15 学校の行事
入学してから約一か月半が経とうとしていた。朝礼で生徒が外に集められた。校長先生の適当な前置きが終わり、本題に入ろうとしていた。
「えー、それでは皆さん。お待ちかねのクラス替えの時期になりました」
生徒は皆静かに聞こうとするが、期待から歓喜の声が漏れだす。ここから一週間、通常の授業はせずダンジョンに何度も潜る。特別な魔道具を使い。進んだ階層を録画する。その動画やLVなども参考にクラスが変更になる。A組が一番優秀な生徒が集まるクラスで、F組はその逆。年に三回ほど実施される。
皆が無理をするので並みのヒーラーでは治せないような重傷者が後を絶たない。死人もそこそこに出る。しかし、ダンジョンで起こった事ならそれは自己責任である。
定期的にダンジョンに潜り、ゴブリンの数匹を倒した事実があれば、そうそう退学にはならない。卒業すればカードが手に入る。
「それでは各自、攻略を開始してください。解散します」
一斉に普段の組んでいる人と集まり、ダンジョンに向かう。アヤが近くにいた。
「ごめんね。私もいつもの人と組むから……あ、呼んでる。行かないとっ」
「気を付けて、いってらっしゃい」
「う、うん。ま、またねっ」
(さて、たまにはゆっくりとしたゴブ駆除ライフを過ごすか)
「君一人なの?」
「そうですね~。F組なんで仕方ないですけど~」
「私もF組で一人だから一緒に組もうか」
聞いた事ある声に疑問を持ちつつ、振り向くとレナが居た。
(なにぃ!!!)
「……いえ。僕は一年のF組で地上最弱なんで一緒に居るとご迷惑に」
「大丈夫!! 私もちょっと前まではそうだったから!! きっと君も強くなれるよ!!」
(ファーーーーーーー!!!)
「な、なんで僕なんかと……装備的に魔法使いですよね。それなら多人数のパーティーで戦った方が楽しいですよ」
それを聞いてクスっと可愛らしく笑う。
「んー。声も雰囲気も違うはずなのに……なんか匂いがそっくりなんだよね。私の師匠にっ」
(私だ。暇を持て余した師の。戯れ)
レナは嬉しそうに答えた。二、三年生がゾロゾロと集まってきた。
「れなちゃんなんでそんな奴と? 俺たちと組んだ方が絶対に良いって!!」
「そいつ一年だよ。この辺に並んでたってことはF組でしょw止めときなってw」
「私もF組ですよ。先輩」
「ち、違う違うっ。れなちゃんは努力して強くなったじゃないか!! 努力をしないゴミカス共とは違うっ。もう君はF組じゃない!! LVも技術も首席でっ」
「そうそう。生きてる世界が違うって。ダンジョンでそんな囮にもならない奴連れていったら、れなちゃんの方が危ないよ~」
「それこそ違いますよ。強くなれない人は努力不足じゃないし、ゴミでもカスでもないです。私はただ運が良かっただけ」
「そ、そんなに怒らなくても……」
「それに危険な階層には行きませんから大丈夫ですっ。それでは失礼します」
「あっ!! れなちゃん!!?」
二、三年が背後で恨めしそうに睨んでいる感覚があった。ソイヤのパーティーもそれを見ていた。
「な、なんであんな奴とれな先輩がっ」
「弱いくせにズルイよね。私だって組みたいのに」
「み、皆。キョウは一人だから許してあげて……」
「あいつのせいでれな先輩に何かあるかもしれないだろ? 同じ魔法使いとしてそれは許せんな」
戦士の男、トトモトが言う。
「俺は良いと思うがな」
「なんだよ、トト。あいつの肩を持つのか?」
「俺たちも先輩に助けられた事を忘れるな。奴にも助けられる権利はある。俺たちは俺たちのパーティーに集中するぞ」
「チェ……分かったよ」
レナとダンジョンに行く道中、打合せを行った。ダンジョン内と違い、非常に距離が近い。
「キョウ君のジョブは?」
