27話 ~魔王城建築~
夕暮れの空の水平線に太陽が沈み始めた海岸に子供の声と拍手が響く。
「わー見てよキリト、四角いのの上に四角いのが乗っかってくー」
「すごいねーアリア、もうあんなに高くなってるよー」
海岸から数十メートル離れた海から大きな石の立方体がポップコーンのように湧き上がって大きな円柱状の構造物の上に積み重なっていく。
「えええぇ………こんな感じになるんだ、魔法ってすご………」
波が跳ねるバシャバシャという大きな音の中で金色の髪を持つ少女 望愛は口を開けっぱなしにしている。
「すごいですよね。これはいま龍笛さんの意志でこの現象が起きているんですよ、なんか感動というか、格好良くないですか」
首元に金色の鈴をつけたロシアンブルーに似た猫が夕日のオレンジを取り込んだ瞳をきらきらさせて言った。青く短い毛が少し逆立っているように見える。
「感動というか………なんか引くかも」
「なんでですか、こんなに凄いのに」
「そうなんだけど、なんか………うん、なんか」
二人がおかしな会話をしている間にも立方体は次々生まれて積み重なり円柱は縦に伸びていく。
まるで積木が自動で積み重なっていくようだ。しかしそこには不安定さというものは無く、石同士がぶつかる大きな音と振動がありながらも下の部分は一切揺れていない。積み重なりながら固定されているようだった。
「すごいものだな………」
黒髪から二本の角が生えた背の高い男が感心したように、それでいてどこか他人事のように言う。
「本当ですよね。これを見れただけで異世界に来てよかったと思っちゃいました」
「わかるよ。それにきれいな海と夕日というロケーションも素晴らしいじゃないか、金青の言う通りに海に魔王城を作ると決めてよかったよ」
「たまたまですよ、たまたま」
猫は尻尾をくねらせる。どうやら照れているようだ。
「これからここに色々な人間が来ることになるんだろうね」
深緑色のローブを着たマーサが感慨深そうに言う。
「人間だけじゃない」
「そうだったね。大魔王の親衛隊も来るんだろう?本当にこれが持ちこたえてくれるのかね」
積み上がっていく様子を見上げながら言う。
「来るにしてもできるだけゆっくり来てほしいものだよ」
「魔王は時間が経つごとに強さを増す、だっけ?」
「そう。こちらが魔王とわかっていて差し向けてくるのだから親衛隊というのはかなりの強さを持つのだろうが向こうは魔王ではないからその法則は当てはまらない。時間が経つほどに有利なのはこちらだ」
「怖いねぇ………」
「逃げてもいいんだけどね」
「あの子たちを置いて逃げられっこないだろう。まだもう少しあの子たちには時間が必要だ、あんたと同じようにね。少しでもその時間をつくてやるのがあたしのやるべきことさ、いまさら死なんか怖くは無い」
足元を小さなカニが横断していく。
「とりあえず完成したら今日はこの中で一泊しよう」
「けどまだ仮設置のままですけどいいんですか?カエルさんが言うにはこのままだと耐久度が低くなるみたいですよ?」
「そんなことを言っていたな。けれどまあ一日くらいは大丈夫だろう、見たところこのままでもかなり頑丈そうだからな。暗くなってきたことだし本設置は明日にしよう、まだまだ時間がかかりそうだからその前にキリトとアリアを休ませたい」
「そうですね、あの子たちの安全のことを一番考えないといけませんでした。ちょっと行けば崖になっているから間違ってそっちに行っちゃったら危険ですしね………ああほら、段々と前と同じくらいの高さになってきましたからもうすぐに完成しそうですよ」
段々と沈んでいく太陽が塔をシルエットにしていった。
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波に反射した煌めく朝日の中で猫は大きく伸びをした。
「んー、世界って綺麗だな」
白い砂浜にエメラルドグリーンの波が寄せては返す。吸い込む空気も透き通っていて体の中を綺麗にしてくれている気がする。
背中には緑色の小さなリュックを背負っていてこれは金青が散歩をするときには欠かせないものになっている。
これはいわゆるマジックバッグになっていて「真実の口」のようなカエルを使って魂ポイントと交換して得たものだ。
「今日は何が落ちてるかな」
わくわくしながら砂浜を歩きだす。
金青がは毎朝、そして気が向けば夕方にも散歩をするのだが、そこには結構いろいろなものが落ちている。これも金青がこの世界を散歩するのが好きな理由。
魔物が死んだときに落とす魔道コイン、そして人間領へやって来た人間が魔物との戦いに負けて遺していったもの。少し早起きをして歩くだけでいろいろなものを拾うことが出来る。
時には魔物に襲われることもあるが強い魔物がいそうな場所にはあまり近寄らないようにしている。けれどそういうところこそ冒険者が倒れていたりして落とし物を拾うチャンスでもあるので悩みどころだ。
持ち帰って遅く起きてきた龍笛に拾ってきたものを見てもらうのがまた楽しい。
さあ今日はどんなものを拾うことが出来るだろう。
青色の毛の美しい猫はしなやかな体で異世界の白い砂浜に足跡を刻んでいく。




