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最弱魔王の華麗なる生存戦略!  作者: 青井銀貨
第2章 魔王城を建てましょう
32/41

32話

 


 異世界の太陽が降りそそぐ白い砂浜。


 そこに立つ猫は魔王を見ていた。


「ずぴ、ずぞ、ずぴい、ずぞぞ、ずぴぴぴぴ………」


 夢のように美しいエメラルドグリーンの海に似つかわしくない音。


「だ、大丈夫ですか龍笛りゅうてきさん?」


 首元に金色の鈴をつけたロシアンブルーに似た猫が目を丸くしている。


「もちろん」


「ほ、本当ですか?」


 とてもそうは思えなかった。


「多少の失敗はあったが問題は無いよ、心配はいらない」


 海から上がってきた2本の角を生やした黒髪で長身の男の両方の鼻の穴からは真っ白な鼻水が盛大に伸びている。まるでマンモスのようだ。


「失敗って何があったんですか?」


「そんなに大したことじゃないんだけどね」


 言い終わった後で連続の咳をする。


「カジキカブトは思った以上の信じられないくらいのスピードを持っていた。時速100㎞は伊達じゃないね、背中に掴まるのがやっとで周りの景色なんか何も見えなかったよ」


「やっぱりそうなんですね」


「だけど成果としては期待通りで、最初のチャレンジからかなり深いところの海底を触ることが出来た」


「おお!それじゃあ予定通りじゃないですか。よかったですね、配下だから言うことを聞いてくれるとは言っても、カジキカブトがちゃんと理解してくれているのか心配だったんです」


「それは問題ない。カジキカブトはしっかりと役目を果たしてくれたよ。私が振り落とされないような配慮すら感じた」


「そうですか、それは良かったですね。けどそれならどうしてそんなことに?」


「私が調子に乗り過ぎてしまった」


 鼻水が綺麗な砂浜に落ちる。


「潜る場所は私が決めていたんだけど、水深が丁度良さそうな所を勘で選んで、カジキカブトに潜ってもらって、それで海底にタッチして、水面まで上がっていたんだ」


「そういう計画でしたからね」


「そうだ」


 魔王が頷く。


 鼻水も一緒に頷く。


「それで私の息が続いてもっと水深が深い所まで行けると思ったら、さらに岸から離れたところで潜って海底にタッチする。3回くらいはその方法でやっていたんだ」


「いいですね」


「けれど案外私の息が持つんだ。だから一回ごとに海底へ行って、タッチして、水面まで上がっていくのが面倒になって来てね」


「ええ!?」


「一度海底着いたら、そのまま海底に触れたままで水深の深い沖のほうにズザーっと行ったほうが速いんじゃないかと思ったんだ」


「海底に触れたままでってそれって地引網みたいに海底を走って行く、みたいなことですか?」


「おお!さすが金青こんじょうだね、こんなにすぐに理解してもらえるとは思ってもみなかったよ」


「ありがとうございます」


 猫が嬉しそうな顔をする。


「その通りだよ。地引網。人間地引網作戦で行こうとしたわけだ。海底にタッチしながら息が苦しくなったらカジキカブトに合図して、それから水面まで上がってもらえばいい。そうすれば魔王城建てる位置の微調整が簡単だと思ったんだ」


「なるほど!」


「いいアイディアだろう?」


「そうですね、魔王城は龍笛りゅうてきさんが触れた場所にしか建てることが出来ないですからね」


「そうだ。それなら海底に触れたまま横移動すればいい」


「なるほど、気が付きませんでした」


 しかし今の惨状を見る限りは何か問題があったことは間違い無い。


「だけど問題があったんですね?」


「その通り」


 なぜか胸を張って言う。


「計画通りに苦しくなってからカジキカブトに合図を出したんだが、帰りの分の空気を計算するのを忘れていたのだ」


「あ、、」


「しかも私が思っていたよりも水深は相当深くなっていて戻る時間がものすごく長く感じたよ。それでもカジキカブトがこの世界で断トツの泳力を持っていてくれて助かったよ。」


 海を見るとカジキカブトが飛び跳ねているのが見える。


「アイツも私の息がギリギリの状態だと気が付いたらしく、かなり頑張ってくれた。まるで弾丸のように一直線に水面まで泳いでくれた」


「そうなんですか………けど無事に戻ってきてくれてよかったです」


「私も戻ってこれて嬉しいよ。それにしても水深が深くなるとずいぶんと水が冷たくなるものだな」


「唇が真っ青ですよ龍笛りゅうてきさん。火にあたって温まった方が良いですよ、風邪ひいちゃいます」


「そうだな。金青こんじょうの言う通りだ」


「ちょうどマーサさんと望愛さんで昼食の準備で火を焚いているのでそこに行きましょうよ」


「そうだな、そうするとしよう」



 白い砂浜を歩いて行く男と猫。まるで絵画のようだった。




 ◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆



 砂浜で料理をするマーサと望愛。ジャンプ遊びをするキリトとアリアとスライム達。


「おや、あの二人戻ってきたようだね」


「あら本当!」


 望愛のあは手を振って二人に呼び掛ける。


 嗚呼。


 二人が手を振り返してくれた。


 嬉しい。


 望愛には友達がいない。


 それは自分自身のせいだと分かっていた。分かってはいたけれど欲しかった。欲しくて欲しくてたまらなかった。テレビ、映画、漫画、アニメ、色々な場面で友情のシーンを見るたびに心が苦しくなった。


 見渡す世界にそれがある。


 私もその中の一部。


 大切。


 とても大切。



 腰のナイフがひどく熱い。




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