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最弱魔王の華麗なる生存戦略!  作者: 青井銀貨
第1章 勇者が出てきてこんにちわ
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8話 ~異世界でコーラ~

 


 魔属領は今日も暗闇。


 首元に金色の鈴をつけたロシアンブルーに似た猫は困惑している。


 雷鳴の鳴る中で魔王と勇者は距離をとっている。


「話がある」


 魔王は言った。


「それは大切なお話ですか?」


「ああそうだ。これからの私たちにとって重要な生存戦略だ」


 いつになく神妙な口調だ。


「わかりました。けどその前にまず服を着ませんか?」


「む、」


「裸だと格好がつかないかなと思いまして。望愛のあさんもいますし」


「そうか確かにその通りだ」


 自分の裸をまじまじと見つめる。


「良く言ってくれたな、さすがは金青こんじょうだ」


「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。それと、どうせ服を出すのなら望愛さんの歓迎会というわけじゃないですけど。食べ物とか飲み物を出しませんか?」


「なるほど。仲良くなるためには一緒に食事をするのがいいと昔何かの雑誌で読んだことがあるな。実にいいアイディアだ。いつもながら金青こんじょうは私の気が付かないことを教えてくれる、実にすばらしいよ」


「ありがとうございます。それじゃあ僕は望愛さんを呼んできますね」


 走り出そうとしたその時、望愛の雄叫び。


 少し離れたところから必死の形相でこっちに向かって走って来るのが見えた。


「ぶぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 急ブレーキをかけて止まり、猫を抱きしめる。


「どうしたんですか望愛さん」


 少し驚いた顔で猫が言う。


「大丈夫ですか?今すごい顔してましたよ。馬みたいに唇がブルンブルンして」


 少女は荒い呼吸を繰り返す。


「も、ものすごいでっかい、でっかいゲジゲジがいた」


 あまりの嫌悪感に顔の全部のパーツが中央に寄っている。


「なんか足が千本くらいあって長くてでっかくてネロネロ光ってるものすごいでっかいゲジゲジ。毛がわさわさわさーってしてて日本で見たやつより何倍もでっかかった。最悪、本当に最悪」


「あああれですか、気持ち悪いですよね」


 あっさり言う。


金青こんじょうも見たことあるの?」


「何回もありますよ。魔属領にはあういうのは沢山いますから」


「沢山!?最悪じゃないのよ魔属領って」


「それよりもちょうどよかったです、いま呼びに行こうと思ってたんですよ」


「なにがちょうどいいのよ、私はまだゲジゲジにびっくりしてるのに」



「喉乾きませんか?」


 思ってもみなかった言葉に目をぱちくりさせる。


「喉………?」


 自分の喉を意識する。


「たしかに、乾いた………めっちゃ乾いた」


「そうですよね、いろいろありましたからね」


 いろいろか………確かにそう。ほんの短い時間の間に色々なことがあり過ぎた。


「っていうかちょっと思い出したんだけど、さっき私のこと馬みたいな顔っていってなかった?」


「そんなこと言いいませんよ」


「そう?そうよね、まさか金青こんじょうがそんなこと言うわけないか」


「それよりもいいお話があるんですよ」


「いい話?」


 近くにいる魔王が気になる。


「望愛さんの歓迎会じゃないですけど、龍笛りゅうてきさんの能力を使って向こうの世界から何か美味しいものを取り寄せようかと思ってるんですけど、望愛さんもどうですか?」


「美味しい物?」


 少し怯えたような顔で龍笛りゅうてきを見上げる。


「魔王になると色々なことが出来るようになるんですよ。例えば拠点となる城を作ったりだとか」


「お城を作れるの?」


「そうなんです。それにはポイントが必要なんですけど、それは魔物とか人間を倒したりとかすれば手に入るんですよ。なんだかゲームみたいだと思いませんか?」


「あんまりうまく想像できないかも」


 落ち着きたくて猫の背中を撫でた。


「見ればわかるよ」


 龍笛りゅうてきが言う。


「出でよ「真実のガマガエル」」


「うわっ」


 しゃがんでいた望愛は魔法の気配を感じて後ろにひっくり返りそうになった。


 ゴゴゴゴ………という低い音が地面から聞こえてきて、足の裏に少しくすぐったいくらいの振動が来る。


「え、え、、え、何が、何が起きるの」


「大丈夫ですから心配しないでください。ほら、スライムたちは全然怖がってないですよ」


 見ると確かにスライムたちは嬉しそうに飛び跳ねている。


「スライムたちはジュースとかお菓子が大好物なのでこの魔法を使うと自分たちももらえるものだと思って喜ぶんです」


「そうなの、それじゃあ大丈夫かも」


 スライムたちが嬉しそうにしている横で怖がっている自分が少し恥ずかしくなって平気なふりをする。


「さあ来ますよ、もしかしたら塔が壊れたのと一緒に使えなくなってしまったのかもと思いましたけど大丈夫そうで安心しました」


 床に転がっている瓦礫が集まっていったり来たりしながら形を作っていく。それはカエルの顔の像。


 望愛の身長よりも大きいくらいの円形の中心に眠そうな顔をしたカエルの顔があらわれた。そしてそれは地面からゆっくりと立ち上がって直立した。ぽんっという音がして目と口が開く。


