105 彼は真面目です
ギルドマスターは次々と上がる報告に頭を抱えていた。ダンジョンから厄介な魔物が数体、地上に出てきたのだ。
「変異種……しかも同時に……」
ガチャリとドアが開いた。校長だった。だが、ノックをしろと怒る余裕もない。丁寧にドアと鍵を閉める。
「偶然かね~」
「魔物使いの可能性もあるか……」
「しっかし、よくもまあ集められたものだね」
「かなり前から計画されていた、と?」
「かもね~」
「頼り過ぎるのは駄目だと分かっているが……こんな時、デッドがいれば……いつもならここらで嗅ぎつけて来るのだがな」
「……あーそうだねー。忙しいのかな~」
「現状はあのオウガが危険だ。戦いを重ねるごとに強くなっていく。しかし、あのスライムは……もっと危険」
「やはり……吸収か?」
「ああ、元々強かった。それが凄まじい速度で力を増している。死者もな……」
「動き出したのかもしれないね~」
遭難者に異常はなかった。フランたちは思わず顔が緩む。
「それにしても凄い。あの変異種の中ボスをその人数で倒すなんて」
四人は嬉しそうだった。
「無事でよかったですわ」
「実は死にかけてたのだが……その度に力が湧いてきてな」
「不思議だったよねー」
「へ~。生きようとする力が自然治癒として現れたのね。きっと」
「不思議」
俺はゴーレムさんを見ていた。
(こっちを見るんじゃないシオリ……)
遭難者は何ともないようにふるまうが内心は辛そうだ。ずっと眠ってなかったようだ。ゴーレムさんが運んでくれるので、休んでもらった。自然と眠りについた。
来る時にしっかりと討伐してきたので帰りは、スムーズに上る事が出来た。皆は潜水調査船に乗る。無線で報告すると上昇の合図があった。
「ふぅ……ここが一番怖いですわね」
「ほんとそれ……」
上昇しているとフランが奇妙な声を出した。ライラは固まっていた。
「こんな事……ッ。あり得ません!! 多種多様の海洋生物がこんなに集まるなんて!!」
数十の巨大生物が集まってきた。
「どうすんのよ!!」
「私の魔法も水中では流石に……ッ」
「雷もちょっときついかも」
「今日の運勢最高だったのにっ……!!!」
レナたちが叫ぶ中。無線の声は冷静に言う。
「フランさんのあれで行きましょう……」
「あれって!!」
「食べられる瞬間に氷と地の魔法で船を覆い……何日か耐えてください。 そうすれば自然と死角から抜け出せます!!」
「え……ふざけてる?」
「そんな訳ないじゃないですか……対策の仕様が無いです。そもそも二連続で遭遇するなんてここ数十年ありませんでしたよ……」
「フラン」「仕方ないですわ!!」
「くっ……」
その時、不思議なものをみた。生物が一列に並び道を作った。
「え?」
「何が……」
無線から声が聞こえる。
「こんな光景初めて見ました……もしかしたらそういう習慣が海の魔物にはあるのかもしれませんね。運よくそこに当たってしまった……」
「まったく運よくないですよ!!」
(……なんだこれ。帰ってピザでも食べて落ち着こう)
「おおきー」
「凄いですわね。まるで王のようですわ!!」
「大きな声出さないでっ。気が付かれたらどうするのっ」
(魔物からは見えてないと思ってるのか。よかった……)
船に戻ると魔物はそれぞれ去っていった。無線の人の生の声を聞けた事に喜んだ。
「良く生きて帰ってこられましたね……」
「他人事みたいに言うね……」
何はともあれ、無事にダンジョンから帰還出来た。