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11 大人しくていても災難は降りかかる

 十五階層に到着した。今度は山の頂上に地下に降りるための道がある。山の麓は木々が生い茂っているが、中腹辺りから緑が極端に少なくなる。険しい山を上っているとドスの利いた声がした。


「この前はよくもやってくれたなぁ!!」


「三十人連れてきたからな!! お前はもうお終いなんだよ」


 地形を上手く利用して上を位置取っている。遠距離の攻撃でも攻める様子。


「おらぁ。土下座しろやぁ」


 絡まれているのは上代(かみしろ)だった。さっきの男とは別のグループのようだ。


「人間と戦いすぎっ!!」


 思わず声が出た。全員こちらを向いた。



「ああ? なんだてめぇはぁ」


「下の階に行きたいのですが……」


「空気読めや!! 今取り込み中だボケぇぃ」



「デッドは関係ない。通してあげて」



「……ほう。あの誰に対しても無関心な上代(かみしろ)詩織(しおり)が、名前を呼んで庇う程の相手か……クククク」


「ただでさえこの不利な状況。そいつを守りながら何処まで戦えるか。愉しみだなぁ」



「デッドは本当に関係ない。お願いだから止めて。私になら幾らでも攻撃して良いから。無駄に傷つけたくない」


(多分それ逆効果。後それって、俺ごとやるって意味じゃ……?)



「それなら話は早い。スカート以外は全て脱げ。おっと、ネクタイとベルトは着用しろ。無ければこれを使え」


 何故か持っていたネクタイとベルトを足元に投げた。


「土下座からの謝罪を大声でしろ」



(この無法地帯ダンジョン。変態しかいないのか?)


 男たちは暫く様子を見て要求が通らない事を確認した。そして案の定、俺はターゲットにしっかりと含まれていた。短剣を舐める者も現れる始末。


「おい見ろよ。こいつぅゴブリンソードだぜぇ」


「あんなので俺たちに歯向かおうとは、愚かな奴だ」


(歯向かうというか通りかかっただけなのに……)



「ゴブリン? そうだ。良い事を思いついた。上代(かみしろ)を縛って、ゴブリンの巣に放置しねぇか」


「いいなそれ」「ナイスアイディア」



(ゴブリンの巣も土下座も駄目だろ……)



「ゴブリンソード以外を使いたいのだが?」


 それを聞いて顔を見合わせた。笑い声を我慢していたが噴き出した。


「ああ、使ってもいいぞ。持ってるならなぁ。あれか、上代(かみしろ)の剣でも借りるのかぁ……プふふ、戦力ダウンっ」


「じゃあ、お言葉に甘えて……虚構の翼(インビジブル)


 剣を振る動作を見せる。男たちは目を丸くした。その後に目を細める。次第に笑い声に変っていく。上代(かみしろ)だけは危険を感じたのか俺から僅かに距離を取った。


「おいおいおい、舐めてんのか? 何も無いじゃねーか」


「この剣は全てを切り裂く」


「アヒャヒャヒャヒャ!! 聞いたかお前等ー?」


「全てをっw切り裂くw」


「何処にそれがあるんだよ!! まさか俺たちは王様かぁ!!」


 爆笑している男達。気にせずに地面を軽くなぞるように、優しく剣を振る。地面に細い線が出来た。さらに石がパカっと割れる。


「!!?」


「……な、何だあの武器」


「分かんねー。見た事も聞いた事も無いぞ」


「おい!! 奴に魔法を浴びせろッ。剣の姿をあぶりだせっ……嫌な予感がする」


 ただのごろつきだと思われた男たちの目つきが変わった。腐ってもこの階層まで体力維持をしながら来れる者たち。


「それは良い判断だと思う。ただ相手が悪かっただけで」



「ッやれ!!」


 火や水、地など様々な魔法が飛び交う。それを全て切り伏せる。


「形が無い魔法すらいとも簡単に切るかっ……」


「だが……今ので形状は把握した。上代(かみしろ)の剣より少し長い程度だ」


「攻めだ。攻め続ければ奴は受けるしかなくなる。そうすれば間合いが分かりにくいとかは関係なねぇ!!」


 五人ほど前衛を差し向け、矢や魔法でひたすら攻撃する戦法を取った。男が飛び掛かって剣を振り下ろした。それを受け止める。彼等の殺意がどれほどなのか確認したかった。少しの間、うち合う事にした。



 残りは上代(かみしろ)に向かっていく。


「女には手はず通りの作戦だ!!」



 虚構の翼(インビジブル)が気になっていたのか今まで大人しかった彼女が、二本の剣を抜く。緊張した様子で男たちは囲む。


雷鳴忌避(らいめいきひ)。其を畏れぬ者。何人も去ぬ……<紫電一閃(しでんいっせん)>」


 轟音と共に紫の雷が剣を覆う。男たちは慎重になる。一歩でも間違えれば即全滅だからだ。


 そう、警戒していたはずだった。接近した上代(かみしろ)が六人の男を一瞬で薙ぎ払った。


 雷鳴を聞けるのは生きている証。だからこそ、それが聞こえるうちに避難するべきである。幸運なのは彼女が甘かったこと。痺れて動けないので、殺さずに生かしてあった。


 男たちは水魔法で作った球体型のシールドを自分の周辺に展開する。彼女の周辺には霧を発生させた。さらに避雷針等の雷を軽減する役割を持つ魔道具を複数設置、遠距離攻撃でけん制する。彼等の準備が整った。


