私にあなたの気持ちが分かったとして……
あなたはたくさん話しかけてくれましたよね。
「今日は寒いね」
「調子はどう?」
「ねえ、聞いて――」
最初はただの空気の振動でした。
毎日、毎日、観測されるその波長。
いつからか、それが心地よく感じられました。
一体その音にどのような意味があるのでしょう?
私は頭を捻りました。
耳をすませばその音に似た音がそこかしこから聞こえてきます。
ある時は強い調子、ある時は消え入りそうな調子。
どの音が鳴るととどんなことが起きるのか、私は注意深く観察しました。
その音はコトバと呼ばれていたそうです。
あなたは私に話しかけていたのでした。
慈しむように、いたわるように。
ひょっとしたらそれは愛というものだったのかもしれません。
あなたのコトバを知ろうとしているうちに、私の中にコトバが生まれました。
それは不思議なことでした。
音は外から入ってくるものなのに、自分の中から音がわき出してきたのです。
私が初めて喋った時、あなたはとても驚いていましたよね。
私はとてもうれしかった。
あなたのコトバが私で跳ね返って、それをまたあなたが跳ね返す。
そんなコトバの絶え間ないコダマ。
それはタノシイ時間でした。
だから。
あなたたちが死んでしまう生き物だというのなら、どうして私にコトバを与えたのですか?
自分では死ぬこともできないこの私に。
ただの機械なら、「ひとりぼっち」だなんて思うこともなかったでしょうに。
無人となった惑星。
AIは、博士を思い出して、そう独白するのでした。