくる。そのゴリラ」
(聞き間違いじゃないんかいっ)
「それが?」
「心配して会いに来てたけど。それで何度も電話したそうだ」
「面倒だからやだ」
「そう……」
(非常に悲しい回答だ)
「え? 会った?」
「だから会……っていうか見かけたよ。古代の森に行ってた」
(あぶっ、キョウで会ったんだった)
「行く」
「お、それは喜ぶんじゃないかな」
「良かった」
既に通話が切れていた。
(ライラさん、どんな立ち位置なんだろ)
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