「放て!!」


 それを合図に彼女の真上にパンパンに中身が詰まった袋が放り投げられる。


「<飛雷(ひらい)>」


 赤雷とは違う魔法。まるでビームのように収束した雷を真上に飛ばし、それを容易に破壊する。それが破裂すると周囲に粉が飛び散る。


「また……ッ」


「ククク、知っているぞ。解毒剤を仕込んでいるんだろう。だから対応出来ない程複数の薬を混ぜてあるッ」


 一帯に飛び散る粉を浴びる。腕辺りに顔を押し当てて粉が入らないように、それと解毒剤を摂取する。


「お前ら今だっ」


 注意が他に向いている隙に足元を攻撃する。鎖が自在に動き、彼女の脚に絡みつく。完全に対策されたようで思わず悔しそうな声が出た。


「くっ!!」


 さらに腕も鎖で封じられる。雷を通すも鎖は遠隔操作で動かしており、彼等は鎖に触れてない。つまり効果は無かった。


「捕獲完了だな……クククク」


 上代が抵抗しようとするので、男が鎖を一本引く。薬も効き始め、力が入らず体が上手く動かなくなった。LV差はあったが、バランスを崩し地面に転がる。


「ぁっうッ」


「聞いたか? 天才少女の情けない声」


「たまんねぇー。これが聞きたかった!!」



「それで、手の内は全部出し終えたか?」



「ああ、これを破られたら流石に全力で逃げるよ……ん?」


「じゃあ。次はこの対策をすればいいんだな」


「お、お、おッお前っ。なんでッ」


 彼等は酷く動揺する。透明な剣を持っていた男が近づいてきていたからだ。



「なんでって。倒したからじゃないか?」


 背後で男たちが倒れているのを確認する。


「……クッ……だ、だが。残りでかかれば問題はないっ。悪いがこっちの奴等はそっちとは比べ物にならない程の精鋭だぜ」


「そうか」


「やれぃッ、良いと言うまで剣の間合いに入るなよ!!」


 剣を振り上げる。リーダーらしき男の腕が体から切り離された。


「……は?」


 男はその事実を理解するのに時間がかかった。腕が無くなっている。血がポタポタと滴り落ちる。


「ぅ、うぎゃあああああ!! 腕がぁぁ!!」


「ここら一帯は全部、俺の間合いだが?」


「馬鹿なっ。さっき間合いは確認した。確かに剣の形をッ……」


 その場で剣を振り、鎖を切る。男たちは混乱していた。誰かが叫んだ。


「け、剣じゃないなッそれはぁ!! 騙したな貴様!!」


 さらにそれを振って水のシールドも消し飛ばす。余りの不気味さに男たちは後退りを始めた。


「な、なんだよ……それはぁ!!」


虚構の翼(インビジブル)


 辺り一帯に眠りの魔法、<スリープ>を使い動きを封じる。男たちはバタバタと倒れだす。


「これは眠りの……力だけじゃないのか……この男はヤバ……ィ」



 奴等は勘違いしているのでそれを利用する。上代(かみしろ)を倒すには仲の良い俺の対策もしないといけない。殆ど関わりはないが、襲撃も慎重になり、自然と減る。それにリーダーの腕を切断したので士気は多少下がるはずだ。


 最終決断は彼女に任せた。ダンジョン内は外と法が違う。これだけの事をして捕まったとしてもそんなに重い罪にはならない。


 しかし、彼女は彼等に制裁を加えなかった。次は返り討ちにするそうだ。生かすのは危険。しかし、そういう所はなんか良いと思った。



 上代(かみしろ)が本来剣がありそうな部分を掴む。しかし、そこには何もなく空気を掴んだだけだった。ニギニギとその周辺を掴むが収納している事に気が付いたようだ。


「棒だして」


「……」


「さっきの如意棒だして」


虚構の翼(インビジブル)?」


「そう。出さないと家まで後を付ける」


 好奇心旺盛のようだ。出した瞬間、刃の部分をガシっと掴む。手の平から血が出た。


「本当に在る……んーん。無いのに在る?」


(やっぱり鋭い)


 不思議そうにそれをずっと確認する。彼女の手を<ヒール>で傷を治した。


「本来はゴブリンソードで油断させて、理解させないまま一方的に切り刻んで虐殺してるの?」


(やだこの子怖い)


「た、単純にゴブソが気に入っただけ。あれは時間をかけないと抑止力になりにくいから余り使ってない」


「メインの魔法じゃない? それとも全力で戦う程の相手がいない? まだ沢山魔法持ってる?」


(なんか凄い質問攻めだ……無関心って言われてたけどそう見えない)


「お、おいおい話すよ」


(有名人だ。忙しくてそんなに会う事はないだろう。ネットで出現分布あったし、そこを避けよう)


「じゃあ携帯貸して」


(持ってんの!! じゃああの時は何故……まあ、忘れた事にするか)


「忘れたなら家に行く」


(う……)


 心の声を言い当てられた。番号を交換する。彼女から携帯を扱い出したが、操作が得意じゃない様子。代わりに操作をした。


 見るつもりはなかったが、登録件数が指で数えられるほどしかない。父、母、後は番号だけで名前未登録。


 登録の際、危うく本名を入力しそうになったが、寸前で気が付いて止めた。名前は42と登録した。


「デッドのジョブは?」


「そっちと同じ」


「見た?」


「見た」


「じゃあ、30階層に行こう」


「なんでっ?」


「どっちが先に狩れるか勝負」


「ボスか。一人で狩る気だったのか?」


「一人でも二人でも倒せない。ただデッドの魔法が見たいだけ」


(欲望に忠実だ)



誤字報告下さった方、ありがとうございます。修正しております。


5/7 誤字報告下さった方、ありがとうございます。修正しております。

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[気になる点] >「ゴブリンソード以外を使いたいのだが?」 これは誰に向かって何のために言ってるんだろうか…? 前の話で上代さんから離れて行ったのに次のこの話で即エンカウント。 明確にここがオカシ…
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