129 唐突に始まる審査
数日後、フランは動画を見ていた。有名になったので目についたのだろう。謎の人物に関しては、知らないの一点張りで、特徴も言ってないらしい。
「あー。まあ、ダンジョンを舐めてるとそうなるよね……」
ライラがそれを聞いていた。
「ああ、例の悪質な人たちですわね」
「でもさ。この魔物なんで急に目標変えたんだろ? シオリ、なにか分かる?」
シオリが動画を見る。
「…………」
「流石にこの動画だけじゃ無理か」
魔物の様子を隅々まで凝視する。何度も動画を再生していた。
「……臭い、視認……見失ってる……」
「はぁ? 目の前にいるでしょう?」
「ぱっぱかぱーん!! 今日のおやつはシュークリームでーす!!」
「……どしたのキョウ? そんなハイテンションで?」
「え、まあ。た、たまには……」
(話題をそらそうかと)
そう言いながらも即行で集まってきた。シズの耳と尻尾が勢いよく動いていた。満面の笑みを向けてくる。
「わーおいしそー!!」
「すごいですの。これは高級店”プらイスれす”のシュークリーム!! よく手に入れましたわね!!」
「朝から並んだからな」
(ギルマスがなんかくれた)
個数は校長が決めたらしい。ちゃっかり校長の分も入っていたとか。
「良い匂い。良い匂い」
「……そだな」
シオリが隣にきて、そう呟きながらシュークリームにかぶりつく。
「お、美味しい?」
「おいしい。ありがとう」
モグモグと美味しそうに食べているシズとシオリの隣で、ライラとフランが精神統一をしていた。シオリが食べないのかと思って手を伸ばすとパシンっと弾かれた。
二人はシュークリームを匂いを嗅ぐ。なにかに納得したようにうなずいた。
「香ばしいですの。窯……ですわね」
「ええ……クッキーのような仕上がり……」
そして、小さくかじりつく。
「んん!! なんて濃厚なカスタードクリームですのー……」
「すごい……あの北海道のなめらかなミルクの味ぃ……」
二人はちらちらパッケージを見ていた。
「口のなかでとけるっ。でも生地に上手くからみついて……」
「ええ……見事な食感を演出してますわ!!」
「ほっぺが落ちそうよ」
「服が破れそうなほど美味しいですの~」
(最上級の味ってことか。ライラって超漫画好きだな)
二人が満足しているとある事に気がつく。中身が違うシュークリームをシズとシオリが美味しそうに食べていた。
「もうないよ」
「え、ちょっと!! 聞いてないですわよ!!」
「なに食べてるの!!」
「慌てなくても数はあるよ。シオリの分はもう食べてるから残ってないけど」
(食べ物の恨みはなんとやら)
安心してシュークリームをお皿に置くと、距離をとり、遠くで先ほどのようなレビューを始めた。
その後ものんびりと過ごしていた。トイレから戻った時、なにか言い合っていた。
「山ですの!!」
「海がいいの!!」
「空」
「家が安全だと思う……」
「なにかあったのか?」
「キョウ。たまには皆で遊びに行こう、ってなって。どこが良いかを決めてたの」
(シオリ空なの?)
「キョウはどこがいい!!」
「じ、地面……」
シオリがポフポフと突いてきた。痛くはないので安心だ。
「むー!!」
「ライラはなんで山がいいんだ?」
「滝ですわ……」
「すごい滝があるのか?」
「ええ、きっといい滝行になりますの」
(完全に修行脳になっとる!!)
「もー。遊びだって言ってるでしょ!!」
(フランが遊びたいっていうのは珍しいな)
「フランは?」
「それを説明するには見てもらった方が早いね」
フランはベランダに出る。いつの間にか仕切り板が扉になっていた。柵にも猫が出ないよう網があった。
フランの家の窓は指紋認証になっていて、手をかざすと開いた。こっちの窓もフランが通れるように、
指紋認証が導入されていた。
部屋の中は家具がなく、ペンギン用のプールが真ん中に置いてあった。周りが濡れないように工夫してある。
「リンちゃんが広い海で泳ぎたいって言ってるの」
「広い川でぷかぷかしてればいいですわ!!」
「ライラ……分かってないわね。真水より、海水の方がペンギンには嬉しいってデータがあるの……」
プールの水を調べてみると海水に寄せてあった。フランは真顔だった。ライラはその迫力に思わず言う。
「空」
「……海にしましょうか……」
「二票ゲット。やったねリンちゃん!!」
ペンギンはペシペシと腕を振っていた。シズはペンギンのためならと海に決めた。
こうして俺たちは海に行く事になった。
誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。