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見えない銃を、それなりに撃つ  作者: 進藤jr和彦
序章 見えない銃と、委員長
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見えない銃を、手に入れて。

 冗談だと思った。


 ヤクなんてやってないし、悪い夢だと思った。実際信じられるか?夢の中で悪魔が『見えない銃をあげる』なんて言うものなんだから。『指を子供の遊びみたいにして、バンって言ったら殺せるから』なんてさ。


 エナドリ飲みすぎたんだなと、いつも通りに憂鬱な学校に登校して、騒がしい不良組が騒いでいてさ。いつも通りに寝たふりしてて……ああうざい、死ねよと思って、右手の人差し指と中指、親指を立てて銃の形を作り、ばーんっ、と言ったら。


 不良が横っ飛びに吹き飛びながら、側頭部から血を噴き出して死んだ。


 騒いでた取り巻きも、何事かとしばらく時間が止まるし、床に頭から血を流して不良が死んだと理解して、女子生徒が悲鳴を上げた。


 夢だなと、割と僕は冷静だった。


 あり得ないじゃん、馬鹿みたいじゃん、子供の遊びみたいに指の銃でマジで死ぬなんて。厨二病の妄想でももっとマシだと、僕は頬をつねった。


 痛い。爪を立てて、さらに痛い。


 現実かよ……。


 高二の春、僕は見えない銃で、人を殺した。




 自己紹介をしようと思う。


 名前は、三田清四郎(みたせいしろう)。普通科の学生で……群れないと言う虚勢(きょせい)を張り、一匹狼を騙る(かた)ボッチであり、カースト外の存在と嘯く(うそぶ)最底辺だ。いや、最底辺のさらに下、奈落の底だ。


 これなら底辺組のアニオタグループの方が楽しかろう、存在を認知すらされていないのが僕だ。遊びに誘われることもなければ、いじられる事もない、クールを気取る根暗が僕だ。


 男子には『うわ!居たのかよ!?』を年4.5回言われ、女子には『あいつってキモいよね』すら、言われない。卒業アルバムの寄せ書きは真っ白となる未来が待ち、写真を見たら『あーこいつ同じ学校だったんだ』と言われる未来が見て取れる、それが僕だ。


 故に、平和でもある。残念ながら平穏なのだ、我が学校生活は。いじめも、楽しいことも無いけど、ひたすら勉強はできた。けど、頭いい奴には及ばないし、大学に行く気にもなれないし、何よりそんな経済力うちには無い。


 奨学金なんかも、後々の枷となるくらいなら借りたく無いし、さっさと就職して金を貯めて余生を考えようとすら思っていた。趣味も、ゲームとかはするけど上手くはない、お洒落にも興味無い。


 宙ぶらりんがこのまま、死ぬまで続くんだなと思ったら、なんでこんな事になったのだろう。


 緊急の休学となり、即時帰宅から自宅待機を命ぜられ、言われた通りに家へ帰り、自室のベッドに包まっていた。自責の念も感じたが、それよりも夢であってくれと言う願いと、本当に自分が殺したのかという疑念もあった。


 一番強かったのは、あのカースト上位組の不良、死んでざまぁみろだった。そしてそんな気持ちへの自己嫌悪から、吐き気を感じ……たりはせず、この悲劇に同情して欲しいなんて下衆な心で自己嫌悪のふりをしているのだ。建前という奴である。


 親にも連絡が行き、母が居たので事情を知るや車を出そうか、大丈夫なの?と、普段とは違って血相変えた声色が携帯から聞こえた時は、少し安堵した。心配してくれているのか、あれだけ毎日僕やら父に、嫌味やら何やら吐き散らしときながら。


 じゃあ、車で迎えに来て欲しいと言ったら、本当に来たんだ、母は。そうして質問攻めだ、大丈夫だったのか、犯人は捕まったのか、クラスメイトが気の毒でならないと、普段あまり話もしないくせに、この時ばかり母は、まるで自分自身も安心が欲しくて応答を迫った。