「無しです!! だから一緒にいると危ないと思います」
「じゃあ。何でも出来るようになるかもね~っ。師匠もジョブがあって無いようなものだから」
「そ、そうですか……ハハ……」
「そうだ。今回のクラス替えは荒れるかもしれないね」
「どうしてですか?」
「満月が近づくと魔物のステータスが上がって凶暴になる。一流の探索者でもその周辺を避ける程よ。今回は中盤から後半に重なる」
(あれ個性じゃなかったんだ。そう言えば結構前に習ったかも)
「そ、そうでした!! 忘れてました!!」
「うっかり屋さんだねぇ。このっこのっ」
肘で軽くクイクイとされる。同じダンジョンに行くであろうパーティーから、殺意が向けられる感じがした。
「後半だと危険だから早い段階で手伝おうと思ったの」
(その判断も兼ねての試験って事か)
「そういう事でしたか。お気遣いありがとうございます」
「そうだ。パーティーを組むんだから敬語は無しだよ」
「ダンジョン内ではそうさせて頂きます」
ダンジョンに到着した。内部ステータスをLV3に合わせる。
「よし。じゃあ入ろっか。録画忘れないでね。うっかり屋さん」
「あ、そうでした」
さっそく発見したゴブリンと鍔迫り合いになる。
「くっ。なんて凄まじいパワーだ!!」
「任せて」
氷の魔法、<束縛する氷>でゴブリンの腕には重りを、脚は地面に貼り付くように固めた。
「今よ!!」
剣を弾き、そのままゴブリンの急所に一撃、何とか倒した。
「す、すごいです。あ、凄い先輩!!」
「レナでいいよ」
「レナは凄い魔法使いだよ」
「キョウも良い太刀筋だったよ。その内師匠と三人でパーティー組めるかもねっ」
(それはちょっと。実体のある分身魔法作らないと……)
一斉にダンジョンに入ったため、人とよく会う。魔物の数が少なくなっているので奥に進む事になった。三階層でアヤたちのパーティーを追い抜く。ソイヤがレナの身を案じる。
「れな先輩。深い階層はそれと一緒だと危険ですよっ」
「大丈夫。十階層くらいまでなら守り切れるから」
「じゅ、十階層……!!?」
「そ、そんなの駄目ですよ」
「何故?」
「それは……イ、インチキでクラスを上げても、その人のためにならないですよッ」
「そ、そうです!!」
「それは学校側がしっかりと判断するから過剰にクラスが上がる事はないよ。私は嬉しかったけどな、深い階層に行けた時。それに見せてあげたいの。もっと広い景色を」
(本当に優しい人だ。講師とかに向いてそうだな)
彼等はその純粋さに何も言えなくなった。先に進もうとするとソイヤが怒声交じりに呼び止める。
「キョウ。勘違いするなよっ。別にお前が強い訳じゃない。先輩の力があったから、偶然俺たちより深く潜れただけだッ。お前は運がいいだけの小物なんだよ!!」
「石井。俺のことはいいから、アヤをしっかりと守ってあげてくれ」
「ッ……き、貴様に言われなくてもそのつもりだッ」
「キョウ……」
距離が離れた頃、レナが興味深そうに見つめていた。
「うん。君は良い男になるね。私が保証する」
「いや、それは無いで……かな」
(嘘つきだから……)
十階層に着く。嬉しかった。レナが誰かを守りながらここまで来れるようになっていた事に。成長を感じられる。ついテンションが上がってしまう。
「ダンジョン内とは思えない良い眺めでしょう?」
「凄くッ。綺麗で最高!! 来れて良かったーッ」
「キョウ、嬉しそうだね。本当に連れてきて良かった」
二人でゆっくりと食事をした後、ダンジョンから帰還する。これによりほぼ初日だけで目標を達成したと言っても過言では無い。
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