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最弱魔王の華麗なる生存戦略!  作者: 青井銀貨
第2章 魔王城を建てましょう
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19話 ~空から子~

 


 黒い雨雲が一部分だけ消し飛んだ人間領で2人の男女と一匹の猫が空を見上げながら右往左往している。


「あの黒く見える点、あれです!2人です2人います、ちゃんと受け止めてください!」


 右往左往。


「ちょっと待ってよ。なんでこんなことになるのよ」


 右往左往。


 無事に3人で異世界を生きていくことを決めた本当に直後の出来事。首元に金色の鈴をつけたロシアンブルーに似た猫が突然空を見上げて目をぱちくりし始めて。空から子供が落ちてくると言い出した。


 金青こんじょうは猫なので武器を持って戦うことは出来ないが、そのかわりに機敏さと周囲を感知する力を持っている。この能力を使って近づいてくる敵を遠くから発見することが出来て、そのおかげで敵から逃げたり隠れて待ち伏せしたりすることが出来る。


 今まで何度もそれは実証されていて間違いが無かったので、信じられないことを言われても望愛のあ龍笛りゅうてきも疑うことなくすぐさま対応することは出来た。しかしながらこんな状況は生まれて初めてだから落ち着いているとはいいがたかった。


「それは望愛のあが起こした竜巻のせいだな、そう考えるのが妥当だ。さっきの村を見て見れば家も屋根も吹き飛ばされたのがそこいらじゅうに落ちてる。体重の軽い子供が飛ばされたとしても不思議はない」


 龍笛りゅうてきが言った。


「なんでそんなに冷静なのよ」


 空の黒い点を追いかけて位置を変えながら少し苛立った声で言う。


「冷静に対処しなければうまくいくものも失敗してしまう」


「それはそうだけど」


「落ち着くんだ。もし失敗すれば子供が水風船のように破裂してしまう」


「そんな具体的な例えだされて落ち着けるわけないでしょ。頭の中に子供が破裂する姿を思い浮かべちゃったわよ!」


「もしかして龍笛りゅうてきさんには何かアイディアがあるんじゃ?」


 ピタリと立ち止まった猫が言う。


「嘘?本当に?だからそんなに落ち着いてるの?」


 二人の視線の半分が龍笛りゅうてきに向かう。


「風を使って受け止めるんだ望愛のあ


「へぇ?」


「そうか!そうですね、家も木も子供も空まで飛び上がらせることが出来るんですから。上手く風の力を使えば地面に落とさずに受け止めることもできるはずです。さすがです龍笛りゅうてきさん!」


 猫は目をキラキラさせて言った。


「ちょっと待ってよ私なの?」


「それしかないだろう」


「それしかありませんよ!」


「だってだってそんなことやったことないよ!風って言われても自分の意志でやったわけじゃなくて頭に来たらいつの間にかこんなことになってたやつだから。本当に自分がやったのかどうかまだよくわかってないよ!」


「大丈夫だ、お前ならできる、お前は勇者だ、いざという時にはやれる人間だ」


「そうですね。こういう所で活躍するのが勇者ですよ」


「ちょっと何好き勝手言ってるのよ!私に全責を背をわせないでよ」


「そんなことを言っている時間は無い。貰方あんなに近くにいる。やるしかないんだ、やるしかない。お前ならできるぞ勇者望愛のあ!」


「そうですよ頑張りましょう望愛さん!」


「やるしかない!こうなったらやるしかないわ!」


 人が変わったかのように急激に決意を固めて精神の集中に入った。


「もし万が一があっても僕と龍笛りゅうてきさんは子供をちゃんと受け止めれるように準備していますから」


「その通りだ。まかせておけ」


 望愛は何も答えず手を合わせた途端、地面から風が吹き始めた。


「おお、やはり………」


「行けます、行けますよ望愛さん!」


 風はどんどん強くなる。


「また吹き飛ばしちゃ駄目よ望愛。落ち着いてやるの、貴方ならできる、絶対にできるわ」


 呪文を唱えるように言う。


「浮き輪を思い出すんだ。空気の力があれば大人の体重でもちゃんと支えることができるんだ。大丈夫、自分を信じろ」


 子供が2人、金青こんじょうの言った通りに落ちてくる。


「ふわぁーーーーーーーーーーー」


「おぅーーーーーーーーーーー」


 近づいてきた子供の声が聞こえてくるといよいよ3人にも緊張感が増してくる。上をみながら位置を調整して待つ金青こんじょう龍笛りゅうてき


 そして。


「ほわぁ!」


「わぁあ!」


 落ちる速度と地面からの風が完全に釣り合った。


「落ちない、もう落ちないよぉ!」


「やったやったー!」


 龍笛りゅうてきの手に触れるより少し前で子供は完全に止まり、もう一人の子も同じ位置で浮遊した。


「やりましたね望愛さん!素晴らしい神業ですよ、初めての魔法をここまでコントロールできるなんて普通じゃないです!やっぱり望愛さんは特別ですよ!」


「さすがは勇者望愛だ!できると信じていたぞ」


「まったく、簡単に言わないでよ。今までの人生で一番緊張したわよ」


 興奮する二人の様子を目の端で見て苦笑いする。額に金色の髪の毛が張り付いたままゆっくりとそれぞれの子の下まで歩き、浮遊している子供をひとりずつその腕におろした。


 二人の子の髪は美しい金色だった。




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