131 準備運動
海水浴場を探していると、どうやっていくかとなった。そこで話が盛り上がり、レナも誘うということになり、後日再び水着を買いに行った。
シオリは猫の世話があると言ってこなかった。俺はショッピングモールの吹き抜けから一階を眺めるフリをして、<マルチビジョン>を使い、ウィンドウショッピングを楽しんでいた。
当日、どんな経緯でそうなったかは分からないが、校長のマイクロバスで現地に向かう。三匹をケージに入れて連れていく。
「校長先生ありがとうございます」
「たまには使わないと免許がもったいないからね~」
(え、たまには……)
フランとライラ、レナはテンションが高い。その言葉を気に留めずにお礼を言っていた。隠蔽を使い、ケージを魔防壁で囲う。
(ね、念のため……う、疑う訳ではないけどね……)
フランが驚いた声を出す。
「シオリっ。下に水着つけてきたの!!」
「時間の節約」
「帰りはどうするの?」
「……ぁ……大丈夫。考えてる」
レナがシズの面倒を見ていた。アイスを食べたので、温かいお茶を渡す。耳がピコピコと動く。
「レナお姉ちゃん、ありがとう!!」
「っ……ん~、かわいい!!」
抱きついて頭を撫でていた。レナは最初は驚いていたが、すぐに受け入れた。
そんな時、ライラが隣にきた。窓を少しだけ開けるために、目の前で前屈みになった。その大きさに圧倒される。ハッとして目を逸らした。開けると上品に隣の席に座る。風でライラの髪がサラサラと揺れる。
いつもの様子とは違い、静かな大人の雰囲気を醸し出す。
「潮風が……心地いいですわね」
(まだ現地遠いけど……)
近くにはビル、遠目に山が見える。
「ああ、良い風だ」
「波が……」
ふとライラが会話を止めた。斜め後ろでシオリがソフトクリームを食べている。それに気がつくと叫んだ。
「あ、アイスありますの!!」
「早く食べないと溶けるよ」
席を立って袋をガサガサと漁る。するとシオリがアイスクリームのチョコ味のカップをくれた。
「ありがとう」
「うん。あ、ちょっとほしい」
カップを渡すと4分の1を美味しそうに食べる。そのままカップを返してきた。
「ありがと。美味しかった」
真後ろの座席にいたフランが、食べ比べようと提案する。バニラ味のカップだった。ライラは抹茶でシズはイチゴ、レナはチョコミントだった。
ワイワイと騒いでいる内に、海に到着した。到着予定より少し早い気がしたが、目の前に海が広がる。周りには誰もいない。
「海ですのー!!」
「「「海だーー!!」」」
フランが発信機をつけたペンギンを解き放つ。するとペンギンは一目散に海に走り出し、海に浸かるとペチっと倒れた。そのまま腕を高速で動かすとパシャパシャと水が飛び散る。しかし、一向に前に進まない。
「校長先生……」
「ん?」
「目的地、遠浅の海でしたっけ?」
「あー。溺れたら嫌じゃない? おいちゃんの責任だしー」
「……旅館を予約してますので……」
ちょっと怖い表情のフランが校長を見た。
「じょ、冗談だよ~……準備運動ってことでっ」
フランが笑いながら言う。
「そうですよねー。準備運動は大事ですよね!!」
「ははは、それに今日は事故が起こらない気がするからね~」
校長はチラリとこちらを見た。
「そ、それは良い予感ですねっ」
ペンギンを綺麗にして、再びバスに乗り込む。先に旅館でチェックインして、猫と兎を部屋に入れた。旅館は海まで徒歩でいける距離にある。
そして、この旅館はペット可だ。部屋の中にペット用の部屋があり、家の匂いが付いたクッションなどを置いて、のびのびと過ごしてもらう。飼い主の許可があればカメラを設置し、その部屋のみを店員が見てくれるサービスもある。値段は高いが、ダンジョンで稼いでいるので問題ない。
今度こそ目的地に到着した。
「海ですのー!!」
「「「海だーー!!」」」
「海ー」
俺たちは初めてかのような雰囲気を出して全力で喜んだ。先ほどよりも人数が多い。深い青と水色の地平線。真っ白な雲が、遠景の神秘性を高めていた。
すぐ傍には透き通る水。白い砂浜。青や淡い緑がクッキリと分かれているが、それは違和感なく見事に調和している。本当に綺麗な海だった。
誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。