39話
魔物は足に感じる砂浜の感触に違和感を感じながら目の前を一心に見る。
「これがウィザードか。思っていたよりも小柄だな」
そう言った背の高い男。
これが魔王に違いない。やはり圧倒的な力を感じる、私とは比べ物にならないほどの力だ。
「交渉をしてもらうわけですから体の大きさは必要ないと思いますよ」
首元に鈴をつけた青い毛並みの猫が言う。
この猫もおかしい、なんだこの内包された魔力量は。魔王には及ばないものの通常では考えられないほどの力を持っている。外見で判断したら大変なことになる。
「交渉って言うけど、出てきてから一言もしゃべってないじゃないの。本当に交渉なんかできるの?ただの湿ったミイラにしか見えないんだけど」
金色の髪をした女が言う。
この女が一番ヤバい。私の天敵ともいえる光の魔力に満ちている。これはもうどうしようもないほどの力の差だ。
なんだこのパーティーは。
一体どういう集まりなんだ。
「あの………喋れますか?」
猫が上目遣いで聞いてきた。
「もちろんで御座います」
「あ、やっぱり喋れますよ」
「御座いますって、ずいぶん丁寧な言い方ね」
それは丁寧な言葉遣いをしようとし過ぎたせいで普段はこんな喋り方ではない。けれど言えない。この女がとにかく恐ろしい。
「ありがとうございます」
「ありがとうございますってなに?私は何に対してお礼を言われたのかわかんないんだけど」
腕を組んで睨みつけてくる。
マズい。
自分でも訳の分からない会話だったとは思うが、女はますます不機嫌になってしまった。
「まあまあいいじゃないですか望愛さん。そんな怖い顔したらウィザードさんが怖がってますよ」
「別に怖い顔なんかしてないわよ!ただ単に変だと思ったから言っただけじゃない」
なるほど、そうだったのかと心が軽くなった。
「名前は何という?」
魔王が唐突に聞く。
「私ですか?」
「ほかに誰かいるのか?」
「そうですね、私しかいませんでした。名前はまだありません」
「名前が無い?それはあまりよくないな」
どうやらよくないらしい。
「ウィザードというのは種族名だろう。他のウィザードが出てきたときに困ることになりそうだ」
「それなら名前を頂けませんか?」
思い切って聞いてみる。もしかすれば勝手に喋るなとかが理由で怒られるかもしれないが、さっきから私は頭の悪そうなことばかり言ってしまっている。会話を先読みして少しは使い物になるという事を分かってもらいたい。
「うーんそうだねぇ、それじゃあヌケサクなんてどうだろうか」
「ちょっと待ってくださいよ、それはさすがに可哀そうですよ」
「そうか、やはりだめか」
なにが悪いのかはさっぱりわからないがどうやらヌケサクというのは良くない名前らしい。どこか冗談を言った雰囲気が感じられるから本気では無かったのだろう。
「金青はなにが良いと思う?」
「僕ですか………そうですね。ザビエルさんとかどうですか?」
「全くぴんと来ないんだが、何か理由があるのか?」
「前になんかで聞いたことがある気がするんです。学校の授業で習ったフランシスコ・ザビエルの遺体はミイラになってどこかの大聖堂に保管されているのを」
「ほう!それは知らなかった。さすが金青、物知りだな」
「そんなにはっきり覚えていないので間違ってるかもしれないですけど」
「望愛はどうだ?何かいい名前は無いか?」
「私?えーと………」
女は私のことをじっと見つめるので落ち着かない気分になる。
「かりんとう、とか………」
「かりんとう、ね。なるほど………」
「ちょっとなんか呆れてない?ヌケサクよりはぜったに良いと思うんだけど」
「それじゃあウィザード。ヌケサク、ザビエル、かりんとう、のうちのどの名前がいいか選んでくれ」
「私が選ぶのですか?」
「今日から君の名前となるんだ、自分で選ぶのがいいだろう」
「そうですね………えーと」
私は考える。
というか考えるまでもない気がする。
「ザビエル、でお願いします」
「そうかそれでは今日から君はザビエルだ。よろしく頼むぞザビエル」
差し出された魔王の手を握って握手する。
今日が私ことザビエルの誕生日だ。




