143 静かな圧力
数時間後、ギルドに顔を見せるといつもの二人がいた。経緯をある程度話した。ギルマスは立ち上がる。
「感謝する……」
深々と頭を下げた。重傷者は多数いた。だが、幸い死者はでなかった。
「偶然だ。気にする事はない……」
「それにしても良かったのかい? 結構カメラがあったみたいだけど」
「それは大丈夫。妨害してある」
「は~。すごいね」
ギルマスが聞く。
「そうだ。今回の魔物……どの程度の強さなんだ?」
「……ざっと、フェンリルの2.5倍ほどかと」
「ッ……それが四体も……歪みの原因は分からないのか?」
「まだなんとも……」
「そうか……」
翌日、配信サイトでは幾つもの動画が上がっていた。しかし、どれも一部分だけが映っていなかった。突然現れた男。どのカメラでもそこだけが不自然に抜けていた。次に映るのは地面に落ちた竜らしきものと探索者だけだ。
その謎の現象に様々な憶測が飛び交う。魔物や妖怪、妖精、宇宙人やダンジョン人などだ。その場にいた者は口をそろえて言う。空間の裂け目から男が現れ、竜を倒して空間に吸い込まれたと。
その後、その地はパワースポットとして、人が度々訪れるようになったという。
動画を見ながらフランが唸っていた。俺はソファーでくつろぎながら、ジュースを小まめに飲んでいた。
「ん~。どれも駄目ね……確かにエクスだったと思うんだけど」
傍でじゃれついていたシオリがフランの方を見た後、俺を見ながら言う。
「エクスだった」
俺はゴクゴクとジュースを必死で飲む。旨い、と完璧なリアクションをして誤魔化す。
「そうですわね……」
「あの怪物を簡単に倒したって事?」
「そう」
「……弱らせてたから……」
「じゃないですわね……」
「だよね。あのえげつない術から抜けた後もピンピンしてたもんね……」
「竜は私たちよりもただ一人の人間を。エクスを恐れてましたわ」
「怯えてた」
「ん~。いったい……」
スゥと立ち上がり、兎と遊んでいるシズの方に行くと、シオリもトコトコとついてきた。
「……シオリ、今日の夕飯なに食べたい?」
「竜肉」
「ははは、大変な戦いだったよな。動画で見た!! 今日は豪華な肉料理かなぁ!!」
「やりましたわ!!」
「楽しみ!!」
それを聞いて、フランとライラが喜んでいた。なにも言わなかったシオリ。しかし、まんざらでもないようすだった。
次回からは投降頻度が数日に一回になります。時間は変わらず22時投降です。