141 折れた探索者
カヅキは必死で立ち上がろうとするが、激痛が走り動けない。そんな時、目の前に土と氷の壁が現れた。
さらに優しい風が周囲を包み込む。癒しの力を纏った風。氷に触れる事で適度な冷風になっていた。フランとライラの魔法だ。
ライラは血みどろだが、自動で傷が治っている。フランが申し訳なさそうな表情をしていた。恐らくは庇ったのだろう。
皆は徐々に体の傷が癒えていく。カヅキはなんとか起き上がり、地面に座って呟いた。
「……まだ子供だというのに。頼りになる探索者だ」
ヒーラーもその風で回復し、気力を取り戻した者たちが<ヒール>を使用する。何人かは戦闘不能になったものの死者はいない。再び体勢を立て直した。クロスが言う。
「戦える者は武器を取れ!!」
万全ではない。しかし、彼等は諦めない。少しずつだがダメージは与えている。不屈の精神で挑む。そこで、ボロボロのカヅキが割り込んできた。
「クロス……もう少し待ってくれ……」
「どうした? お前は休んでても……」
「違う……竜はもうじき弱体化をする……」
「……なるほど……総員今のうちに準備をッ」
カムイが逃げ回る。体力が減り、余裕がなくなってきた。その時、竜がいる位置。地面に六芒星の魔法陣が現れた。黒霧や鴨など由緒ある家系が協力し、作り出した魔術。クロスが叫んだ。
「これが最後のチャンスだと思え!! 倒し切るぞォォ!!」
気合の入った雄たけびを上げて突撃する。
「うおおおおおお!!!」
遠方から中年にも初老にも見える者たちが、彼等を見守っていた。
「後は頼んだぞ。カムイ……」
対策本部にいるギルドマスターにとある報告がきた。報告した者は深刻な表情をうかべていた。
「なに!! 本当か!!」
「は、はい……間違いありません……」
「……」
ギルマスは無力さ、悔しさが混じった表情をみせた。
「僕も行こう……」
「いいのか?」
「……若人を逃がすくらいはしたいね~」
ギルマスと校長は立ち上がる。代理に指揮や連絡を任せ、現場へと向かう。
最初に味方の魔法が竜に深いダメージを与える。竜は鳴き声を出した。その魔法に続き、皆が接近している時、先頭の者が数人足を止める。
「おい!! なにを!!」
「お、おい……あれを……」
その者が言った方向。真上を見上げた。
「ぁ……ぁぁ……っ……そ、そんなッ……!!!」
「な、なんで……ッ」
「そんな馬鹿なァ!!!」
「あれは……他の国で暴れているはずの……っ」
空には青と白、緑の竜がいた。それらは地上の人間を睨み付けていた。今まで決して諦めなかった探索者が数人、武器を落とし膝をついた。
膝を付かないにしろ。他の探索者は赤い竜を倒す事を忘れ、ただただ立ち尽くす。フランたちですらそれを見て動けなかった。
「ッ……なんでよ!!! もう少しだったのにッ!!」
「……さすがに予想外……」
「ここまで……ですわね……」
赤い竜が暴れると魔法陣から抜け出した。そこから力を振り絞り上空を舞う。そして、四体の竜は力を溜めてブレスの準備をしていた。彼等はそれを見つめる事しかできなかった。
誤字報告下さった方、ありがとうございます!!! 修正しております。