38話 ~魔物を召喚いたしましょう~
地の底のような暗闇の中で名もなき魔物の魂は期待に胸を膨らませた。
いま上空に大きな鳥が旋回しているからだ。あれがいったい何であるのかは普通の存在であるはずがない。ここに普通の生き物は立ち入ることが出来ないからだ。
私がひそかにカラスと呼ぶ鳥がだんだんと高度を下げてきた。
他の魂たちもそれに気が付いて唸り声のような悲鳴のような声をあげているのが分かる。あの鳥がいるということはどこかの誰かが魔物を召喚したに違いない。
選ばれたい。
また肉体を持って生の世界を生きたい。暗闇しかないこんなところでただひたすらに待ち続けることは苦痛でしかない。
体が痒い、痛い、喉が渇いた腹が減った。肉体が無いはずなのになぜか苦しみだけは永遠と続いている。しかし眠ることもできないからただただ永遠の苦しみを味わい続けているだけの時間。
こんなのはもうこりごりだ。
お願いだ、お願いだからカラスよ私を選んでくれ。
近づいてくるにしたがって分かってきたことがある。あれはきっと魔王によって遣わされたに違いない。未熟な術者が呼び出したものだと体が崩れているようなものもいる中で、あれは体がしっかりとしている。
出来れば大魔王の配下として呼び出されるのが理想ではあったが、魔王でもいい。とにかくいはここから抜け出したい、それだけだ。
カラスが口に黒い球をくわえている。この空間自体も暗闇でカラスも黒で全てが黒いから見分けるのに時間がかかったが、あれは肉体の性能を増幅される力を持った宝玉だ。なぜかは知らないがそれは知っている。
欲しい。
あれがあれば普通よりも強力な魔物として命を得ることが出来る。
カラスは大きくゆっくりと旋回しながら私たち魂を見定めているのが分かる。もしかすれば召喚主から何か注文があったのかもしれない。
私は叫ぶ。
私の声がカラスに届くのかどうかは分からないがそれでも叫ぶ。私はもともと人間だった、頭の良さには自信がある。今までに何冊も本は読んだ、弟子もいた。だからどうかわたしを選んでおくれ。
暴れまわるしかできない魔物とは違う、私には知性があるんだ。
するとカラスは私のいる地面の近くに降りてきた。
チャンスだ。
私はとにかく知性をアピールする。
「寿限無寿限無 五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの 長久命の長助」
これはダンジョンから出た異世界の本に書かれていた文字だ。
かなりボロボロになってしまっていてどういう意味なのかはさっぱり分からないが、それでもこれが異世界の言葉であることには間違いが無いはずだ。
だから私は叫ぶ。
私は異世界の言葉を知っているんだとアピールする。
知性を。
知性を求めているのであれば私を選んでくれ。
磨き上げた石のような黒い一つ目を持つカラスは何も言わず、咥えた宝玉を私の仲に押し込んだ。
なにがなんだか分からない。
破裂しそうなほどの力が私の中になだれ込んできた。
嬉しい。
カラスは私を咥えて大空へと飛び立った。
ようやくここを脱出できる。
ついに私は選ばれたのだ。
体があればきっと泣いていただろう。
その魔物の魂は生の世界へと向かって行く。




