114 視野を広げるとライラが見えた
距離を取った三人。フランが言う。
「どうする?」
「お腹狙う」
「俺もそう思う。さっきみたいに立ち上がらせてから、フランとレナで止めっていうのは?」
それを聞いたフランが珍しく狼狽える。レナも自信なさげだ。
「わ、私ぃ!!?」
「か、火力が足りないんじゃ……」
「短時間だが、少し強力なバフをかける」
シオリが即座に同調する。
「賛成。じゃあさっきのを誘発させる」
「私も協力しますわ!! 滅多に経験出来ませんわ。偶にはいいじゃないですの」
「え、え、ちょっと……偶にじゃなくてボス相手には初めてだって!!」
俺が<ファイアボール>で牽制している内に、ライラとシオリは自身にバフをかける。
「<ブレイズブレイバー>」
「<我に力を与えたまえ。其は万雷の化身……<雷公>」
急激な能力の上昇をした二人は魔物に攻撃を開始する。ここでフランとレナにバフを付与した。
「な、何この力は……いつものと違う……」
「不思議……元から知っていた、そんな感じがする……」
バフは二つかけた。一つはヒーラーの師走レベルの強化。もう一つは一時的に潜在能力を引き出すバフ。集中力が高まり、普段使われてない力を引き出す特殊な魔法。それはゾーンに入る感覚に近いかもしれない。
前衛と違い、後衛は知性をフルに活用するので、無意識に自身を抑圧する傾向にある。もちろんそれが悪いわけではない。ただ、別の可能性に気づくきっかけを与えたい。
「全力で撃つと良い。援護は任せろ」
「う、うん」
「分かった」
その時がきた。魔物は二足歩行になり、二人を踏みつぶそうとした。
「<アースグレイブ>!!」「<エアプレス>!!」
(なるほど……)
背中にエアプレスをする事で、土の杭に押し付ける形になる。
「<風刃>」
レナが腹部を狙う。フランは驚いた。ほぼ同時に魔法を使ったからだ。自分も負けじと練習中の魔法を使用した。
「<ロックプレス>!!」
巨石が宙に現れ、魔物の背中に落下する。二人は協力して魔法で挟む。そして、二人の魔法は魔物を貫いた。ゆっくりと地面に倒れ、轟音と地響きを起こす。その音と揺れが、これは現実なのだと実感させた。
「や、やったッ……」
「やったねフラン!!」
フランは驚いていた。体が少し震えている。脳から心地よい何かが溢れてくる。
(わ、私たちが。中ボスとはいえ、こんな深い階層のボスを倒した……ッ)
フランは拳を握りしめた。
(なに、これ……すごく嬉しい……ッ!! こんな感覚は初めてっ!!!!)
ニヤニヤとした表情のライラが近寄ってくる。
「ふふふ。これで私たちの気持ちが少しは分かりましたわね」
「良かった。これで無罪」
(それですぐにノってきてくれたのか……)
「う、うるさいわね。それとこれは別よ!! 無謀に飛び込ませるわけにはいかないから!!」
「でもっ……今の感覚……絶対に自力で辿り着いてみせる!!」
興奮するレナの言葉に頷くフラン。この状態は消耗が激しいので、効果が切れるまで一旦休憩を挟む事にした。その間、フランは先ほどの感覚を思い出していた。その純粋な笑顔は幼子のようであった。
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