探索
…7
エリー(仮)とセシインは宮殿内の客間に通され、落ち着いた所で
「お前、王子だったんだな。」
壁側のベッドに座り込んでいるセシインに声をかけたところ、彼は、縮こまってしまった。
「…違う。オレは王子なんかじゃない…。
都に来たのだって初めてだし。そもそも、オレは、じいさんと砂漠の町を旅しながら二人で生きてきたんだ。
親は昔に盗賊に殺されたって聞いてた…それが今になって、生きてました。オウサマが父親で、オウヒサマが母親っですって…信じられるわけないだろ!?」
「普通のまっとうな人間なら、同意しているところなんだろうが、あいにく俺は人間でもないし、“親子”ってのもよく分からんが…」
「人間じゃない…って?エリー(仮)さんって何者なんだ?
どうこからどう見ても、“ちょっと変わった露出”…いえ、ひとにしか見えないんだけど。」
「オイ今、何て言おうとした?」
砂漠とはいえ、白いタンクトップと、同色のスボン、特に武器も携帯しておらず、日除けも何もしていないスタイルをした、彼の格好を視て「暑がりなんだな」と勝手に思っていた。
ずっと日にさらしている様にも見えた白い肌は、全く日焼けしているようにも見えなかった。
入口やベッドの下に不振なものがないかなど確認しながら、
「それはそうと、俺は明日から、じいさんとやらを捜しにいくが、お前も行くか?」
「……」
静かになったので、エリー(仮)はセシインを振り向くと、セシインはベッドの上に座りながら、舟を漕いでいた。
「横になっておけ。」
「……ん。」
寝ぼけ眼でベッドに横になると、そのまま寝息が聞こえてきた。
(ずっと張りつめていたようだったからな、疲れがたまっていたのか。まだ子どもだな。)
じいさんの顔や特徴を知っているのは、王族の者、王宮の者とセシインぐらいだが、先ほどの都内でのような人さらいに狙われないとも限らない。
結局、セシインはエリー(仮)が戻るまでの間、王宮内で預かってもらう事になった。
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次の日、エリー(仮)は疲れて寝込んでいるセシインを王宮においたまま、ひとりセシインのじいさんと王妃の言うじいやの探索のため、宮殿内の者からも人相を教えてもらうことにした。
先ずは、都の中でも、セシインのじいさんの行きそうな、お店を回る事にした。
「あいつのじいさんは、結構“ヤンチャな人柄”らしいな。」
セシインに教えてもらった“候補”まで着くと、呆れたため息をついた。
大通りから外れ、華やかな通りだ。
あちらこちらから、香水と煙草の混ざった甘ったるい匂いが漂ってくる。
(匂いが強いな…こんな所に、じいさんが何の用があるんだか…)
慣れない甘い匂いに鼻を曲げながら、年若い美女たちが、男を誘う…そんな歓楽街。
新しい果実を求めて、金を持った男が来るような場所である。
何かから逃げ続けた老人が立ち寄るには、よっぽどの目的があったのか、いささかの疑問を抱きながら、
(こういった場は、俺よりも“オッサン”や“あいつ”の方が、手慣れてるとは思うんだが、どうしたもんかな…)
二人とも、ここにはいないし、エリー(仮)も今回のような場所での人探しに伝手があるわけでもなかった。
そんな事を考えてながら進んでいくと、前方に見覚えのある男たち―ゼクト達―一行が笑いなら歩いていくのが見えた。
うち一人が、エリー(仮)に気づくと、
「あ、アンタ昨日の。こんな所で、子ども探しでもしてんのかい?」
「まあな。といっても今度は別の人間なんだが。」
「…まさか、コレか?」
小指を立てるゼクト、ニヤリと愛嬌のある笑みを浮かべる。
「残念ながら、そーゆーのはないな。」
茶化すゼクトに、淡々と答えるエリー(仮)。
ゼクトの後ろにいた二人の男がコソコソ喋っていた。
「まさか、ココで仕事始めるつもりなのかと一瞬思っちまったぜ…」
「オレも。あーゆー顔、嫌いじゃないなぁ。」
後ろの男達の冗談は、聞かなかった事にした。
「あんたらは、ココに詳しいのか?」
ゼクトは、
「俺は久し振りだが、コイツの知人の女がこの辺で店出してるから、近くに来たついでに挨拶がてら、行ってみようぜってなってな。」
と、隣に立っていた黒髪のガタイの良い男を指差す。
「ジャックだ。…どうぞよろしく。」
紹介された男は体格は良いが、寡黙そうで、エリー(仮)に対して、仏頂面で挨拶した。
「あ、ああ…こちらこそ。エリー(仮)だ。」
お互い軽い挨拶を済ませると、エリー(仮)達は情報を交換した。
ガタイのいいジャックは、何か知っていそうだった。
「…で、誰を捜してる?」
ジャックにセシインや王と王妃から聞いた特徴を伝えると、
「もしかして、噂のジイさんかな?」
と、心当りがあるのか、ジャックは声を抑えてエリー(仮)に囁く。
「噂?」
「最近、カレンって女を追っかけ回してるジイさんが居るみたいで…」
(ストーカーか?)
「知人の話では、身なりはふつーのみすぼらしい服を着たじいさんなんだが、羽振りが良いってもっぱらの噂だ。変装したどこぞのお偉いさんって話もある。」
「まあ、なにせ詳細は不明だが、中には“王族関係者を名乗っていた”のを聞いたヤツもいるらしい。」
「オレらも、そのじいさんに会えたらラッキーだよなって思って、ふらついてたんだ。」
不穏な言葉を聞いてしまった。
「…金品でも巻き上げるつもりか?」
エリー(仮)の言葉に、ゼクトはニヤリと笑って、
「分かってるじゃねーか。」
(ふむ…依頼人の害になるようなら、適切なタイミングで排除すべきか?)
思考するエリー(仮)の顔を見ると、慌てて手をヒラヒラさせてくるゼクト。
「そんな怖いカオすんなって!冗談だよ!冗談!」
ゼクト達には、“教育代”ということで、幾らかを渡して、案内してもらう事にした。
ありがとうございます。