107 動き全てがミスだぜ
陸地に向かって進んでいると、遠くから別の船が高速接近してきた。
「船。速い」
「へー。他の船がこんなに近くに来ることあるんだ」
「といいますか。このままではぶつかる可能性もありますわ」
船内放送が流れる。
「皆さん海賊が現れました。避難してください。繰り返します。海賊現れました。避難してください」
「なんでよ!!」
迷いなく突進してきた。魔物対策用の魔防壁のおかげもあり船は壊れない。しかし、海賊たちが船に乗り込む。剣や銃を持っていた。
「ヒャッハー!!」
「おらァ!! 殺されたくなかったら大人しく金目のものをよこせぇ!!」
「ヒャッハー!!」
「……」
「ぼさっとしてんじゃねぇぞ!! これがみえねーのか!!」
天井に銃の弾を乱射するが魔防壁が衝撃を吸収し、ポトポトと地面に落ちた。海賊は高価な船だと思い、ニヤリとする。そこで無線の男は言う。
「あのー。この方たち……」
「はぁ? なんだぁてめぇ」
(いや。よく見て……)
「ボ、ボス……あの黒髪のちっこいの……」
「ああ?」
「上代だっ」
「は?」
「そっちもフランチェスカとライラ・フェニックスじゃ……!!」
「なんで私だけフルネームですの」
「言っとくけど、ただの銃じゃ私達を倒せないよ」
「や、やばいですよボス!!」
「どうするんですか!!」
「どうって……………………」
「……なんてなっ!! ドッキリ大成功ォォ!!」
「いやー良い顔撮れましてねーボスぅ」
「高視聴率間違いなし!!」
海賊たちは急にコミカルに全振りした。
「因みに俺は見学に来た金持ちの御曹司――」
それを聞いてボスが素早く動いた。俺を捕まえると銃を突きつける。レナが叫んだ。
「あ、キョウ!!」
「フハハハ。馬鹿めが!! 逃走用のヘリコプターを用意しろ!! さもないとこのおぼっちゃんを!!」
「――じゃないから人質の価値はないんだよねー~」
「おいぃぃぃ?」
「「「………………」」」
お互いは暫く沈黙したまま見つめ合った。
「なっ、なんてね!! ドッキリ大っ……!!」
「「<氷の束縛」」
「ぐあああ!!」
フランとレナの氷の魔法でボス含め部下たちを一瞬で制圧する。
(二度もドッキリが通用すると思ってたんだ。一度目も無理だけど……)
「海賊制圧完了」
「だね」
「おお、流石一流の探索者!!」
レナが一番照れていた。
「このくらい朝飯前ですわ!!」
「何もしてないけどね」
「私が手を貸すと黒焦げになりますの」
「船の精密機器が壊れるかも」
「……それもそうね」
無線の男は言う。
「それにしても魔海域周辺の船を狙うなんて凄い大物海賊ですよね」
それを聞いて海賊たちは不思議そうに男を見ていた。
「高確率で探索者や軍関係者とかが乗ってますから」
「…………あっ…………大物狙い。計算通りだぜッ」
「さ、流石ボス!!」
(君たち捕まってるけどね)
そこで窓の外にチラリと見覚えのあるものが見えた。
「ちょっと船酔いが……甲板で休んでくるよ」
フランが言う。
「うん。気を付けて、いってらっしゃい」
「後で船員さんから薬もらってくるね」
「ありがとう。レナ」
「水持って行く」
「え、じゃあ私も薬持っていくね」
「私も持っていきますわ」
「適切な量で……」
甲板に着くといつぞやのカラスが近寄ってきた。
(校長のか……良い予感はしないな……)
カラスの脚についていた金属の筒から紙を出す。
(……それじゃあ船の速度をあげないとな)
速度メーターは幻影の魔法で誤魔化した。緊急事態なので仕方ない。俺たちは陸地に急ぐ。