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見えない銃を、それなりに撃つ  作者: 進藤jr和彦
序章 見えない銃と、委員長
2/2

色々な条件を試してみる。

 一人目はクラスメイトの陽キャ、二人目は12人殺しの上級国民。


 では、三人目はどうしようかと、僕は食器を片付けた後に自室のベッドに寝転がって考えた。


 頭の中で、今の今まで殺した二人のルールを纏めてみる。


 1つ、銃の形を作り、相手に指を向けて、バンと発砲音を言う。


 2つ、直接でも録画でも、対象を見ながら1を行う。


 あの上級国民のニュースは録画だった、生放送ではない。何せあの警察が囲む映像は、何度か同じのを見たことがあるからだ。つまり、今のところ分かるのは少なくとも顔と名前さえ分かれば、この手遊び銃で殺せるわけだ。


 で、だ……ルールを見分けるために次のターゲットは誰にすべきかなと、僕は動画サイトアプリを開いた。生中継まで今はこの小さな端末で見れるのだから、本当に便利だなと思っていると、僕は見慣れた景色を映像で見つけた。


 と言うか、僕の通っている高校である。今まさに警察のパトカーが入っていて、しかも正門は閉じられ報道関係の人間が屯していた。レポーターが『今朝発砲事件が起きたとされるこの学校では……』と喋る動画の右上に『Live』と表記されている、つまりは今生中継しているらしい。


 先程殺した上級国民は録画映像だった、ならば……生中継はどうだろう。僕は寝転びながら……僕は右手の銃をレポーター……の横で背を向けて、カメラを校舎へ構えている、他社のカメラマンに向けた。


「ばんっ」


 そして撃った、瞬間……カメラマンが頭から血を噴いて倒れた。


『え、あ!きゃあああああ!!』


 カメラがブレる、リポーターが気付いて叫び、他のテレビ関係者も一気に恐怖から動揺し、そし画面が、自主規制の可愛らしい一枚絵に切り替わった。


 成る程、成る程。


 今のでルールがまた分かった、必要なのは『照準』かと、僕は淡々と頭に刻み込んだ、名前を知らないといけないだとか、そんな括りは無い。必要なのは、人物を見て狙いをつける事かと理解する。


 さて、三人殺した訳だが……うん、何もこう、感じないな。歓喜とか、哀愁も込み上げてこない。自分は昔からそうだなと、あまり感情に起伏が無い事は知っていた。


 最初は現実を疑ったが、現実と受け入れてしまえば何の事も無い、とりあえず三人殺してみたが……奇々怪界なものだと、銃を象る右手を天井に向けた。


「誰でも殺せる、見えない銃かぁ……」


 どうしろと言うのだ、こんなもの。三人も殺しておいて宣う事じゃ無いけどさ。


 例えば……同じような能力を持った奴が何人か居て、殺し合いが始まるとか。この力を使って、裁かれない悪を討つとか……そんな事も頭に浮かべど、その気にはなれないしあり得ないと寝返りをうつ。


 三人も殺したし、捕まるのかな、僕は?捕まるし、死刑だろうか?いや……そもそも痕跡とか、どうなってるんだろうか?撃ち殺したけど、弾丸とか見つかるよな?たしか、せんじょうこん?だかで断定するとかドラマで見たし……。


 自問自答をしていると、眠気が襲ってきて、僕はそのまま眠りに堕ちていった。




 夢だと自覚している事を驚いている、上下が分からない浮遊感に見舞われている中、そいつは現れた。


『よう、三田くん?気分はどうだ?』


 悪魔だ、僕にこんな力を与えた輩だ。ツノが生えていないし、翼もない。けどこいつは自らを悪魔と名乗っている、八重歯を見せて笑うラテン系の男だ。


『どうと言われてもねぇ……』


 三人殺した感想を聞いているのだろうが、言葉に詰まるよと意味を込めて僕は返した。与太話、というか突飛な現実離れの出来事であるが故に、感想も糞も無いぞと。つまらない返しだから呆れて、能力取り上げて帰るかなと思ったら、悪魔は笑った。


『三人も殺してえらく冷静じゃあないか、次は誰にするか決めたのか?』


『決めてないけど……何でこんな力渡したのさ、あー……』


『名前は無いんでね、悪魔でいい』


『悪魔さんや、僕に何を求めているわけよ?』


 悪魔に尋ねてみる、一体全体、僕に何を求めているのかと。神の代理人に出てなってほしいのか、殺戮の検証をしてほしいのか……その真意を尋ねる。


『何も求めちゃあいない、私の気まぐれだよ、その力は好きに使って構わないし、使わなくてもいい』


 悪魔だから、予想こそしていたがはぐらかされたみたいだ。これは深く聞いても答えそうに無いなと、僕は諦める事にした。


『あ、そう……因みにさ、他にこの力をーー』


『君だけさ、その殺し合いも考えたがね?ありきたりと思ったからやめた』


 そして、この能力を他に与えた奴がいて、漫画でよくある異能デスゲームとかをやらせるのか尋ねたが、それは考えていたのかよと少しばかり戦慄した。


『ともかく、その力には代償とかも無いし、私が取り上げる気も無いさ、君が死ぬまでずっとある力だから、好きに使ってくれたまえ』


 能力通り越して呪いじゃないですか、そう文句を言う前に僕の夢の景色は光に包まれた。




 結局、僕は夕方まで眠っていたらしい、時計は5時を示していた。昼寝で五時間も経過したなんて久々かもしれない、されど母はまだ帰ってきてはいなかった。


 リビングに降りた僕はキッチンに行き、コップを取り水道を捻った。ジュースとかよりも、今は水が欲しかった。そのまま飲み下せば、乾きは癒えた。テレビをつけて、ニュースをしてないか僕は確認した。


