表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

002

「お……?」


 歩き始めてから2時間近く経っただろうか。流石に疲れが出てくると同時に、体の違和感も薄くなってきたタイミングで、緑一色だった目の前の景色が開かれる。


 そこには、村があった。


 10個前後の民家が立ち並び、遠くには畑を耕している老人の姿も確認出来る。規模はそんなに大きくなさそうだが、ともかく人がいると分かっただけでも少し感動してしまう。


 さびれている……というよりは、牧歌的な印象を受けるのどかな村だった。ここならば、いくらか情報を集めることが出来るかもしれない。


 森から抜け出し、村の方へと歩いていく。村の中心には井戸があり、その手前で2人の主婦らしき女性が楽しそうにお喋りをしている。


 会話の内容は……おお、理解出来る。転生の特典なのかは分からないが、その辺りは問題が出ないようになっているみたいだ。

 ホッと胸をなで下ろしながら、村人たちに声をかける。


「あの、すみません」

「あら……?」


 よほど話に夢中になっていたのか、声をかけられて漸く俺の存在に気付いたようで、二人して驚いたように目を見開き、こちらに視線を向けてくる。


「少し聞きたいことがあるんですが……、いいでしょうか?」

「ええ、構わないけど……この辺りでは見ない子よね。どこかの冒険者の娘さんかしら?」


 おおう。娘さん、と来たか。

 やはりこの容姿は、誰が見ても女の子にしか見えないらしい。それに加えて、身長も相まってか、完全に子ども扱いされている。

 だが……情報を集めるという目的においては、逆に好都合かもしれない。見ず知らずの男から話を聞き出されるよりは、無害そうな女の子に質問された方が口も軽くなるだろう。

 ここはひとつ、誤解を解かずに話を続けてみよう。


「いえ、両親はいません。ここには私1人で来たんです。あの森の向こう側からなんですけど……」

「も、森の向こう!? もしかしてあなた、1人であそこを抜けてきたの!?」


 村人は驚愕の表情を浮かべて、先ほどまで俺がいた森を指さす。


「え……はい。そうですけど……」

「嘘でしょ……あなた、運がいいわね……。あそこは魔物が出るのよ? 大人だって1人では寄り付かないのに、あなたみたいな女の子が、もしゴブリンなんかに出会ってたら大変なことになってたわよ」

「え゛……」


 変な声が漏れる。

 あそこ、魔物なんかいたのかよ。いや、キャラ設定の時点でファンタジー系の世界だと察してはいたから、存在はするんだろうなぁ、とは思っていたが、まさか初っ端からそんな危機的状況にあったとは……。

 川の付近で叫んだり地面をぶっ叩いたりしていたあれは、相当危険な行動だったのかもしれない。声につられて魔物がやってきた、なんて事が無くて幸運だった。


「そ、そうなんですね……知りませんでした。その、今まで辺境の方で暮らしていたので、この辺りの事情に疎くて……。実は、さっき聞こうと思っていたのも、この辺りの常識についてなんです。私、本当に何も知らなくて……」


 ものを知らなさ過ぎて不審に思われても怖いので、それっぽい嘘をついて誤魔化す。

 ぽっと出した適当な設定だったので、少し不安だったが、村人たちはそれを信じてくれたようだった。


「そうなの……でも、魔物が出ることすら知らなかったなんて、ちょっと心配ね……」

「そうね。しかも1人なんでしょう……? ねえ、ちょっとの間村に泊めてあげて、色々と教えてあげた方がいいんじゃないかしら?」

「うーん、そうねぇ……」


 お、なんと。こちらから切り出すまでも無くそんなことを提案してもらえるとは。当分の住居に、この世界の知識。どちらも今喉から手が出るほどに欲している代物だ。

 この機を逃す術はない。俺はグイッと宿泊を提案した方の村人に体を寄せる。


「いいんですかっ!? そうしてもらえるなら、本当にありがたいんですけど……っ」

「う……」


 目をキラキラと輝かせ、上目遣いを浮かべた俺に、村人は頬を赤らめ、小さく呻く。


 その反応を見て、確信する。……殺った。ぶりっこ作戦、成功だ。


 今の俺は客観的に見て、可愛らしいか弱い少女。……自分で言うと果てしなく気持ち悪いが。

 そんな少女が目を輝かせて期待の視線を送れば、同性異性関係なく助けてあげたいと思ってしまうのが、人間というものだ。


 ……このツラでこんなあくどい事を考えている自分が、なんだか途轍もなく汚く思えてしまうが、今はなりふり構っていられる状況ではないのだ。使えるものは、全て利用して、まずはこの世界に“適応”しなければならない。


「……いいわよ、数日くらいなら食べ物にも余裕はあるし、うちにいらっしゃい。私もそこまで世情に明るい方ではないけど……夫はよく街にも出ているし、色々と詳しく話してくれるはずよ」

「わぁ、ありがとうございます……っ」


 ぶりっ子を続けたまま、俺は頭を下げる。


 ……最初は失敗したと思ったが、この容姿に設定したのは成功だったのかもしれない。まさかここまでとんとん拍子に事が進むとは……。

 やはりどの世界においても、可愛いは正義、という事なのだろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