16 探索者
【A国】
A国のとあるダンジョンの24階層。四人の女性が地上に帰る途中だった。それを阻むように魔物が襲い掛かる。一人が盾でそれを防いだ。二人が即座に連携し、魔物を倒す。この階層は彼女たちにとって容易にクリア出来る。
もう一人が何もせずとも問題ない程であった。何もしてない女性は特に責められる様子は無い。むしろ皆彼女に好意的だった。
「ライラ。今日は一緒に来てくれて助かった」
「ライラがいるだけで負ける気がしないよ」
「ねぇ、いい加減私たちのパーティーに入ったら?」
「無理だって。毎回断られてるし。パーティー組むと逆に弱くなるしな」
「言えてるー」
背の高い金髪碧眼の美女、ライラがそれに答える。
「シオリが誰とも組まないなら、私も組みませんわよ」
「シオリ?」
「あれじゃないか。日本のシーカー」
「あッ、あの。ものすごく速い子ね。でも、ライラなら余裕で勝てるだろう?」
「もちろん勝てますわね。余裕とまではいかないでしょうけど」
「ん? そう言えば、テレビに出てた気がする。日本語で分らなかったが」
「本当ですの? シオリ、そういうのは嫌いだと思ってたけど」
A国ではダンジョンにアンテナを設置している。維持が大変らしい。小型の端末を見せるとインタビューがあった。英語に翻訳された動画を見つけた。
「古代の森……30階層のボスを二人で倒した……ですの? そんな事ッ」
「確かLV40台前後の三十人パーティーでも攻略不可能とされてたダンジョンのボスだろ?」
「おいおい、冗談だろ。日本のコメディアンも優秀になったな」
「いったい何が……」
「お、メールが来てる。ッライラこれ見てっ」
「日本……丁度良い。確かめないとですわね」
【B国】
B国のとあるダンジョン66階層。二十人ほどのパーティーが探索をしていた。二十代半ばから三十代半ばの屈強な戦士だちに紛れて、十代半ばの女性が水を飲んでいた。
薄く青みがかった銀髪に薄い青の瞳。透き通った雰囲気を持つ。
「フラン。依頼があったぞ」
「私に? 今ダンジョン攻略中だけど」
「そう言うなって。お偉いさんだぞ」
「はぁー。分かった」
テントの中に豪華な設備があった。そこの画面にはとある男が映っていた。
「やあ、フランチェシカ。久しぶりだね」
「……今度は何の用?」
「相変わらず素っ気ない。まあいい、本題に入ろう。実は日本へ行って確かめてもらいたい事があってね」
「日本? またシオリが何かやらかした?」
「はは、正解だよフラン。彼女は先日30階層のボスを倒した。英、米、仏、日本の混合パーティーが挑戦して断念した古代の森のね」
「嘘っ、本当に?」
「嘘を言ってどうする」
「いったい何人で潜ったの? 日本のAからSSランクシーカーたちは例のあの事件で結構死んだでしょ。今の熟してないシーカーたちじゃ最低でも50人以上はいるでしょうに?」
「二人だ」
「は? なに? 聞き取れなかった。二人って聞こえたけど」
「だから二人だよ。二人。その認識で間違いない。さらに竜の巣窟、67階層のブラックドラゴンも倒されたようだ。こっちはLV23から35くらいの十一人パーティーだ。まるで倒す気は無いのに偶然倒したかのようなふざけた構成だろ?」
「……あり得ない。貴方程の男がそんな誤情報を信じるなんてね」
「そう、半信半疑。だが今、確実に日本で何かが起きている。だからこそ確認に行ってほしい」
「そういうのは他に適任者が沢山いるでしょう?」
「正直猫の手も借りたい状況でね。既に送っているのだが、まるで情報が無い。それどころか奇妙な現象が起きていてな。起きてる事は分かってるが辿り着けない」
「奇妙な現象?」
「カミシロ近辺を調査しているのだがね。ダンジョン内で会話を拾っているのだが、どうにも一人で会話しているらしい。しかも口を動かしているだけで声が聞こえない」
「……変なキノコでも食べたんじゃないの?」
「いやいや。そんな報告は受けていない。それにカミシロの通話記録を調べたが……何か細工をされていてね。存在するはずの番号なのに分からないんだ。まるでゴーストと会話しているんじゃないかと思うほどだ」
「色々と意味が分からない……機関の連中がそこまでしてるのに、今更私が役に立つとは思えないけど」
「問題が生じた時、その時と同じ思考では解決出来ない。ここは大胆に切り口を変えようと思ってね。そこで、だ。日本に短期留学をして情報を集めてほしい」
「そんな絵空事のためだけに? せめて学校が私の役に立つなら良いけど、もう得るモノなんて……」
「しかし、才女カミシロと並ぶ者として、この件に興味はないかね?」
「はっ。ちゃんとしたパーティーを組まない人に興味はないよ。そんなの自身の力を過信したただの子供。ああいうのはいずれ挫折を味わって立ち直れずに朽ちていく。何度も見た……」
「辛辣な意見だな……留学の手はずは整えてある。もし気が変わったらお願いするよ……因みに報酬はいつもの七倍だ。返事は三秒以内に頼む、なお無回答は意思無しと判断する」
喋っている間に三秒が経ち、映像がプチっと切れた。画面が黒くなる。
「ちょ!! は? 七倍。は? ふざけっ」
映像が再びついた。
「ウソーーー、びっくりしたかい? このようにチャンスは逃すと後悔する事に……あ、報酬は本当だ」
「オーケー。その依頼受けるわ。それともし、貴方に出会えるチャンスに恵まれたら迷わず切る」
「すまない、冗談だ。そんなに怒るな」
「私も冗談よ。貴方を切ればまともに生きていけないでしょうからね。じゃあ帰還の進捗は毎日連絡する。一週間で戻れるから、手配しておいて」
「休まずにそのまま行くつもりか?」
「飛行機で眠ればいいでしょう」
「相変わらずだな……おっと、シャワーは浴びて着替える事をオススメする。絶対に臭うぞ」
「言われなくてもッ」
「それでは……幸運を祈る……………………」
溜めるな、早く通信切れとフランは素直に思った。そして、今度こそプチっと切れた。
「ペンギンの国、日本……」
各国が動き出したのであった。
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