 学校の生徒が頭を撃たれて死んで、しかもクラスメイトなのだ。つまり自分の子も二次被害に遭ったらと思ったのだろう。


 その殺した犯人、僕なんだって言ったら、母は冗談でも辞めなさいと激怒して、僕を引っ叩くだろうな。信じる気も無ければ、そんなわけあるかと信じたくもないし。でも今だけは……母に殴られたかった気持ちもあった。


「清四郎、ご飯できたから降りてきー!」



『ーー以上となります、また死亡した学生は頭部を銃弾らしきもので撃ち抜かれたとありますが、明らかとなっておりません』


 無論だが、この事件は報道された。


『白昼の発砲!高校生一名が死亡』という題目で、全国に報道されている。


 しかも、昼だ。微かにヘリの音を聞いたが、報道ヘリにマスコミ、無論警察も集まっての大騒動となっている。何しろテレビの上空から映る学校が僕の学校だからだ。


「あんた、今日は外に出られんで?明日とかも聞いてくる大人いるけど、無視しんさいな?」


「わかってるよ……」


 平日の昼飯を家で食べるのは、久々だった。あんまり良いものが無いからと、母が作ったのはチャーハン……いや、焼き飯だった。焼き飯なのだ、所々飯の塊がある、市販のチャーハンの素を調味料に、焼き豚代わりのちくわ、玉ねぎ、にんじんの入った焼き飯だ。


 クラスメイトが死んだから、肉なんて無理だろうと気を利かせてくれたらしい、焼き豚じゃなくてちくわをわざわざ使った、冷蔵庫にまだパックされていた焼き豚があったから。


 濃くて塩辛い、けどそれがなんだか安心してしまう。殺したのは自分なのに、悠々と昼飯をかっこんでいる自分、かちゃかちゃと食器を鳴らして、母は先に食べ終わるや、さてとと呟いた。


「母さん、パート戻るから……外出なさんなよ、ゲームもなんでも好きにしたらええから、外はダメ、お菓子も戸棚にあるから」


「行かないって……」


「欲しいもんあるか?帰りに買ってくるから……」


「いやええって、そんな気を使わんでも」


「なら、夕飯食べたい物、ある?」


「え……白身フライ?」


「惣菜やけどええか?」


「うん」


 口うるさい母が、気味の悪いほどに気を遣ってくる。勉強しろだ、菓子は開けるな煩い母が……ゲーム好きなだけしとけとまで言ってきたのだ。夕飯まで聞いてきて、思わず白身フライを惣菜で頼んでしまった。母はそのまま玄関まで行き、そして出て行った。


 静寂が我が家を包んだ、目の前の焼き飯を口にしながら、僕はニュースを見る。


 僕が殺した、カーストトップのヤンキー……名前は同じクラスなのに知らないから、初めて名前を見たかもしれない。藤原拓哉なんて、ありふれた名前だなと思いながら、僕はこいつを殺したのかと改めて実感する。


 実感したら……こう、映画だったら吐き気を催しトイレに駆け込むんだろうが、むしろ焼き飯を掬うスプーンが更に早くなった。別に藤原と揉めたことも、離したことも無いし、あいつも僕など知らないだろう。


 そんな人気者の藤原くんの人生を、僕は遠慮無く、ヤクの幻影じみた夢を信じた試しに僕が終わらせたのだ。


 飯が美味いな、うん。本当に美味い。


 彼は順風満帆だった人生が、明日も続くと思ったら、全く頭の隅にも無い僕に殺されて終わらされた、いきなり閉幕したのだ、理不尽に、無情にも。


 作り置きの、大きな皿に盛られた焼き飯を皿へおかわりしながら、僕はニュースを見続ける。そして次のニュースが流れた。


『続いてのニュースです、一昨年、4月に起きた東京池袋の暴走事故で、過失運転致死傷罪に問われていますーー』


 僕はそのニュースに目が向いた。痛ましい事件で、今もまだ裁判が続いているらしい。中々に話題となった事故だ。


 確か、今ニュースに映っている被告が、やれフレンチのランチに急いだかで暴走し、12人も殺めておきながら、未だに牢にも入れられていないという。


 あれから二年か、未だにこの被告は『車が故障していた』だの『アクセルとブレーキを踏み間違えた』と言い訳をしているらしい。


 12人も殺しておいてだ。12人殺しておいて、まだ宣っているのだ。しかも経歴をみれば元官僚のお偉いさんだかで、それが理由だろうとネットで炎上もした。『上級国民』というやつだったか。


