18 強い者と弱い者
ソイヤは僅かに止まった。アヤコを助ければ確実に戦闘になる。この状態での最善は何かを決断しようと考える。しかし、魔物は待ってはくれない。長い牙を持つ狼がアヤコに襲い掛かった。
「きゃぁぁああ!!」
戦士トトが戦斧で狼を薙ぎ払う。
「早く立てッ。次が来る!!」
魔法使いがさらに怒鳴った。
「何やってんだッ。早く逃げないと死ぬぞ!!」
「リーダー指示を!!」
「ッ……ラリ、マコ、ケイタローは先に行って、逃げ道を作ってくれ!! 俺たちはこいつ等を食い止めるッ」
「分かった!!」「任せて!!」
奥からホブゴブリンが現れる。ただそれだけで体が委縮してしまう程の威圧を感じた。それを感じ取った、ゴブリンと狼が襲い掛かる。自分に襲い掛かる魔物は何とか対処出来たが、アヤコを襲う魔物までは手が回らない。
「アヤコ!!」
「<DPS世界9999万位の剣撃>」
その声と同時に魔物は倒れ、アヤコは守られた。
「ケイタロー。命令違反だぞ……」
「二人でアヤコの前で恰好つけようなんて汚ねぇんだよ。俺も混ぜろッ」
「俺は別に……」
魔物が次々と襲い来る。それをトトとケイタローは倒し続ける。アヤコに向かってくる魔物はソイヤが対処していた。
「……正直助かったぞ、ケイタロー……」
戦闘の合間、ケイタローとトトと目が合った。二人とも体は震えていた。しかし、何か満足そうな、悟った表情をしていた。
「アヤコ、逃げろ」
「え?」
「俺たちはもう分かってる。勝率は低い……せめてお前だけでも……」
「そ、そんなっ。出来ないッ。わ、私も戦うっ」
「リーダー命令だッ。お願いだから聞いてくれッ!!」
「……それだけは聞けない。だって私たちはパーティーだから……」
そう言って<ヒール>を使用する。そんな時、トトが先に判断した。
「ソイヤ、長話をする余裕は無い。覚悟を決めて行くぞ」
魔物が襲い掛かかる。これ以上言い合う暇も無く、ソイヤもそれを仕方なく了承する。
先兵を当てがい、相手の様子を窺っていたホブがついに動き出す。何処で拾ったか金棒を持っていた。ソイヤがそれを受ける。
「グッぅ!!」
力が足りずにバランスを崩す。トトが追撃をさせないために戦斧を振る。しかし、金棒でそれを止められた。
「ッ……強い」
ケイタローがその隙に<軽太郎斬>で脚を切る。皮膚が硬く僅かに切れただけだった。
「くそ!!」
ケイタローの脚にまだ残っていた狼が噛みついた。
「足がぁっ」
ゴブリンが近寄ってきたが、狼の頭部を刺してその前に脱出する。だが、勢いあるゴブリンの攻撃を受けてしまった。
「<ヒール>!!」
回復させるとそのゴブリンに反撃し、何とか倒した。
「もう少し耐えてくれ!!」
その時、背後から悲鳴交じりにマコが走ってきた。そして、ソイヤたちの傍で転んだ。
「マコっ、どうした!!」
「腕がっ。私の腕がッ。殺されるぅ。助けてっ」
そのただならぬ気配に視線を下ろして見ると片腕が無かった。すぐに<ヒール>で止血を試みる。しかし、その瞬間に前衛が崩壊しかけた。
「アヤコっ。今はそっちに割いてる場合じゃない。俺たちの回復をっ」
「ふ、ふざけないでよっケイタロぅ。私の方が重傷でしょう!!」
「前衛が崩壊すればどっちにしろ終わりだ!!」
「マコっ。ラリはどうした?」
「えっ……あ、あいつはもうシ……」
マコが言いかけた瞬間、ソイヤが剣と盾を地面に落とした。最後まで聞かなくとも理解出来た。マコの来た方角からゆっくりと近づいてくるそれ。ホブゴブリンがもう一体、暗闇から姿を見せた。
その手には分断されたラリを持っていた。マコは無様に転がりながら必死で距離を取る。