「なんか「真実の口」みたいじゃないですか?僕たちはこれを「真実のガマガエル」と名付けたんです」


「へぇ、すごい。魔法ってこんなこともできるんだ………」


 口を開けたまま感嘆の声をあげる。


「すごいのはこれからなんですよ」


 誇らしげにいうとカエルの顔の周りの余白に青白く光る文字が浮かび上がってきた。そこには縁の外周に沿うように「建造物 魔物 魔法 アイテム 飲食物 雑貨 異世界品 その他」と書かれている。


「ほぇー」


「こうやってこのカエルの右目の所に触るとーーー」


 ずずず、っという音がして文字が書かれている外周の部分がゆっくりと回って「魔物」の文字が一番上に来た。


「間違って回し過ぎてしまった時は左目の方に触れると反対に回ります。今欲しいものは飲み物とか食べ物なのでこの「飲食物」に合わせればいいんですけどーーー」


「なるほどぉ………」


 望愛は理解していない顔をしながら言う。


「今回はこっちに合わせます」


 そういうとさらに回して「異世界品」が一番上に来るように合わせた。


「これってもしかして………」


「そうです。向こうの世界のものをこっちに取り寄せることが出来るんですよ」


 猫のドヤ顔。


 飛び上がって猫パンチでカエルの石像の鼻を押すと、両目から光が出て地面に見覚えのある名称がずらりと映し出された。


「コーラって書いてある。コーラが飲めるの?!」


 望愛の地面を指さして嬉しそうに言う。


 驚くことばかりがあり過ぎて気が付かなかったが、意識してみると自分がどれほど喉が渇いているのかがわかる。100回かき混ぜた納豆くらいに口の中がねばねばだ。


「そうです。これを選ぶとコーラが出てくるんです。そして魂ポイントが1消費されます」


「ポイントってさっき言っていたやつ?」


「そうです。魔物とか人間とかを倒した時に自然に加算されているんです」


「もしかして私がさっき斬ったあの目玉の化け物にもポイントがあったりとかするのかな」


「どうですかね、それはちょっと調べてみないと分からないです」


「そうなんだ………」


 そうだったらいいのにと思う。なんだか魔王に奢ってもらうみたいで少しだけ気が引ける。


「気になりますか?」


「気になるけど後でいい。今はとりあえず炭酸が飲みたい、コーラがいいコーラ、今はコーラのことしか考えられない」


 今はとにかく体が炭酸を求めている。たとえ魔王の奢りだろうが何だろうがもはやどうでもいい。いまは喉にあのシュワシュワを流し込みたい。この喉の飢えは水なんかじゃ癒せない。


「わかりました。僕もコーラにします、望愛さんがコーラコーラというので僕もコーラの口になってしまいました。はいっと、」


 再び跳び上がって鼻を押すと、「ビーン」という機械音がしてカエルの口から石でできたような舌があらわれた。その下の上には美味しそうな美味しそうなビンのコーラの山があった。


「望愛さんどうぞ」


 猫が二本足で立ってコーラをとってくれた。


「ありがとう、ああ本当に嬉しい。今までこんなにも喉が渇いていたことは無かったかも、それくらい嬉しい」


 コーラの瓶はしっかりと冷えていた。


「栓抜きは?」


「そんなの無くても今の望愛さんなら蓋なんか簡単に取れますよ。前よりも力が強くなっているんですから」


 そういって猫は猫パンチで蓋を吹っ飛ばして見せた。


「そういえばそうだった」


 親指を蓋の下に当てがって上に弾くと、魔属領の空に高々とコーラの蓋が舞い上がった。


「できた………」


「簡単ですよね」


 自分が前の自分とは違っていることを実感する。


「異世界へようこそ、歓迎します。これからも仲良くしていきましょうね」


 コーラを持った猫が嬉しそうに言う。


「うん」


 望愛は少し照れたように笑った後で右手でキャップを回すとプシュッという音がした。



 その瞬間、全てを忘れた。


 魔法で自分の意図しない行動をさせられたことも。


 目の前の男が魔王であることも


 コーラの前にすべてが消えた。


「「「乾杯!」」」


 魔属領の空を見上げながら、炭酸が喉を走る快感を味わった。



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