145 黒霧家
黒霧とシオリが外に出て対峙すると当主が感謝の言葉を口にした。深々と頭を下げた事に驚いて、思わずそれを止めた。
部屋の中で話す予定だったが、二人を観戦しながら話す事になった。空気を変えようと思ったからだ。それにあっさりと了承してくれた。見た目に反して柔軟な御仁のようだ。
外に出たシオリが双剣を抜いていた。相手も刀を抜く。戦いが始まった。当主がいう。
「それにしても竜の討伐。お見事だった」
「いえ。通りかかっただけです。皆さんが削ってくれていたからこそ……」
今はデッドになっている。しかし、不思議と丁寧語を使ってしまった。当主はジッと瞳を覗き込む。
「ハッハッハ。面白い男だ」
戦闘は続いている。最初は面倒そうだったシンリュウ。しかし、シオリの実力を認めたのか、顔つきが真剣になった。
「聞くところによるとカムイと戦っただとか」
「ええ、強かったですよ」
「それはこの星の人間では、か?」
「……」
「いやいや。怒っている訳ではない。カムイは以前よりも心身ともに急成長していた。そちらの方も感謝している。忌憚のない意見がほしくてな」
「そうですね。出会った中では最強クラスかと。しかし、以前に発生した異形種のスタンピード。おそらくあれを起こした人間には勝てないと思います」
「……ほう。それほどの者が隠れていると」
「はい……」
当主は顔つきが変わった。なにかを守ろうとするような、優しくも鋭い眼だった。
俺は巻き藁を取り出した。ただの巻き藁ではない。
「それは?」
「先日の竜の硬さを再現したものです」
「ッ……なんと……」
ずっと戦っていた二人が興味を示した。武器を収め、ペコリと頭を下げる。シオリが隣に座った。使用人が早速設置をしようとした時、カムイが近寄ってきた。
(家にいたんだ……)
「助かる」
「ちょっと若!!」
「こらカムイ!!」
「も、もう一つありますので……」
そう言ってカムイはそれを保確した。山に戻った時に使い気のようだ。当主が恥ずかしそうに言う。
「申し訳ない……強くなる事において、なりふり構わない性格で……まったく……まだまだ未熟」
ニコニコとした女性が少し離れた場所から彼を見ていた。そして、なにか言いたそうな視線を向けていた。それが気まずかったのか、当主は目を逸らす。どうやら奥様のようだ。近づいてきて丁寧に挨拶をしてくれた。
「愚息が申し訳ありません」
「本当に大丈夫です。お気になさらず」
「器の大きい御方。神水とどうかしら?」
カコーンとししおどしの音が響いた。
「えっ……あ……いやー……」
「よしなさい。困っている」
その時、母親だけ気がついた。シオリが僅かに距離を詰めた事に。
「あらあら。これは難しそうね」
その間に、もう一つを庭に設置した。早速それに三人が飛びつき、試し切りする。しかし、刃が通らない。カムイもさり気なく混じっていた。
ギルドマスターに提供した技術の事を少し話した。会話をした感じ、伝統は残しつつ、改良するようだ。
「それを使えば倒せるようになるのかね?」
「それは分かりません……どれだけそれを発展させるか。そして後は使用者の努力次第ですね」
「無論、理解している」
奥方が言う。
「そうでした。デッドさん、上代さん。夕飯食べて行きませんか?」
(それは流石にご迷惑に……)
それにシオリが答えた。
「食べる」
(即答した!!)
「い、頂きます」
目くばせをすると使用人が足早になり、準備に取り掛かる。