12 雷の少女
内部LVを200から30に抑えた。ソロの時は気にしないが、出来れば彼女に倒して欲しい。それが出来れば良い経験になる。
「MPは?」
「大丈夫。すぐ回復する」
(なるほどMP回復を早めるスキル持ちか)
俺はこの階層、周辺の階層も含めて魔物をサーチし、MPを吸収しているので尽きる事はほぼない。複数の魔法を同時展開し、このフロアの状況を全て把握する。ボスの行動の起こりを潰す気で行かないとこの人数、このLVでの攻略は厳しい。
30階層、巨大なアルラウネがいる場所に移動した。遠くからもそれを観察する。下半身は植物。上半身が魅力的な女性の魔物。植物の根が無数にあり、敵を寄せ付けない。
「俺が出来る限り道を作る。上代は本体を頼む」
頷くと顔つきが変わる。剣を二本抜く。
「雷鳴忌避。其を畏れぬ者。何人も去ぬ。<紫電一閃>」
武器に紫の雷を付与すると、一瞬で加速して魔物に突進する。射程にはいると魔物の根が彼女の行く手を阻む。
「<飛雷乱舞>」
複数の雷が本体を目掛けて襲い掛かる。飛雷の応用魔法の様だ。上代は根を完全に無視した。完全に俺に命を預けている。
(初対面でそれは出来る事じゃない。色んな意味で恐ろしいな)
彼女の邪魔をさせないために<フレイムブレイド>を使用する。
炎の剣が宙に多数出現し、根を全て切り裂く。アルラウネは予想外の出来事に驚く。しかし、接近する少女を止めなければならない。手を前に出すと植物が伸びた。それを渦巻きにし、盾のように変化させて冷静に雷を防いだ。
「やるな。それじゃあ……<ミラージュ>」
防がれた事に動揺を見せない上代。急接近していた彼女は魔物の目を狙う。魔物の腕から先端が鋭い尖った、鞭のようにしなる枝が複数現われ、彼女をくし刺しにする。
しかし、くし刺しにした者は忽然と消えた。同時に逆方面から突然の激痛が走る。片目を切られた。原因はたった今消えた彼女に切られた事だった。<ミラージュ>は蜃気楼のような幻影を見せる錯覚の魔法である。
「<赤雷>」
接近すると同時に範囲の広い雷の魔法で、魔物の大部分にダメージを入れる。彼女は戦い慣れていた。魔物は危機を感じ、早々に切り札を出そうとする。
魔物は動揺していた。人数が少ないのに今までの敵とはまるで違う。特に後ろのアレは危険だと体が自然と警鐘を鳴らす。
男は絶妙な距離を維持しており、焦って無理やり叩こうとすれば反撃をもらい、すぐに敗北するだろうと予感していた。だからこそまずはこの近くの敵から狙う。
少し溜めると、体中からおびただしい数の棘を出し、伸ばす。これで敵を幾度も葬ってきた。
それを見て上代は即座に離れた。当たらなかったものの、伸ばした棘の攻撃は継続しており、彼女に襲い掛かる。
<フレイムブレイド>で棘の七割を削る。LV30での単一魔法では上手くやってもこれが出力限界。範囲と火力が足りない。だが、消しきれなかった棘に上代は即座に反応する。
「如何なる闇を断つ雷。我阻むこと敵わず……<迅雷風烈>」
脚に雷が纏わりついた。今までも十分速かったが、今度はさらに加速する。全ての棘を置き去りにして走り続ける。避けるだけではない。隙あらば<飛雷>でダメージを与える。
負けじと<ミラージュ>を使い、敵の判断を鈍らせる。そして、再度<フレイムブレイド>を使用し、残りの根を全て燃やし尽くす。
(凄いな、動きが全然違う。殺されかけたのに、あの人たちにはかなり手加減をしていたのか。サイトに書いていた優しいは嘘ではないらしいな)
続けて氷魔法、<デッドブリザード>を使用する。数多の氷が付着し、少しずつ凍結していく。魔物は気が付いた。地面や腕が凍って根が出せなくなった。
最大の危機を察知し、力技で乗り切ろうとすると、魔力を込めて放出し、氷を割ろうとした。氷に少しずつヒビが入り出す。
(気づかれたか。長くはもたなそうだな)
上代もそれを察したようで力を溜める。今のうちに<魔力割譲>で彼女のMPを回復させた。恐らくあれ等の付与魔法は強力だがMPを常時消費している。
「我に力を与えたまえ。其は万雷の化身……<雷公>」
(おお……なんて綺麗な……)
体全体に先ほどとは比較にならない程の強い雷が絡みつく。三つの付与を重ねることで、途方もない強大な力を得た。まるで雷の如き速度で接近する。通り過ぎるだけで辺りが焦げ付く。巨大な魔物の頭部を一気に越えると力を込める。
「<滅迅双雷火>ッ」
凄まじい大きな雷の塊。それを全力で振り下ろす。魔物の上半身が塵になる。さらに剣や体に纏う全ての雷を注ぎ込み、そのまま魔物の全身を焼き払う。
(天才的な戦闘センスと強力なバフ。そして、多彩な技。普通にLV以上の力を持っている。そして、瞬間的だがさらに驚異的な力を得る事が出来る。凄いな)
魔物は朽ち果て、彼女が膝を突いた。<セイクリッドヒール>で体力を回復する。
「凄かったよ。途中処理しきれなくてごめん」
「……インビジブルは?」
「お休み中」
「最後私に何かした?」
「上代なら勝てるって確信した」
「……」
上代が拳を前に出してきた。拳を合わせようとすると寸前でかわし、腹部に一発、ぽふっと殴ってきた。痛くはない。じゃれ付いた感じだった。
「私の勝ちっ」
そう言いつつも本心では納得してない様子。
(負けず嫌いなのか。意外だ)
元々倒す気はなく鞄などを準備してなかったが、殆ど塵にしたのでほぼ荷物はない。残った魔物の一部を上代に持たせた。そして、一階層まで降りる。
(さて、俺はこの辺で……)
入口付近で木陰に隠れ、空間転移で脱出する。上代は気配が消えた事に驚き、即座に弱い雷を飛ばして周辺をサーチした。
「いな、い……?」
上代は急いでダンジョンから出ると携帯を取り出す。一分程弄った後にアドレス帳に辿り着いた。電話をかける。
「あっ!!」
「はい」
「えっと……あっ……その、あっ」
「上代?」
「もしぃもしっ。どなたですか!!」
「え? デッドだけど。落ちついて……」
彼女は電話に慣れてないらしい。
「待ってて!!!」
時間をかけて深呼吸をした。ジッと待っていると喋り出す。
「……今どこ、無事?」
「外。帰宅中。心配かけたならごめん」
「消えた?」
「いや? 普通に歩いて帰ってるよ。あー、充電が……」
「あっ」
通話が切れた。上代も珍しく切れた。
「次会ったらー……会ったら? ……勝つ」
何故怒ったのか自分でも分からなかった。しかし、深く考えずに彼女も帰宅した。
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