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第一話『魔王と勇者とスーパーマーケット』

 俺たちの家には両親がいない。―—といっても、そんな重大なことが起こったとか、俺たちの過去に暗いものがあるとかそんなことではなくて。……なんというか、俺たちの両親は仲が良すぎるのだ。


 父さんが仕事で海外に向かうことになった一年前、母さんはノータイムで父さんについて行くことを決意した。幸いにも俺の生活力はかなり高かったし、今住んでいる家を俺たちに明け渡してあちらで二人で仲良く過ごすんだそうだ。お互いもう四十代半ばだというのに、その愛情が途切れないのはまったく尊敬に値する話だった。


 じゃあ置いて行かれた俺たちは軽視されているのかって話だが、どうもそういう訳ではないらしい。その証拠は、今俺たちの目の前にしっかり提示されていて――


「……うお、きっちり今までの二倍入ってる。これだけあれば十分四人分の食事はとれそうだな」


「お母さんたちもすごいよね……『ホームステイを受け入れることにしたから仕送り増額してくれない?』なんて、本当なら鼻で笑われたっておかしくないのにさ」


 口座の画面に表示された仕送りの額に舌を巻きつつ、俺は口座からお金を引き出す。俺と志野がバイトに入るだけでは四人分は到底賄えそうになかったので、この助力は純粋にありがたかった。


 引き出し金額をタッチパネルで指定すると、ガシャコンと音を立てて口座から俺たちの生活費が引き出される。俺からしたら毎月のように行っている行動だったそれを、後ろで興味深そうに見つめている奴らが約二名。―—誰あろう、俺たちの買い物に同行している異世界組である。


「これは……この国の通貨か? 何もないところから現れたあたり、錬金術の類なのだろうか」


「紙が通貨ってのはまたすごいね……あたしのところは金銀銅で大体できてたから重いったらなかったわ」


「俺たちの国にも金属貨が無いわけじゃないけどな。それとアマネ、これはもともと俺たちの資金だ。他の組織に預けてたお金を、俺たちが今操作することで引き出したってだけだぞ」


 財布から一円玉を取り出してアリスに差し出しながら、アマネにそう解説を付け加える。やっぱり日本の文化にはまだ慣れていないのか、俺の説明を二人はぽかんと口を開けて聞いていた。


「金を、他の組織に預ける……?わらわからすればリスクしかない選択じゃぞ?」


「それはあたしも同感。自分の手で持ってなきゃ不安じゃない?」


「俺たちからしたら全財産を自分の手で持ってることの方が不安だよ。この国のセキュリティは優秀だからな、よほどのことが無い限り問題は起きねえんだ」

 

 こいつらの世界は、よほど個人主義が進んだ世界なのだろう。銀行という概念すら、彼女らからしたら訳の分からないものみたいだからな。アリス曰く人類は相当追い込まれてたらしいし、まあそれも納得できる話なのかもしれない。


「まあ、その話はまた後でするとして。……とりあえず、三日分くらいの食料は買い込んでしまおうか」


「そうだねお兄ちゃん。任せて、愛情たっぷりの料理プランを考えてあるから!」


「レパートリーが豊富なのはありがたいけど、あんまり日持ちしない食材ばかり買うんじゃねえぞ……?」


 目を話せば今にもすっ飛んでいきそうな志野に釘を刺しつつ、俺たちは食料品売り場へと歩を進める。スーパーに初めて訪れた異世界組は、恐る恐るといった感じで俺の歩いた後をついてきていた。


「新鮮に見える食材が、こうも無防備に配置されているとは……罠などの類を警戒しなくても大丈夫なのか?」


「肉に野菜、それに魚まで……ここって結局何のお店なわけ?」


「何の店か……って聞かれると難しいな。とりあえず、ここに来れば生活に必要なものは大体揃うぞ」


「何その万能ショップ……。喧嘩ばかりで一切仲良くする気が無かったあたしの地元商店街にも見習ってほしいわ」


 俺の説明に目を丸くしながら、アリスは何かを思い出したかのような溜息をつく。今までの発言の節々からも読み取れることだが、救世の勇者は救うべきその世界に割とうんざりしていたようだった。


「総合商店か……なるほど、それならこの広さも納得できるな。侵入者の望みにあった幻影を見せるダンジョンという可能性は消してもよさそうじゃ」


「そもそもこの世界にダンジョンなんてものはねえっての……」


 どこか安心したように背筋を伸ばすアマネに、俺は苦笑を浮かべるしかない。地元のスーパーでこれってことは、こいつらをデパートに連れてった日にはとんでもないことになるんだろうな……。


「あー、そういえばあったわよねそんなダンジョン。というか、あれってアンタの部下が作ったやつじゃなかったの?」


「わらわが即位する前からの幹部が作っていたものじゃ。『罠ありきのダンジョンなど美しくない』と撤去を求めてはいたのじゃが、『罠で倒すことこそが美しいのでしょう』と譲ってくれなかったことを今でも覚えておるわ……」


「……なんていうか、魔王って役職も大変なのね。アンタのこと斬らずに済んで良かったって思うわ……」


 俺としてはダンジョン談義はそこで終わるはずだったのだが、どういう訳か異世界組が共鳴を起こしている。元の世界の首脳陣が見たらひっくり返るような光景―—勇者と魔王が無言で頷きあいながら握手を交わす瞬間が、俺の眼の中に納まっていた。


 二人とも大きすぎる重圧に辟易してたらしいし、通じ合うところはたくさんあるんだろうけどな。せっかく異世界に来たんだし、立場を忘れて二人とも仲良くしてほしいものだ。我が家で戦争なんておっぱじめられたらたまったもんじゃないし。そういう意味では、プリン事件は結構危ないラインだったのかもしれない。


「ほら、ぐずぐずしてねえで行くぞ。あまり広くないとはいえ、迷子になったらそれはそれでめんどくさいからな」


「これで狭いとか、本気のショップはどんな広さがあるわけ……?」


「大丈夫じゃ、わらわの城より広い商店など存在するはずが……ありそうなのがこの世界の底知れぬところじゃな……」


 自分の城より大きなスーパーを想像して悲しくなったのか、アマネはどこか複雑そうな顔をして俺の一歩後ろのところまで追いついてくる。今は何とかしてもらっているが、もし尻尾が見えていたら地面に引きずるぐらいにはしょんぼりと垂れているんだろうな……。


「今こうやって歩いてるだけでも、この建築があたしたちの世界と違いすぎるってわかるもんね。今歩いてる床の材質、あたしさっぱりわからないもん」


 コツコツという音を立てて歩きながら、不思議そうにアリスは周囲を観察している。やはり勇者としての癖なのだろうか、目についたものすべてから情報を摂取しているかのようだ。もう勇者として動く気はないらしいけど、そういうところはまだまだ勤勉なところが抜けてないみたいだな。


「ま、そのあたりは少しずつ慣れていけばいいさ。ほら、色々考えるのもいいけどとりあえずは今日の飯のことでも考えようぜ」


「あ、待ってよケイト!」


「そうじゃ、未開の地にわらわたちだけにするなー!」


 そう言い残して、俺は少し先を歩く志野を追いかける。その俺を二人が慌てて追いかける形で、俺たちにとっての日常、異世界組にとっては未知の冒険が幕を開けた。

何とか宣言を達成できました……!四人が征く買い出し、どのような道中になるのか楽しみにしていただければ幸いです!次回もできるだけ早く更新します……!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また次回でお会いしましょう!


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