40話
「魔王城へようこそ」
魔王が言った。
「ま、まさかここは………」
それはザビエルの理解の範囲を超えていた。
ワープしたと思ったら何もない、他の魔物の姿も見えない空間で、窓の外には魚が泳いでいるのが見える。
何というものの考え方をする魔王なのだ。
それから魔王は真実のガマガエルを召喚して人間の歴史に関する書物を山と取り寄せた。
「当面はこれでこの世界の人間というものを学習してもらおう」
本に手を置きながら魔王が言う。
本は嫌いではない、嫌いではないが私は一体何のためにこの世界に呼ばれたのか、それを聞かなければならないと思った。
最初は当然戦いの為だと思っていた、けれど全くそんな雰囲気は感じない。海に沈む魔王城へ連れてこられて学習しろと言われても訳が分からない。
「そうだった。まだ何も言っていなかったな」
魔王は笑った。
もしかすれば機嫌を損ねて殺されるかもしれないと思っていたから安心した。
「ここは人間領だ」
背筋が寒くなった。
魔物にとって人間領という場所は毒だ。一部の耐性を持ったものでない限りはその体はだんだんと衰弱していっていずれは何もしなくても死ぬ。
あわててそのことを告げると魔王は頷いて落ち着いた口調で話し始めた。
「もちろんそれは知っている。それと同じように人間も魔属領で生活することは出来ないというのがこの世界の仕組みだ」
知っていた。
それなのになぜ、と聞く前にさらに説明を始めた。
「もうすでにザビエルには「不衰の指輪」という魔道具を付けさせている」
反射的に自分の指を見ると確かに見覚えのにない指輪が付いている。
「それがあれば体が衰弱していくことは無い。さらにいえばこの魔王城の中ではその魔王の配下には衰弱が発生しないことは確認済みだ」
魔王はそんなことはとっくに知っていたらしい。私は焦るあまりに急に問い詰めたことを謝罪した。
魔王は気持ちは分かるから気にしなくていいと手を振りながら言った後でさらに説明を始める。
「ザビエルにやってもらいたいことは人間との交渉だ」
交渉?いったい何を交渉しようというのだろうか。
「人間たちに私が人間領にいることを認めさせてもらう」
そんなことできるわけがないと思ったがすぐには口に出さなかった。この魔王は神成頭が切れる。薄っぺらな反論は意味がないだろうと思った。
魔王は言った。
大魔王に目を付けられている、と。
それは大魔王の配下である目玉の魔物に、反逆の意思をにおわせる言葉を聞かれたことが理由らしい。
目玉の魔物は死ぬ前に親衛隊を差し向けると言った。親衛隊というのは魔王の側近中の側近で魔王よりも力を持った魔物の事だ。
かなり厳しい状況であるように感じたが、こちらに有利な点もあってそれは大魔王は大きなけがをしていてどうやら動くことが出来ない、ということだ。
しかし現状としてこのリュウテキという魔王は生まれてからそれほど長い年月が経っていないため魔王としてはまだまだ未熟で、大魔王の親衛隊と戦う準備ができていないという。
「敵の敵は味方、という言葉がある」
差し向けられる刺客への対抗手段として人間を利用する。
100年以上昔、勇者と呼ばれる人間が魔王を倒した。資料にはそう記されているという。つまり人間は魔王に対して十分な戦力となりうる。
大魔王の親衛隊が魔王リュウテキを討伐するためにここまでやって来たとすれば、いち早く人間たちにそれを報せ討伐させるように仕向けるというのが今回の作戦。
大魔王の親衛隊よりも早く私たちの方が討伐されるのではないか。
そう疑問に思ったが魔王リュウテキはさらに語り始める。
「人間領は三大国と言われる大きな三つの国が支配している。そこを利用する」
この三つの国の全てと良好な関係を作ることが理想だが、一つの国だけでも十分だという。なぜならば敵対する国は、他の国と魔王を同時に相手にしなければならなくなるからだ。
過去の歴史から考えてそんな戦いは一度もしたことが無いはずだ。
人間は未知に恐怖する。
そう簡単に決断することは出来ないはずだと魔王リュウテキは語る。「時間とともに魔王は力を増す」これはこの世界に定められたルールであるから時間がかかることは大歓迎。
険悪な関係になったとしても時間が稼げればそれでいい。
大魔王の親衛隊がやって来た場合には敵対する国に擦りつけるような動きをすることも考えているという。
「親衛隊を敵対する国の首都に呼び寄せれば、人間たちは嫌でも対処せざるを得ないだろう。そこで私が上手い事やれば敵と敵の戦いになる。どちらが勝っても敵が減る、私には得しかない」
さらにそこで友好的な国を使って勝利した敵にすぐさま攻撃を仕掛て、勝利出来ればさらに良い。
そうやって敵と味方をうまく利用しながら立ち回ってほしいと魔王リュウテキは言った。
「しかしそれは最悪の場合で一番の目的は時間を稼ぐこと。ザビエルにはそれをやってもらいたい」
簡単なことのように言う。
「相手方ははるか昔に魔王を倒したことはあるががどういう存在であるかほとんど知らないはずだ」
それはそうだろう。
魔物である私ですら魔王という存在をよくは知らない。
「こちらにはいろいろな力を持った魔物を呼び出せるという素晴らしい魔法がある。その点を利用して嘘をハッタリを用いて人間達こちらを攻めれない様にしてくれればいい」
魔王リュウテキにはすでに具体的なイメージがあるようだが私にはさっぱりわからなかった。
「なに、私たちが人間領にいるという事を人間たちはまだ知らないはずだ。時間はある。人間達とどういう交渉をすれば私たちが有利になるか、今はそれを考えてもらう」
そう言って魔王は私の肩に手を置いた。
「その間に私たちは魔属領でレベル上げをする。ザビエルだけが頼りだ」
人間と交渉して魔王が人間領にいることを認めさせる?
人間を利用して大魔王の親衛隊を倒す?
私が?
想像していたよりもはるかに困難な仕事。
私は絶望的な気持ちになった。




