なんか偉い人の依頼
3
セシインと別れたエリー(仮)は、当初の依頼人のいる場所、宮殿へ向かった。
今回の依頼人はこの国の王と王妃。
依頼内容は、会ってから直接依頼人から聞くといったスタイルだ。
宮殿の入り口であらかじめ伝えられていた伝言を伝えると、案内人が彼の元まで来て、王と対面できるのだとか。
案内された豪奢な客間でしばらく待っていると、ノックがあり、若い男女が入ってきた。
最近内乱があったとかいっていたが、お付きの者は誰も付いてはいなくていいのだろうか。
「よくぞ参られた異界の“何でも屋”よ。」
「依頼があれば何処へでも。それが我々の生業だからな。
用件を聞こうか。人殺しでも、探し物でも、依頼があれば金次第で何でも請け負うぜ。」
日に焼けた長身の王は黄金で飾られた腕飾りをシャラリと鳴らすと、探るような金眼をエリー(仮)に向け、
「ふふふ、随分と物騒な事を言ってのけるな。確かにここにおいては色々と暗躍する者はいくらでもいる。
だが、我らが貴殿を喚んだのは、そうではないのだよ。」
どうも回りくどいいい回しをしている王だが、それまで清閑していた王妃が口を開いた。
優雅に扇を広げると
「あら、あなた。本題に入ったらいかが?」とひとこと優しくたしなめた。
長い薄い金髪を、高い所で結い上げた、優しそうな碧眼を王に向け、ほほえんだ。
王もまた、その眼を国の至宝と謳われた青みを含んだ金髪の眼で受けると、客間のソファに座したまま、柔らかい笑みを王妃へ向けている。
さすがにこれは申し訳なさげに、
「二人の世界に入っている所申し訳ないんだが、俺を喚んだのはお二人のイチャラブっぷりを見てくれってことでは…さすがに無いよな?」
つり目で下手すればキツそうに見える男の瞳がなんだか、眉尻が下がり気味になりながら、
「出来る事ならば、我が妃のジャスミンのごとく柔らかな匂いを民草にも分けてやりたい所存ではあるが…あいにくと」
ペチン
王妃の閉じた扇の音で、正気に戻ったようで
「こほん。すまぬな。ここの所、激務続きだったもので」
「い、いや、まぁ。おつかれさまです…?」
と言いつつ、少しずつ腰を浮かせ出口に向かっていたエリー(仮)だったが、
声音を変えた王が静かに言ったひとことで、
「人を探してもらいたいのだ。金貨50万枚で」
「何なりと」
安請合いをしたのだった。
「それで、探し人の特徴だが、どんな奴なんだ?」
「うむ、探し人というのは、我らの子、12年前の内乱の折、我が手より離別した息子を探してもらいたいのだ。」
「12年も前に別れたって、そんな昔から探してたってことは、この国内にいないかもしてないんじゃないか?」
「それについて大丈夫ですわ。あの子のには、頼もしいじぃやが一緒にいるはずですから。」
ならそのじぃやを呼べばいいのではないのか?
「妃と同じ碧玉の眼に、髪は金髪。ここいらではめずらしいから、目立つとは思うが。」
「めずらしい?」
そう言えば、その都に来てから、黒髪か茶髪の人ばかり目にした。もしかしたら…
「少し心当たりがあるんだ。じぃさんとやらは分からないが、それっぽい候補を連れて来てもいいか?」
「なんと!
既に接触していたとは!ぜひとも会わせてくれたまえ!」
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エリー(仮)は一旦、宮殿を出ると、ついさっき別れたセシイン少年の場所を探す事にした。
(さて、目立つ髪と言ったが、それなりに広いからなあ、この都は。とりあえず、セシインに言っていたように、宿を取ると聞き込みをするか。)
先ほどは直接王宮へ向かったが、都のを取り囲むように、砂漠のオアシスを広大な水路に用い、発展させてきたこの都は活気あふれており、
砂漠の周辺諸国からもたらされた食べ物や服飾品の数々の流通を生業とする店舗が、至る所に広がっていた。
(言われてみれば、確かに黒髪や茶髪、赤髪系の人間が多いようだな。)
道行く人の目線も気にならないのか、自分の毛色を棚に上げ、とりあえず、近場の食堂へ入った。
ーカランカランー
戸口をまたぐと遅めの昼の時間に、奥の暗がりに数人の男たちが、冷たいエール(麦酒)を手に、乾杯していた。
エリー(仮)が店内に入ると、一瞬静かになったが、すぐに興味を失ったかのように、飲みはじめた。
とりあえず、入口近くのカウンター席に座り、遅めの昼食を取る事にした。
あまり愛想の良くないウェイトレスが水を置きにきたので、
「おすすめは?」
「Aランチ定食」
「ならそれを一つ。」
しばらくして、料理を運んできたウェイトレスが戻ってくると、店の奥でたむろっていた男のうちの一人が、エリー(仮)の方へ近づいてきた。
「ここいらじゃ見かけない面だが、あんたひとりかい?」
「野暮用でね。」
素っ気なく答えると、
「ちょっとゼクトさん!」
「まぁまぁ」
カウンターの店員が客をたしなめるが、客ーゼクトーはエリー(仮)に話しかけてきた。
(酔っぱらいか…)
「人を探しているんだが、金髪の10代前半の少年で…」王に云われた特徴を伝えると、
「金髪?金髪はここいらじゃ、高く売れるからなぁ。」
人身売買はここいらじゃ平気で行われているらしいことを仄めかす男。
都というには、賑やかで繁栄している様に見える反面、裏側で生きる人間もそこそこいるとか、聞いた事はあったが。
「といっても、噂話なんだけどな。」
「うわさ?」
「だってよぉ、そうそう出会えるもんでもねぇし、王様が金髪だって話だしさぁ、そっち関係者ならこの国で生きてられねぇって。」
そこにゼクトと一緒に呑んでいた別の男が近づいてきて、
「オメェ、こないだ仕事でポカしたからって、後ろ暗い事に手を出すんじゃねーよ。」
「そーだぜ、そこまで度胸のない癖に」
(見た目の柄の悪さに、危うく勘違いする所だったようだな…)
「な!いや、オレはせっかくこの美女を口説き落とそうとしてるってのに、邪魔すんなよー!」
あわてて、仲間に言うが、
「男だ。」
「え?」
「俺は男だ。すまんな。」
腰までの長髪と、中世的な顔立ちのせいで、よく間違われるが、エリー(仮)も慣れたし、
むしろ、友好的に仕事に活用することもあったため、あまり気にしてはいなかった。
「な!あんた、その面で…!?そりゃ、冗談キツぜ。」
ゼクトは驚いたものの、冗談だとヘラヘラ笑い出した。
そのまま、カウンターへ突っ伏してしまった。
「すまねぇな。コイツ酔っててよ…ついさっきも失恋したところだったんだ。」
代わりにと、詫びて来た。
「そうか…不運だったな。」
せめてものねぎらいをかけてやる。
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