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3)連隊長の立場

 三人だけとなった部屋に、沈黙が降りた。

「現実問題、私たちの連隊長の身に何かあったらどうなると思いますか」

カールは声をできるだけひそめた。


ローズを最初に連隊長と言ったのはレオンだ。情に厚く手厳しいローズの指導が、レオンの知る連隊長によく似ているらしい。それ以来、三人は、ローズを連隊長と呼んでいた。

 

「法的には確かに、僕らの連隊長にお伝えしたように賠償金の支払いのみです。成人前の少女ですから、金額もさほどではありません。詳細は忘れましたが、成人女性の半額です」

マーティンも囁くような声で答えた。

「法律はそうだろうな」

レオンも声を抑えようとしたが、自分でもあまり効果が無いことを実感した。


「王太子様は、それでご納得されるでしょうか」

マーティンの言葉に、カールもレオンも首を振った。

「範を示されるべきお立場ですから、法を超えた処罰を相手に与えるわけにもいかないでしょう」

「連隊長に、必ず一人は近習を付き添わせているのは、万が一を防ぐためでしょうか」

「そうだろうな」


レオンの頭に浮かんだのは先日の手合わせの結末だ。エドガーは、たかが近習と思っていたが、並みの騎士よりよほど腕が立った。エリックも同じ程度の腕前である可能性が高い。


「今日、エリックさんが席を外したのは」

「ようやく我々が後任として認められたということなのだろうな。君が一言いただいたのも、その証拠だと思う。あれはいい。父上も感心しておられた」

レオンの言葉に、マーティンが赤面した。


「あれは、あれは、その」

「あなたに必要な考え方だと思いますよ。勉学に関しては、法律家のあなたは、私達に一歩も二歩も先んじておられます。もっと自信を持ってください」

「そうおっしゃっていただけると、心強いのですが」


マーティンは三人の中で一番賢いはずだが、一番自信がない。

「小さな連隊長から君は、どうしようと言う時に、心配するのではなく、どのようにしたらよくなるか考えてはどうかと、おっしゃっていただいたろう。私達三人は、ようやく後任として認められたんだ。では、その信認にこたえるには、私達三人は何をしたらいいかということを考えるべきだ」


最後に認められたのが自分だと言うのが、レオンには癪ではある。周りが見えていなかった自分が蒔いた種だから仕方がない。アレキサンダーとローズの期待を上回るような、父と兄と一族全員がレオンを認めるような功績を立てて見せるとレオンは心の中で誓っていた。


 アレキサンダー様の立太子に反対している連中は、内心失敗を願っている


 先日聞いた、エドガーの“独り言”がレオンの頭をよぎった。アレキサンダーに一任されているイサカの町の疫病という問題は、終息間近となりつつある。成功は見えてきた今、彼ら反対派は相当歯噛みしているだろう。現国王アルフレッドの息子であるアレキサンダーの立太子に反対するなど、思い上がりも甚だしい連中だ。レオンは、悔しがっているであろう奴らに、さらにもっと大きく一泡吹かせてやりたくなってきた。


「じゃあ、まずは僕らが、頑張らないといけませんね。良い結果を出して、ローズ様がこの国に貢献されるお手伝いが出来たら、きっと下手な手出しをする人はいなくなります」

「あぁ」

 マーティンの言葉にレオンは頷いた。


「良い結果とは何だろうな」

レオンは、アルフレッド国王から褒賞を頂けるような結果を、アーライル家の陞爵につながるような結果を出したい。


「私は商人ですから、町の産業が復活するような、何か新しい商売を始めたいものです。私はなんとしても、兄の商会から独立して、自分の商会を持ちたいのですよ。先日の、ローズ様のお話、可愛らしいお話ですが、良いと思いませんか。何せ、商売は女性の心をつかむってのが大切でしてね」


椅子に深く座っていたはずのカールが身を乗り出してきていた。

「先日のって何ですか」

マーティンが相変わらずであることが、こんなに助かるとはレオンも思っていなかった。可愛らしいお話と言われても、レオンにもさっぱり覚えがなかった。


カールが大仰にため息をついた。

「これだから、男ってやつはと、我々男は言われるのですよ。いいですか、商人の私が、イサカの町のためにできることと言ったら商売です。ほら、ローズ様が、おっしゃったじゃないですか。新しい商売、贈られた人も贈った人も嬉しい気持ちになれる素敵な贈り物ですよ。何か思いつきませんか」


カールの言葉に、レオンとマーティンは、考えてはみた。

「私は、エドガーや兄上に勝てたら嬉しいが、それは参考にならないだろう」

「おっしゃるとおり、却下です」

「僕は、師匠に認めていただきたいですが、僕個人の問題ですしねぇ」

「はい。やはり却下です。お二人とも、もっと真剣に考えてくださいよ。本当にこれだから、男ってやつはいけません」

「あなたも男性ですよ」

間髪入れずカールに抗議したマーティンの言葉にレオンも頷いた。


結局、その日の会話はエリックに連れられたローズが戻ってそれまでとなった。


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