117 鮮やかな攻防
追い詰める度に魔物の力が増す。炎のブレスを放つ。跳んで避けた時、四人は驚愕する。地面に魔法陣が浮かび上がる。
「魔法ッ……」
さらに周辺のサラマンダーも同じく魔法陣を展開する。
「皆、壁に隠れて!!」
全員分の<アイスウォール>を展開する。
(今回の魔法は周りにも張った方が良い)
追加でアイスウォールを張る。全員を氷の箱で囲った。次の瞬間、複数の爆発が起こった。しかし、氷の箱はびくともしない。隙間の無い綺麗な氷の箱。強度。透明度。どれをとっても敵わないとフランは感じていた。
「すごい……」
苦戦をしている中、フランは思わず笑顔になった。普段なら考えられない。彼女はそこに辿り着きたいと強く思った。そこでシオリが猛攻撃を開始する。魔物は強力な魔法の使用で僅かに疲れていた。
それを見て、全員が一気に畳みかける。<エアプレス>で押さえつけたところにシオリが全力をぶつける。
「<雷震>」
サラマンダーは雷の波に大ダメージを受ける。全員でこのまま攻撃すればボスを倒し切れると思ったので、そろそろ取り巻きを倒す。接近するシオリが全ての雷を解き放つ。
「建御雷神」
魔物は力を失い。ドシンと音を立てて地面に倒れた。そこでピクリと動いたのを見逃さない。
「<ロックプレス>」「<エアプレス>」
フランとレナが魔法を放つ。最後に上空高く跳んでいたライラが巨大なフレイルを叩きつけた。辺りに轟音が響いた。
「う、嘘……倒せた、の……?」
自分達がやってのけた事を信じられないという様子。
「ええ。私達が倒しましたの。特に最後……私の渾身の一撃でしたわ……」
口調は何処か悟ったような静かな感じだったが、したり顔をしていた。器用であった。
「ずるい。私の時点でほぼ倒してた」
「そうだッ。エクスが危ない!!」
「皆、お疲れ様」
背後から声が聞こえた。フランが振り返った瞬間、信じられない光景が映った。
「っ……と、取り巻き全部倒したの……?」
「倒した」
「い、一番難易度が高かったと思うけど。一人で15体も……」
「運が良かった」
「いや運じゃどうにもならないけど……ならないよね?」
「まあまあ。大変なのはここからですわ」
「大変って? ボスはもう……」
「ギルドの報告やらですわ」
フランはこのまま寝たいと思ったという。
「……どう説明するのっ? こんなの誰も信じないでしょう……」
そんな話になるとシオリはそっと俺の後ろに隠れて気配を消す。
「安全な所に行ってからにしよう」
レナがそう言うと皆で地上を目指す。<セイクリッド・リ・ヒール>をかけたので体力的にも問題は無い。
フランたちは驚きのあまり気が付いていなかった。前代未聞、ボスのノーダメージ撃破。
楽しくなってつい全力支援をしてしまった。あくまで内部LVは40にしていたが。一階層まで来るとシオリが雷を纏い、外に飛び出した。
「どうしましたの?」
「報告が嫌で逃げたんじゃない?」
「ミーちゃんが気になったんじゃないかな?」
(いや、あれは……)
黒猫はトイレに行くフリをして、家に時々見に行ってるから問題ない。少し足早になって外に出る。魔法で氷の箱を用意し、空間に収納していた魔物を全て入れた。ギルドに報告すると取りに来てくれるそうだ。
「それじゃ俺はここでっ」
「え? 報告しないと。私、エクスの事、説明できないよ」
「まあまあですわ」
ライラがいると心強い。俺は物陰に隠れると家に空間転移する。転移した時、服も早着替え出来る魔法も創った。
空高く跳んでいたシオリが降ってくると、家の玄関前の廊下に見事に着地する。ドアを開けてドタバタと入ってきた。
「あ、おかえりシオリ。無事で良かった。皆は?」
「ただいま……今報告中」
「そっか。少し遅くなりそうかー」
近寄ってきて匂いを嗅いできた。残念ながらそこも対処済みだ。体ごと清潔にしている。
「……家の匂いしない」
(そっち!!?)
「……お……服買ったの分かった?」
(…………い、いけるか……)
「……」
引き出しを開けようとしたので、空間から素材を取り出し、同じのを複製した。匂いも周りに衣服と変らない様に気を使う。同じ服を見つけ、スンスンとした鼻を鳴らした後、納得してくれたようだ。
「よく似合ってる」
「ありがとう……」
(ふぅー。何とか誤魔化せた……)
その後、ソファーでくつろいでいると、珍しく黒猫が近寄ってきたので撫でていた。そこで風呂上がりのシオリが何も言わずに膝に頭を乗せてきた。髪はドライヤーで乾かしていた。彼女はそのままスヤスヤと眠りについた。
(お疲れさま……)
ライラとフラン、レナに報告のお礼として美味しい料理を作って待つことにした。
誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。