33話 ~海が綺麗~
魔王城から眺める異世界の海は痺れるほど美しい青色。
「うわー」
首元に金色の鈴をつけたロシアンブルーに似た猫が声をあげた。
「わー」
金色の髪をした勇者 望愛が声をあげた。
ピサの斜塔に似た魔王城はいま海の中にある。
窓の近くを通り過ぎていった魚の群れは、黄色い絵の具に少しだけ青色を足して混ぜていくような色合いの見たことも無いほど美しい魚だった。
「海がとにかく綺麗………」
望愛が言う。
「海が透き通っているから降り注いでくる太陽の光が銀色に見えて、そこに銀色の魚が泳いで。種類の違う銀色が重なっていて本当にきれいですね」
猫が言う。
「この場所なんかどうだろうか」
魔王が言った。
「ここ?」
「海の中にあるからと言って息苦しいということもないし、海水が入ってくるわけでもない、ライトを付ければ十分な明るさもある」
「そうですね、それに僕たち以外にとっては侵入しにくいことは間違いないですからね」
「いいね。ここに塔を建てたら毎日この景色が見れるんだ」
窓から海を見続ける。
「お前たち本気か?」
静かな空間に皮肉めいたカエルの声が響く。
「何か問題があるのかい?」
魔王が聞く。
「問題という問題は無いがまさか本気で海の中に魔王城を建てようなんて考えるとは思ってもみなかった」
「それほど突飛な考えだとは思えないのだけどね」
「突飛も突飛、大突飛だ」
「そうかな?自然の地形を利用した城なんか過去にいくらでもあるはずだよ。それが今回はたまたま山や川じゃなくて海だっただけの事。もし戦国時代の武将たちが魔王となれば同じようなことをするはずだよ」
「う、うむむ………」
カエルはそのまま黙り込んだ。
「ここであれば敵が人間にしろ大魔王の親衛隊にしろ、時間を稼ぐことは出来るはずだ」
「「時間を稼ぐことは出来る」ということは、これでもまだ敵はやって来ると考えているんですね」
魔王の言葉に猫が答える。
「きっとやって来るだろう。金青の魔法のおかげでかなり難しいことは間違いないよ。敵は一番下の扉から入るしかないからかなり潜らなければならない。そして扉までたどり着いたとしても用意してある問題に正解しなければならない」
金青の身が引き締まる。この魔王城の安全は自分の魔法にかかっているのだ。
「けれど人間を甘く見ることは出来ない、最初は無理でもそのうちに何か対策を考えてくるに違いないよ」
これを突破されれば今の所、直接戦って倒すしか方法は無い。これだけの仕掛けを突破してくる敵は生半可な相手ではないだろうということは簡単に想像がつく。
「そうですね。人間の怖さは僕たちも十分知っていますからね」
「そういうこと。不可能と思われることを次々に成し遂げながら成長していくのが人間と言う生き物だからね」
龍笛が頷いた。
「決めたよ。ここを魔王城とする」
「本当に決定で良いんだな?一度決定してしまえばもう魔王城を動かすことは出来ないからな」
カエルが聞く。
「もちろん」
「わかった………」
その途端に魔王城が震えだして窓から見える魚たちの姿がぶれる。
「わわあw、ちょっと、大丈夫なのこれ?!」
望愛が焦った声で言う。
「これが仮設置から本設置に切り替わった時の合図だ。勇者様ともあろうお方が心配する必要はないと思うがね」
皮肉な口調のカエル。
「これくらいでどうにかなるほど魔王城はヤワじゃない。それくらいは言わなくても分かってもよさそうなものだがね」
「あんたっていつもあたしに風当たり強いわよね、あたしが何をしたって言うのよ!」
振動の中で望愛が声を荒げる。
「それはお前が勇者だからだ。それだけ言えば十分だろう」
「全然十分じゃないわよ!勇者なんてただの肩書でしょ、私があんたに何をしたって言うのよ。いちいち嫌な気持ちになるからやめてよね」
「ふん」
カエルの鼻息と共に振動が弱まり、そして止まった。
「ああ、やっと終わりましたか」
龍笛に抱き抱えられた猫が言う。
「地震って本当に嫌ですよね」
「ちょっと待ってよ、あの子たちは大丈夫なの?」
「どういうことだ?」
龍笛が聞く。
「地震よ!今の地震でもしかしたら津波でも起きたんじゃないの!?キリトとアリアとマーサが今外でカレーを作ってるよの、もし大きな津波でも来たら逃げられない」
「すぐに向かおう!」
「うん!」
「わかりました!」
龍笛と金青と望愛はその場から姿を消した。
「海の中に魔王城?しかも魔王と勇者が仲良く一緒に生活するだって?前代未聞なことばかりが起きている。これを見ている上のやつらがどう動くのか、それともただ静観しているだけなのか、見ものだな」
静かな空間にカエルの声が響いた。




