128 志
家でお昼ご飯を食べた後、静音は絵を描いていた。とても上手だ。
「すごいなシズ!! そっくりだ」
「えへへ。絵を描くの楽しい!!」
「そうか」
兎がシズに寄ってきたので、道具を置くとしゃがみ込む。そのまま撫でていた。
動画を見ていると、オススメに変な動画が表示された。中身を見る。ダンジョン内で悪質ないたずらをして、他の探索者を困らせる動画だった。何本もあった。内容は徐々に過激な方向に向かっていた。最新で配信中のものがある。
ダンジョン内での行為だから強くは咎められない。この程度の実力なら強い者たち、フランたちなら平気だ。しかし、これが命に関わる人も大勢いる。
この行為は探索者から大きく外れている。中堅をもっと作りたいのに、それに影響があるかもしれない。
「シズ、ちょっと出かけてくるよ?」
三人は今ダンジョンに潜っているので留守だ。
「うん。どのくらいで帰る?」
「一、二時間くらいかな。冷蔵庫に色々に飲み物とか入ってるから。それとリリたちを頼む」
「うん!!」
ギルドに転移する。ギルマスに今回の事を聞いてみる。
「ああ、その件か。恥ずかしながら気が付くのが遅れた。規約違反。今、免許のはく奪にむけて動いている。模倣犯が出てくるかもしれない。野放しにはできない」
「そうか」
「行くのか?」
「被害にあった人を助けに」
「そうか……助かる」
魔物と戦っている者たちの背後から動画を撮りながら、攻撃を仕掛けていた。
「お前らァ!! なにしとんじゃ!!」
「ハハハハ!! ダンジョン内じゃ、背後も警戒するのが当たり前だろ!!」
ほかに注意が移ったことで狼の魔物からの攻撃を受けてしまう。パーティーは危機に陥り、逃げる事を選択する。魔物が弱った獲物を追う。
「うお!! 良いの撮れた!!」
「コメントも流れまくってるぞ!!」
「ハハハ!! 追え!! 最後まで見届けるのが俺たちの義務だ!!」
「皆さん!! これから衝撃的な映像が流れるかもしれません!! ご注意をw」
追い詰められて転びながらも剣で魔物を追いはらおうとする探索者。それを見てゲラゲラと笑う撮影者。その時、魔物が一斉に止まった。
「ん? どうしたんだ?」
「あれ? さっきまであんなやついたか?」
フードに仮面の人間がいつの間にか探索者の前に立っていた。
コメントに幽霊など様々な言葉が流れた。なにより多かったのが、その部分だけ画質がおかしい点を指摘したものだった。
探索者は謎の男を見て、第一声にこう叫んだ。
「あ、危ない!! あんた早く逃げろ!!」
(良い人たちだ。大丈夫。俺たちのみ気配を感知できないようにした)
<ヒール>を使う。一瞬で回復する事を避けた。そこで、撮影している物たちが異変に気が付いた。
「お、おい。なんか急に魔物がこっちを……」
「か、囲まれてる!!」
その時、撮影者が襲われた。
「うわあああ!!」
「やめろォ!!」
必死に剣を振るが避けられる。すると後ろから爪で攻撃されて背中を負傷する。
「ぐあ!!」
「いたぃっ……いたいッ」
「お、おいお前!! 助けろ!! ヒール使えんだろ!!」
「……」
「なんか言えよ!! ひ、人の命がかかってんだぞォ!!」
「この人たちの治療中が先だ」
「くそ!! 逃げるぞ!!」
ボロボロになりながらも必死に逃げる。撮影者は負傷しながらも自分たちの様子を撮り始める。それが好評だったらしく、撮影者は笑っていた。
負傷を治すと探索者は言う。
「ありがとう、助かったよ」
「くっ。俺たちもまだまだ未熟だ」
「いや、困った時はお互い様だ。ここからは大丈夫か?」
「ああ!! 次は油断しない!!」
「あんたも気を付けろよ」
ここでそれぞれが別れた。
(さて……)
配信者は四肢を欠損していた。尻もちをつき、震えながら剣を振る。魔物もう駄目かと思った時、魔物が突然倒れた。
「な……」
「なにが……」
「た、助かったのか……」
その異変に動画のコメントが勢いよく流れていた。男たちは一命をとりとめた。免許をはく奪された、配信者の姿が世界中に拡散されていた。その者たちはいつの間にか配信業界から姿を消した。
あの探索者たちはむしろ人気になった。謎の人物の事もあるだろうが、彼等が絶体絶命の危機に一言が大きかった。自身が死にかけながらも他人を心配する言葉。
本物の探索者の姿を世に知らしめた。