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最弱魔王の華麗なる生存戦略!  作者: 青井銀貨
第1章 勇者が出てきてこんにちわ
17/41

17話 ~望愛~

 


 望愛の髪は金色だ。


 これはイギリス人の曾祖母から受け継いだもの。望愛にとって誇りでもありコンプレックスでもある。顔自体は日本人顔で日本語しか喋ることは出来ないので、まず確実に髪を染めていると思われる。


 小学校、中学校でも言われ続けてはいたがその時はまだよかった。最悪だったのは高校生の時。


 望愛は絶望的に学校の成績が悪くて、仲の良かった女子の誰一人とも一緒の高校に行くことが出来なかった。そのため家から遠くて偏差値の低い高校に行くしかなかった。


 入学初日、望愛は誰とも会話をすることが出来なかった。


 もともとかなりの人見知りでもあったし、遠くからヒソヒソ話で自分の髪のことを言っていることに気付いたからだ。


 さらに教師との間柄もひどいものだった。


 金色の髪のことは学校に伝えていたのだが、担任の教師が長期の入院から戻ってきたばかりで、報連相が上手くいっていなかった。教師はすぐに望愛を起立させ、髪を黒に染めるように注意した。


 望愛は何も言わなかった。


 反抗の気持ちもあった。しかし理由としてもっと大きかったのは、今まで教室の中にいる誰とも一言もしゃべったことが無かったとこと。クラスの全員が注目している中で自分の声を聞かれることがたまらなく恥ずかしかった。


 謝ることも説明することもしなかった。


 教師がどれだけ声を荒げようとも、一言も話さずにただずっと立ち続けた。怒った教師は教室を出ていった。静まり返った教室の空気は途轍もなく重かった。


 その後、誤解は解けたのだが教師の心の中には大きなわだかまりが残った。


 そうなるともう望愛の孤独は確定したも同然だった。


 たまらなく苦痛ではあったが学校には通い続けた。高校は卒業しなければいけないという気持ちがあったし、自分から学校を辞めるということを親にも兄弟にも学校にも言う勇気が無かった。


 そんなある日、上級生から目を付けられた。


 本物の美しい金色の髪の毛はどこにいても目立ち顔も良かったので、男子生徒たちはひそかに目で追っていて話題の中心だった。女子生徒はそうはいかなかった。


 上級生が教室に乗り込んできて半ば強制的に校舎裏へと呼びだした。


 調子に乗っていると文句を付けてきたが、またしても望愛はただ真っ直ぐに前を見たまま、一言も口を聞かなかった。


 我慢はした。


 髪の毛を掴んできてもただ耐えた。触られただけで頭の中が沸騰しそうなほど怒りが湧いたが何とか堪えた。


 しかしあろうことか一人が吸っていた煙草の火を望愛の顔に押し付けようとしてきた。それはただの脅しだったのかもしれない。


 けれどその瞬間、望愛はアニメのワンシーンを思い出した。いじめられっ子が長い前髪を上げると、そこには何十箇所もの火傷の跡があったこと。


 自分も同じ目にあわされる。


 スイッチが入った。


 誰とも喋ったことが無いから誰も知らない望愛のあの出生。


 望愛の実家は名の知れた道場である。望愛自身も物心つく前からそこでかなりの時間を過ごしてきた。


 何を知らずにやっていたことが実は剣術の鍛錬だった。そして誰もが望愛には才能あると言った。


 剣道ではなく剣術。


 スポーツと明らかに違うのは人体を知っていること。人間の体がどういう作りになっているか、どう動くか、どう動かすべきか、それを知らなければならない。子供の頃から何度も言われてきた言葉。


 どうすれば人体を破壊できるか、それも知っている。


 スイッチの入った望愛の体は自然と動く。攻撃意思すら持たずに攻撃するという武術の高み。


 たとえ素手であっても、筋肉で守れない場所を攻撃することは同じ。自動的に思い描いたのは相手の喉を破壊することだった。


 しかし望愛にはまだ理性の欠片は有った。


 直前に顎への攻撃へと軌道修正した。顎であれば格段に危険度は下がるというとっさの判断だった。


 ここで望愛はミスを犯した。


 女子生徒の骨が圧倒的に脆かった。


 望愛の戦いの基準は道場にいる大人たち。しかしその道場は日本でも有数のレベルを誇る道場でそこに入る者達も普通では無いのに望愛はそれを知らなかった。


 軽々と顎と砕いた。


 悶絶する女子生徒の異常な痛がり様を見て、生徒たちはパニックになった。骨が砕ける感触を得た望愛もパニックになった。


 ここでも望愛はミスを犯した。


 自分の行いが学校に発覚しないことを望んだ。そのためにはその場にいる目撃者が邪魔だと瞬時に判断してしまった。


 望愛は武術の才能がある。


 だからこそパニック状態であっても的確な動きができてしまった。無駄のない動きと的確な判断力で、誰一人として逃がさなかった。


 その結果、悲鳴を聞いた生徒や教師が到着するよりも圧倒的に速く、全員の顎を砕いた。しばらくしてから我に返って自分の選択が間違いだったことを知った。


 望愛は絶望した。


 もう二度と学校に行くことは出来なかった。


 異世界でも同じことが起きた。


 望愛にとっては同じだった。





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