13 素敵な上級生
アヤコのパーティー、六人は竜の巣窟の二階層にいた。このパーティーのリーダーは石井聖夜、重騎士である。副リーダーが早川軽太郎、軽戦士だ。
そして、僧侶のアヤコ。他には男子が二人と女子が一人で魔法使いのラリ、戦士のトトモト、スカウトのマコがいるバランスの取れた六人のパーティーだ。
「良しっ、ここからは三階層だ。初めての試みッ。慎重に行こう!!」
「おう!!」
「MPと魔物の報告をしっかりね」
「分かってるよ!!」
「私頑張る!!」
彼等のやり方は王道的な戦法である。
スカウトが少し前を先行する。仲間の死角になる箇所をクリアしたり、音や魔物の声を敏感に察知。魔物がいたら臨機応変に対応する事を求められる。主に一匹ずつおびき寄せる役割をこなす。
おびき出すと重装備のソイヤが魔物を受け引き付ける役割をして、パーティーの攻撃の時間を稼ぐ。隙あらば剣で攻撃を加える。
引き付けている内に魔法使いや戦士が火力で叩く。アヤコは傷を受けた仲間の回復、及び身体の強化などを行う。軽太郎は持ち前の速さを活かし、後衛の護衛をしつつ前衛の補助。護衛とは背後や側面から来た魔物、正面突破をした魔物の対応をしている。
スカウトが走って戻ってくる。
「一匹来たよ」
「任せろ!!」
ソイヤが丈夫そうな金属の盾でゴブリンの攻撃を受ける。敵は馬鹿の一つ覚えのように盾を切りつける。近づいた戦士が戦斧を振る下ろし魔物を倒した。魔法は基本節約気味になる。彼等にMPを回復させる術は無い。
「三階層も強さはさほど変わらんな」
「アヤコがいるから身体能力が上がる。楽に倒せるから持続に繋がる。傷を治せるのも大きい」
「ほんと最高の僧侶をもった!!」
「そ、そんなことないって。皆がいるから戦いが楽になるんだよ」
「そうそう。アヤチーの言う通りよ」
同じ戦法で奥に進んでいく。ある時、スカウトが少し浮かない顔をした。
「ごめん。五匹来たっ」
「大丈夫だ。俺に任せろ。<ヘイト>」
一定の距離に入る魔物が痛みを感じる。不思議な事にそれを行っている相手が自然と分かる。それを嫌い魔物がソイヤに向かう。
だが一匹、痛みに鈍感なゴブリンが僧侶に向かっていく。
「アヤに手は出させない!! <チェーンマッチ>」
決闘を強いる技だ。魔物の脚に半透明の鎖が巻き付く。それはソイヤの脚にもついていた。彼の体に10回触れないと消えない鎖である。
その魔物は鎖の足枷を外す事が出来ない。僧侶に届かないので仕方なく、彼女への攻撃を諦め、彼に向かっていく。
「馬鹿がっ。背を向けたな!! <軽太郎斬>ッ」
そこそこの加速をすると軽太郎が背後から魔物を切る。
「ナイス!!」
魔法使いが<ファイアーボール>を使用して、一匹撃破。戦士が二匹、スカウトが短剣で一匹倒して切り抜けた。
「ふぅー。俺の魔法でなんとかなったな」
「五匹か。上の階層で一度だけ体験してて良かった」
「待って後ろから!!」
スカウトが忍び足のような音を拾い叫んだ。既に間近まで来ていた。
「<DPS世界第一億位の剣撃>!!」
一見凄まじいが、よく見たらそこそこの速度の剣撃を数回叩きこむ。
「俺が出す究極の斬撃に耐えられる者はいない」
「よく反応出来たな。助かった」
「当たり前だろ。反射神経なら自信がある」
「……一旦戻らない?」
「どうしたマコ?」
「何となくだけど嫌な予感がする」
「どうするソイヤ?」
魔法使いが言う。
「俺はマコに賛成だな。スカウトの勘は信じるべきだ」
戦士は言う。
「俺は進んでも良いぞ。体力には自信がある」
ソイヤは悩んだ。
「……アヤコ。MPはどのくらいある?」
「多分、この魔物の量が続くなら最高で30分くらいと思う」
「かなり奥まで来たからな。地上に戻るか」
「トトもそれでいいのか?」
「大丈夫だ。ダンジョンではリーダーの命令には従うのは基本だ」
引き返す際、角狼など二階層では見ない魔物に襲われた。陣形を維持しつつ勝利する。二階層が目の前に差し掛かった時、陰に隠れていたゴブリン二匹が矢を放つ。魔法使いと僧侶の脚に刺さった。
「ゴブリンアーチャー!!?」
「よくもやりやがったなッ」
軽太郎が排除しようと近づく。逃げようとせずあっさりと近づけたので、皆は安心する。
するとさらに物陰に隠れていたゴブリン三匹が、軽太郎の側面から太腿を刺した。弓ゴブリンがさらにアヤコに矢を放つ。それを近くにいた戦士が防ぐ。
「ぐあああ!!」
「罠っ!!」
「<ヘイト>!! <チェーンマッチ>!!」
四匹のゴブリンを引き付ける事に成功した。しかし、残り一匹が不意打ちを喰らい地に伏せる、軽太郎の頭部に剣を振り下ろそうとしていた。スカウトも既に走っていたが間に合わない。
「逃げろ軽太郎ぉぉおお!!」
「くそっ……体が……ッ」
「<風刃>」
「え?」
背後から風の刃が飛び、的確に魔物の急所を撃ち抜いて倒した。
「す、凄い。一気に三匹もッ」
「まだ終わってないよ。早く態勢を整えて」
「は、はい!!」
スカウトが一匹、ソイヤ目掛けて飛び込んだ一匹を戦士が撃破する。アヤコが<ヒール>をかけて皆を癒す。
「あ、ありがとうございました!!」
「ゴブリンにも斥候がいるから。隙を見せたら簡単に崩れる。次は気を付けてね」
「勉強になります!! あ、貴方は?」
「二年の風下よ。学校で見かけた事があるかも」
「同じ学校ってこんな偶然っ。先輩だったんですね。俺たち一年のD組です!!」
「そう、頑張ってね」
「はい!!」
風下は何事も無かったかのように、熟練者を思わせる足取りで階層の奥へと進んでいった。
「凄い……一人でここまで来るなんて……」
「俺もあんな魔法使えるようになるかな……いや、無理か」
「かっこいいねー。私も先輩みたいなのを目指す!!」
「マコ、お前はスカウトだろ?」
「そういう意味じゃない!!」
危うく死にかけたが、彼らはなんとか地上へと戻る。
誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。