「ひぃぃぃ!! 来ないで化け物!!」
「終わりだ……俺たちはここで確実に死ぬ……」
放心状態のソイヤに向かってトトが叫んだ。
「何をしているソイヤ!! 剣を取れっ。最後まで戦え!!」
近づいてきたホブが力任せに金棒を振る。それに直撃し、ボールのように飛ばされた。ステータスの恩恵か、辛うじて息はあった。
「ソイヤぁぁあ!!」「いやぁぁああ!!」
もう一体のホブがトトに攻撃をする。戦斧で防ぐが踏ん張りが足りずに飛ばされた。だが彼は血だらけになりながら急いで立ち上がった。ホブに向かって雄たけびを上げながら戦斧を振る。その形相に驚いて後ろに下がった。彼は短く荒い呼吸をしながら問いかける。
「ケイタロー、アヤコ。まだ動けるか?」
「ああ……」
トトはもうひと頑張りだと、言葉を必死に絞り出す。
「俺が入り口の方のホブを抑え込む。二人で逃げろ……探索者なら、最後の希望に賭けろ」
「お、お前っ」
「そんなこと出来ない!!」
「ちょっと待ってよ!! 私は!! 私はどうするの!!」
「邪魔をしなければどうでも良い……まだ動けるはずだ。好きにしろ」
「くっ……」
「駄目ッ。トトもソイヤも一緒にっ」
「欲をかけば全員死ぬ。掴める命だけにしておけ」
ケイタローは短い間に様々な葛藤をし、決断する。
「……ッ……分かったよ、トト。お前は、最高にカッコイイ漢だぜ」
「ふん……楽しかったぞ。このパーティーは……」
「ッ……」
ケイタローはアヤコの手を掴んで走る。わざと時間を置いてそれについていくマコ。
ホブがそれを妨害しようとするが、トトが戦斧を捨ててホブに全身全霊で飛び掛かった。二人はその隣を抜けて走る。
目的は果たせたもののトトの全力でさえホブはバランスを崩さなかった。肘で頭を殴り、引き剝がす。激痛、そして体力が尽きて動けない。それを良い事に大振りをしようと深く金棒を構え、男を殺そうとそれを振り下ろす。
「……上手くやれよケイタロー」
死を覚悟したその次の瞬間、ホブの腕がはじけ飛んだ。それどころか、周辺の魔物が全て破裂音と共に朽ちていく。
「……これ、は?」
何処からともなく仮面の男が現れた。
「お前は?」
「夢の中で頼まれてな……助けに来た」
「フフ、そんな馬鹿な。これは最後に見る幻か……」
「現実だ。他に生き残ったのは?」
「……一階層に向かって二人、いや三人走っていってる……それとソイヤを。後ろの男をたの……」
彼は喋っている途中で意識を失った。
「嗚呼、後は任せろ」
<エコーマッピング><サーチ><セイクリッドヒール><マルチビジョン><空間転移>、を使用し彼等を外に逃がす。
ダンジョンの生き死には自己責任。しかし、夢の中で本物の飛鳥郷に頼まれた。半信半疑で来ると本当に危険な状態だった。その時、幻聴が聞こえた気がした。
『アヤを守ってくれてありがとう……朱鳥君』
「……気の……せいか」
気が付くとケイタローとアヤコ、マコは草原に座っていた。
「何でここに?」
「分からない……」
「た、助かったの?」
「夢だったのか……」
ソイヤとトトも倒れていた。知らない人も何人か倒れていた。それが現実だと自然に理解すると同時にトトたちの意識がない事に気が付き、慌てて心肺を確認する。生きていたことを喜んだ。
しかし、誰もが状況に困惑していた。何故か傷も体力も回復しており、不思議な感じだった。彼等は落ち着くまでその場で呆然としているのであった。
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