 そして突きつけられる、やはり殺したのだと言う事実。


 朝の銃撃事件として、僕の通う学校が空から撮影され、取材中にカメラマンが撃ち殺され、現場は大混乱になったと言うニュースが報じられていたのだ。また現実であると、事実を叩きつけられた訳だ。そうして僕は、ストックされた菓子たちがある棚へと向かう。もうすぐ母も帰って来るだろうし、あんまり食べれないなと物色して、丁度いい小さな袋のラーメンスナックを見つけた。


 いいな、これ。あまり腹に貯まらないサイズだなと、それを開けて、手で摘まずさらさらと口向けて傾け、流し込む。ジャンキーな濃い醤油味が口に広がっていく、それを噛み砕いて飲み込み、水を流し込む。いい塩梅だなと頷いてまたニュースを流すテレビを見続けた。


 悪魔が言っていた、次は誰を殺すか決めたのかと。決めてないし、殺す気も無い。しかしてこの手は軽く人の命を、無慈悲に、不条理に摘み取れるわけだ。


 気に入らないと感じた奴らも、街ですれ違って舌打ちしてくる輩も、あくせく働くリーマンも、観客をドーム一杯にできる人気バンドも、今政権を握っている議員達も、大会社の社長も、国を担う大統領、独裁者も……その気になれば、簡単に殺せるのだ、今の僕は。


 だから何なのだ、もう三人も殺しておいて言う言葉では無いが、それでもこの言葉が浮かんでくる。金がもらえるわけでも、殺した奴の人気や寵愛が自分に向かってくるわけではないのだ。宝の持ち腐れもいいところだろう。


 しかし……胸が空くようにスッキリしたのは本当である。あの人気者の藤原くんがいきなり死んで、12人轢き殺した上級国民が死んで、少しは日本も静かになったのかもしれない。


 つまりは、ストレス発散としては丁度いいのかもしれない、この能力は。と、そんな風に考えていると、僕はある事を思いついた。


「写真はどうなんだ?」


 そう、直視した輩も、録画した映像も、そして生中継もこの能力は発揮されたわけだ。ならば……写真や画像はどうなのだと僕は、そこから連鎖的に思い出したある事件を思い出して、スマホに事件名を打ち込んだ。


 そして検索はヒットし、画像で出てくる、出てくるその顔。その昔、いじめで自殺に追い込み、加害者側はお咎めが無かった痛ましい事件が滋賀県であって話題にもなった。その主犯格、家族の顔は、ネットに晒されている。


 主犯格、その父親、ともにまぁ憎たらしい顔をしているわけだ。よし、四人目、五人目はお前らだなと、僕は右手を銃の形に象り。


「ばんっ、ばんっ」


 撃った、二発だ。さてどうなるやら、写真でも効果があるのか知らない、もしかしたら明日の一面になるかもなと、スマホを閉じると、鍵が開いた。


「ただいまー、清四郎、帰ったよー」


「おかえり、母さん」


 母が帰ってきた、パート先のスーパーの袋を抱えて。そして袋には、昼にリクエストした白身魚フライが確かに見えた。




 白飯に、わかめとお麩の味噌汁、野菜サラダにリクエストの白身魚フライ、あろうことか母はわざわざタルタルソースまで買ってきて食卓に置いてきた。


「大変やな、ニュースみたらまた撃たれたって」


「誰が?」


「十二人轢いた人、いきなり撃たれたって……やっぱり恨まれとったんかなって」


 母もニュースを目にしたらしい、その撃ち殺した犯人は、目の前に居る息子なのだがと心中にて呟きつつも、僕はリクエストした白身フライをタルタルソースに付けて食べる。


 やはり美味しい、この組み合わせはいくらでも食べられそうだ。というか……いつも以上に美味しく感じていた。


「よう食べるね?」


 いつも以上にに食べる僕に、母は怪訝な目を向けた。クラスメイトが死んでいるのに……とでも言うのだろうか?


「藤原くんだっけ……あんた、話す子なん?」


「いや、僕基本学校ひとりだからさ」


「そう……嫌いやったん?」


「嫌いとか、好きとかじゃないよ……関係ないけど」


 母からしたら、クラスメイトが死んで飯を食えている状況が余計におかしいのだろう、何か言い訳がないかと考えて、無い頭を振り絞って出たのが。


「忘れたいんかな、さっさと……突然だったし、現実味無いしな」


 勝手な言い訳だなと僕は自嘲するが、母はそれをしっかり受け止めたようで理解した顔を見せた。


「そっか……魚フライ、食べる?」


「貰うわ」


 母が、自分の白身フライを皿から移してきて、それを頂く。それを食べて、飯も二回お代わりしたら、やっと腹が満たされた。


 そして、今日はそれから何も無かった、父が帰ってきて、少し会話して、風呂へ入り、普通に寝た。


 翌朝、朝一のニュースで、例のイジメ事件の首謀者とその父親が撃ち殺された事が報じられた。

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