 今度の聴取では『ブレーキが壊れていた』と宣ったらしい。それがニュースに流れて来て、僕はふと右手を見た。あぁ

こんな奴らで試せばよかったなと、僕はテレビに映る、自動ドアから警察に囲まれて、杖を両手について歩く例の被告を見る。


 まぁそもそも、一度きりかもしれないし……こいつは誰もが死を望んでいるだろうし、良い試しになるかなと僕はテレビに向けて右手を銃のにしてーー。


「ばんっーー」


 銃を撃った振りをした。反動が有るかの様に右腕を跳ねさせて、しばらくテレビを見つめたが……まぁ、そんなわけ無いわなと、僕は恥ずかしいと、羞恥を消し去る様に、皿へ盛りつけた焼き飯のおかわりを食べようとしてーー。


『えー続いては……え、は、はい!速報です!先程お知らせしました池袋暴走事故の被告が、搬送中に撃たれたとの事です!被告は突然額を撃たれたとなっています!』


 スプーンを落とした。


 いやいや、冗談だろ?しかしテレビのニュース番組のテロップには速報の白い文字が浮き出ている、スタジオも慌てふためく様子に、僕は血の気が引いた。


 本当に、そうなのかとスプーンを握っていた手を僕は見た。この右手に、あの悪魔が、銃を渡して来たのかと僕は右手のひら、手の甲を注視する。


 何の変哲も無い、ただの手が、拳銃の形を作って子供の遊びの様に一声上げるだけで、人を殺したのだ。しかも……二人だ、たった一日で二人も殺したのだ、この僕が。


 僕はスプーンを取り、それを持って台所に行きスプーンに洗剤を付けてスポンジで擦り、泡を流してからまたテーブルに戻って……焼き飯を食べ始めた。


 吐き気も無く、ただ焼き飯が、なんだか美味いのは分かる。二人を殺した事実を反芻しても、気持ち悪さが無い。何故だろうかと僕は自らに問いかけた……。


 例えば、僕自らが刃物とかで刺し殺したりしたら、刺した感触を手に感じて気持ち悪くなるだろう。あり得ない話だが、銃で撃ち殺したなら、銃の反動やら、火薬の匂いが鼻に付いて脳に刻まれ、実感として残るから気持ち悪くなるのかもしれない。


 だが、この手は遊びの手なのだ、子供のごっこ遊びの延長線にあるのだ、この銃は。見えない銃とでも称するべきなのだろう、焼き飯を全て胃に収めて、僕は一息つくと、ニュースがまだ続いているのをただ無気力に見つめた。


 何故……何故僕にこんな力が宿ったのだろうか?昨晩の夢に出た悪魔も、もっと居ただろうに。例えばそう、僕が殺したカーストトップの、藤原くんとか。嬉々として大虐殺するだろう。


 カースト最下位のオタクの誰かでもいい、それこそトップの奴ら、リア充やらを殺してただろうさ。


 稀代の天才ならば、新世界の神になろうと意思を固めるやもしれない。心優しき輩なら、自らの頭を撃ち抜いたかもしれないだろう。


 何故僕なんだ、そもそもまだ夢の中なのかな、願望にしてもねじ曲がりすぎだろう僕。そう自答しつつ、また右手で頬をつねる。やはり痛い、現実だわこれ。


 何故だ、何故だ、何故だ。


 こんな馬鹿げた能力か魔法か渡して、僕にどうしろというのだ悪魔よ。これなら薬中の幻影であって欲しかった……なんて思わなかった。むしろ……。


「ルールが絶対あるよな……」


 まだ、僕は人を殺そうとしていたのだ。



 

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