22話
太陽がさんさんと降り注ぐ白い砂浜で勇者 望愛は嫌な顔をした。
「何こいつ、いつの間に喋れるようになったの?しかもなんでこんなに偉そうなのよ」
「教えてやろう」
望愛の言う通り偉そうな口調でカエルの石像は言う。見た目は固そうに見えるのに喋るときは口が滑らかに動くので違和感があって気持ちが悪い。
「我と魔王は一心同体。魔王の力が増せば我の力も増すことになる、どうだね理解できたかね勇者?」
「ふわー口がグニグニ動いてるー」
「わーなにこれー変なのー」
「ぐわぁーーー!!」
突然の大声によってキリトとアリアは叫び声をあげながら両手を上げて逃げた。途中でアリアが一度躓いて転びキリトが引き返して立たせてからまた逃げた。
「ちょっとあんた何やってんのよ子供相手に!」
「フン!我は子供が嫌いなのだ」
怒る望愛に対しカエルも怯まず怒ってみせる。
「子供が嫌いな奴は心が狭い奴なのよ」
「なんだと?」
粘っこい舌打ちが聞こえた。
「自分の心が子供だから子供を許せないの、わかる?」
「子供は嫌いだが勇者はもっと嫌いだ、わかるか?」
「さっぱり分からないわ、私があなたに何をしたっていうのよ」
「何もしてない。何もしていなくとも勇者というだけで嫌いなのだ」
「そんなの論理的じゃないわ」
「論理など不要。勇者のために私が今後パンを出すことは無い、それだけは覚えておくがいい」
「ちょ!ちょっと待ってよそれは話が違うでしょ!卑怯よ!」
「卑怯で結構。悪魔にとって卑怯とは上質な誉め言葉成り」
昔風の言葉遣いで梃子でも動か無さそうな雰囲気。
「ちょっと魔王、何か言ってちょうだいよ」
助けを求めるように龍笛を見る。
「そうだな。さすがにそれはやってもらわないと困るな、望愛は今は私のファミリーなんだからね」
「ほら見なさいよ、魔王がこう言ってるんだから大人しく従いなさいよ!」
少し時間を空けて粘っこい舌打ち。
「仕方あるまい」
「え?」
「魔王の命令には逆らうことはできない」
今までの態度とはうって変わって小さな声で口惜しそうに言う。
「そうなんだ。魔王とカエルの関係性ってどうなってるの?」
「私には分からないからカエルの方に聞いてくれ」
望愛はカエルに視線を移す。
「勇者に教えてやるつもりは無いな」
カエルの量はなから結構な勢いで鼻息が漏れた。
「なによそれ、まあ今まで通りパンを出してくれるっていうならいいけどね、別に………もっとパンを食べてもいいでしょ魔王?」
「もちろんだ、気にせずどんどん食べてくれ」
「あとあの子たちにも牛乳と小魚のおやつも欲しいし………」
「キリトとアリアは牛乳よりもファンタの方が好きじゃなかったか?それと小魚はどちらかと言えば嫌いだったような気がするのだが」
「何言ってんのよ魔王。子供の体の成長を考えたら牛乳と小魚がいいんだから余計なこと言わないで。両方ともちゃんと残さず食べ終わったら少しだけご褒美を上げるんだから、あの子たちのことは私に任せて」
勇者は強めの目線で胸を張る。
「出会ってからほとんど時間が経っていないというのにもうすっかり母親のようだな」
「母親じゃなくてお姉さんでしょ!」
「そこは大した問題ではないと思うのだが」
「全然違う、ぜんっぜん!」
「わかったわかった。お姉さん、だな」
「そうよわかればいいのよ」
頷く望愛には龍笛がそんなことはどうでもいい、という表情をしてゐることには全く気が付かなかった。
「それにしてもやはり魔王ともなればすごい魔法だね」
二人の言い合いが収まったところでマーサが感心した声を出した。もともとは人間領の村でキリトとアリアを引き取ってくれと直談判した老婆だが、龍笛も望愛も金青も小さな子供を育てた経験が無いため、マーサも一緒についてきて面倒を見てくれるならばという条件で引き取ったのだ。
「そうか?勇者の方が断然すごいと思うのだがな。私には魔法の力で登らずに山を越えるなんて言う芸当は出来そうにもない」
望愛が口元をぴくぴくさせながら満足そうに称賛の声を受け止めている。
「確かにあれはすごかった。しかしこの魔法も普通じゃないよ、なにせここに無いものを時空を超えて運んできているのだからね」
「はぁ、なるほどねぇ………」
望愛が分かっているふりをしながら頷く。
「しかしまあこれは魔王であればだれでもできるのだろう?」
龍笛が問いかけたのはカエル。
「それはそうなのだが、それでも魔王それぞれに個人差というものがっぁああああああああああああ!!」
「ちょっと何よ急に大声出して!やめてよねカエル、さっき子供相手にうまくいったからって調子に乗らないでよ!」
「クソッ、ガキだと思って侮った………」
「何言ってるのこいつ?」
ただ驚かせるつもりではなかった素振りのカエルを見て望愛が不思議そうな顔をする。
「あれだよ、あれを見てごらん」
マーサが指さしたのは海岸を走るキリトとアリア、そしてその後ろにいる猫、そして色とりどりのスライム。
「あのふたりがどうしたのよ………あ!」
金色の髪の毛を持つ二人の子供は走りながら時折ジャンプしているのだが、その高さが異常だった。
「身長の倍以上はジャンプしてるじゃないの。この世界の子供ってあんなに脚力凄いの?」
「そうじゃないよ。あれはあんたがやったことだ」
マーサの声は落ち着いていながら少し震えている気配もある。
「風魔法!?」
「飛び上がるときも降りるときも明らかに不自然なほどゆっくりだ。筋肉を使った普通のジャンプではああはならないだろう」
龍笛も顎に手を当てながら感心したように言う。
「あの二人、だたのガキじゃねぇ。何者だ一体」
呟くようにこぼれたカエルの声は今までとは違って荒々しい言葉使いだった。




