110 敗因
スライムは堂々と歩き始める。その方が優秀な者達に狙われやすい。それを遥か遠方でそれを確認する男達。
「LV170……駄目だ。あの怪物……もう、誰にも止められない……っ」
その時、双眼鏡越しにスライムと目が合った。
「くっ……!! 気づかれた!! 逃げるぞ!!」
急いでその場から離れ隠れるように路地に入った。逃げた地点そこにはスライムが居た。
「狩場にようこそ。観察って楽しいよね?」
「な、なぜ……」
「あれは分身だよ。本体はこっち……分身のLVってやつは低いけどまあまあの出来だったでしょ?」
「くそっ!!」
「それじゃあ……さようなら」
なす術もなく男達は呑み込まれた。
人のいない場所に逃げたオウガ。また別の魔物が待っていた。
「お待たせ~」
「何だそいつは」
「腕を治したくはないかい?」
腕を差し出すといつの間にか持っていた腕を付ける。そして魔物が光を放つと腕がくっついた。さらにヒールでオウガを癒した。
「万全とはいかないが……8割ってところか」
「その腕はまだ使わない方がいい。暫くしたら完全に使えるようになる」
「ふん。これだけ回復すれば片手でも十分だ。だが狩り方はもう少し改良しなければな。ダメージを受け過ぎた……」
「やっぱり。君を勧誘しにきて良かった。どうだい?」
「もう少し……考えさせろ」
「まあ、予想通りの答えだ。変異種は皆最初はそう言う。まだ自我が出来て間もないからだと思ってる」
紙を渡すと魔物二体は去っていく。
「気が向いたらここにおいでよ。歓迎するよ」
静かになった場所に佇んでいた。背後から声がかけられた。
「お前がオウガか?」
振り向くと男だった。何処かで見た事のある男。
「ああ。確かそう呼ばれていたな。何の用だ?」
「お前を狩りに来た……」
それを聞いてオウガはニヤリと笑った。
「追ってきたか。だが俺が鬼なんだが?」
「鬼は昔から狩られるものだ」
「ああ?」
「黒霧神威……参る」
「……ああ。時々、そんな名を叫んでいたな。さっきの恥知らずと同類か」
それにカムイはピキリと反応した。家族ではあるが断じて同類ではない。
「流石の俺も苛ついたぞ。まさか腕を持っていかれるとはな……その借りはお前で返してもらうとしようか!!」
「知らん。お前の怠惰が招いた結果だ……反省して受け入れろ」
「矮小な人族が一人で挑んでくるとは愚か!! 一瞬で肉塊に変えてやる!!」
激怒したオウガが牙を見せる。
「……お前の敗因は、人間を軽んじて疲労している事…………零式<霧消>」
オウガは高速で接近する。そして、人間の男を切った。そのはずだった。しかし、そこには何もない、ただ空を切っていた。
「は?」
「恥じる事は無い。普通は死ぬ……」
刹那。オウガはバラバラとなって絶命した。カムイの口から血が垂れてきた。それをサッと拭う。その時、カヅキが到着した。
「カム兄!! 何故ここに!!」
「カヅキか……」
「ま、まさかっ。オウガを倒したのか!!」
「……」
「……?」
「そうだ」
「ど、どうした? あ、あれかっ!? 俺が半分以上のダメージを与えてなかったらまた敗、撤退してた的なッ!?」
カムイは近寄って無言でカヅキの頬を殴った。
「イテっ!! 何しやがる!!」
そして、何も言わずそのまま去っていった。山奥で修行の続きをするのだろう。
「ぇーー……なんだぁあいつぅ」